159.寝顔
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――夢の種族『レヴシャルメ』。
レヴ族にとって命とも言われる“純白の美しき羽”。
その大切な羽を奪い取られ瀕死の状態だったクォーツが助かったのは、自身の全魔力を投じ羽の復元を成功させたジャニスティの魔法によるものである。
その後、不思議なことにクォーツは自分自身で体力(魔力)を回復させ少しだけ成長し、大きくなっていた。しかし実際の年齢はまだ分かっていない。
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ジャニスティの癒やし魔法――ルポ(安らぎ)により一時の苦しみから解放され気持ちよさそうに眠っているクォーツを自室へ運び、寝かせる。
すると彼はやっと着いたと言わんばかりな安堵の表情を浮かべ少しの間、ベッドに腰掛けた。
「初めて会った一昨日の夜とは、大違いだ。なぁ? クォーツ」
良い夢でも見ているのか? ニコっとあどけない表情で眠るクォーツにフッと笑い、呟く。
ジャニスティはクォーツと出会ってからの短い時間で深く、濃い経験をしていた。それは自分自身の中に長年染み付き固まった考えを変える、きっかけとなっていたのである。
その一つは自分の魔力を分け合ったことで互いに通じ合う心を得た、クォーツの存在。まるで血の繋がった本当の家族だと錯覚する“思い”。
そして幼い頃からお嬢様付き世話役として傍で見守ってきたアメジストへ、感じたことのない感情――“想い”だ。
(とにかく今は、私に出来る最善を尽くそう)
「そういえば、あの屋敷」
――クォーツの仲間と思われるレヴシャルメたちは皆、本当にいなくなってしまったのだろうか?
ふと、そんなどうしようもない事を考えてしまったジャニスティはすぐに気持ちを入れ替えた。そして横にいる愛らしい妹クォーツの寝顔を少し、悲し気な心情で見つめる。
「……あぁ、行かないとな」
様々な気持ちが交錯する中で彼はクォーツに笑顔で「良い子にしているんだよ」と、囁いた。
「さて、行くか」
本当は傍にいてあげたいと思う自身の気持ちを振り切り、鼓舞するかのように声を出したジャニスティはすくっと、立ち上がる。
当主であるオニキスの予定はジャニスティも多少なり、把握している。その為オニキスが仕事で出掛ける時間を逆算して考え、あまり時間がない、迫っていると急いでいた。
キィー、ガチャ……カチャリ。
ゆっくり部屋の扉に鍵を掛けると足早に、オニキスがいるであろう部屋へ向かう。変更があったと思われる祭典の件と、クォーツが恐らく事件の生き残りである可能性を、報告する為に。




