162.密会
「んぁ、おッ、奥様! いけません、このような場所で誰かに見られてしまっては大変です!!」
「あらぁ? やぁ~ねぇ怯えちゃって。でも可愛いわぁ、んっふふ!」
スピナは余裕の表情と口調で言葉を返す。
「いえ、そのですね」
「だぁ~いじょうぶ、大丈夫よ。そんなに慌てなくっても……何故なら此処にはね――だぁれも、寄り付かないんだから」
「そ、そう、そうなの、ですか」
この関係を知られてはいけないと必死な様子で焦る訪問者は心配そうにスピナの肩に両手を置くと少し気を遣いながら、距離をとる。
しかし彼女は「今は私たち二人しかいないから」と笑い彼の身体に身を寄せ、その唇をまた奪う。
彼女は全く、その持論を疑わない。
なぜなら言う通り屋敷の裏側に位置するこの不穏な空気を醸し出す中庭へ、用事もなくわざわざ来る者など、いないからである。
「あぁ……ん……ぁ、ぃぇ、あの、しかし! スピナ様。“もしや”ということも、無きにしも非ずで……兎にも角にも、今は大事な時期で――」
息を荒くしながらも理性を保ち慌てて状況を説明しようとする訪問者の言葉にスピナは、鼻で笑う。そして耳元へ唇を触れさせ、意味深な言葉を囁く。
「ふぅん、真面目ねぇ。んっふ、いいわ~そういうところも好きだから。じゃあ、この私……いいえ、オニキスの話でひと〜つ二つ、良い事を教えてさしあげるわねぇ」
「ふっ……あぁ、はい、ありがとうございます!!」
頬を赤らめた訪問者はそう、嬉しそうに答えた。その二人のやり取りを聞きたくもないが聞こえてくる状況。ジャニスティの顔と心の中は不快感で埋め尽くされていく中で小さくボソッと、呟いた。
「こいつらに全く興味はないのだが」
もう丁寧な言葉も使えない程に、怒っていた。
しかしそれ以上に彼はスピナの発した言葉が気になって、仕方がない。
(『オニキスの話』とは? 旦那様が困るような、何かを知っているのか?)
訪問者の反応にさらに気を良くしたスピナはニンマリと笑みを浮かべ勝ち誇ったような気分で、口を開いた。
「んっふふ。しっかりとお聞き下さいねぇ? 実はオニキスには魔力がない。つまり――“魔法が全く使えない”のよ」
「――なッ! なんと」
(くそっ! こいつ、旦那様の事を部外者に……何を企んでいる!?)
彼の怒りはもうそろそろ限界値に、達する。しかしここからさらに驚愕する秘密を、聞く。
スピナはまさか聞かれているとも知らず愉快そうな顔でペラペラと、しゃべり始めた。




