11.承認
――ギィー……。
後ろ髪を引かれる思いでアメジストは入り口の扉へ手を置き、ジャニスティの部屋を出ようとする。が、しかし――二人の事が気がかりで仕方がない。早くここを出るようにと言われていた彼女だったが、足が止まってしまう。
「あの、ジャニス?」
「……」
ジャニスティは集中しているのか? それとも彼女の声が小さすぎて聞こえないのか? 返事はない。「このまま出て行ってしまったら、きっと後悔してしまう」そう思ったアメジストは、今の気持ちを彼に伝える。
「聞こえていなくてもいいの。でもこれだけは言わせて! ジャニス、どうか無理はしないで。その子の命はもちろん助けたいわ。でも……でもね。あなたの身に何かあったら私、悲しいの」
――きっと、耐えられない。
ベッドの部屋にいるジャニスティの白いシャツが、少しだけ見える。ピクリともしない大きな背中から、やはり返事はなかった。聞いてくれているのかも分からぬジャニスティの姿をもう一度遠くから見つめ、入り口に向き直った。寂しい気持ちになりながらもゆっくり扉を開く。周りに誰もいない事を確認すると、静かにその場を後にした。
ガチャ……――コツ、コツ……。
足音が遠くなっていく。アメジストが部屋から離れたのが分かると、ジャニスティは扉へ向かい鍵を閉める。そして、小さく呟いた。
「お嬢様、ありがとうございます」
ベッドへ急いで戻ると、心痛な面持ちでレヴシャルメ一族の生き残りと思われるその子に話しかける。もちろん意識のない状態で答えが返ってくる訳はないのだが、レヴ族への敬意と許しを得たいという思いからの行動であった。
「夢想のレヴシャルメの血を継ぐ者よ。これから私が起こす行い――どうか認め、許しを」
――今後、どのような未来になろうとも。
承認を求める言葉を、眠るその子に告げるジャニスティ。そしてアメジストの準備した透明ガラス皿に入った水を確認すると、それが置かれたテーブルの引き出しを開ける。そこから彼が取り出したものは、手紙などを開封する時に使うペーパーナイフであった。
「許せ、こうするしか方法がないのだ」
スーッ……――ポタ……ポタッ。
◇
急ぎ足で自分の部屋へ向かうアメジスト。そして運良く、誰にも会わずに辿り着く事が出来た。
ガチャッ――パタン。
「はぁ~、無事に」
――でも。
明日一日、絶対に部屋へは近づかぬようにと言われているアメジスト。しかしその心はざわつき、不安が過ぎり始めていた。




