103.孤独
クォーツが皆から「可愛いお姫様」と喜び受け入れられたことにホッと安堵の表情を浮かべたアメジストも窓際にいるクォーツの傍へ行き、寄り添う。
その三人の様子を難しい顔で見つめるジャニスティの心には様々な思いが、かけ巡る。そして少しだけ胸の奥でざわざわとした侘しさを、感じていた。
(……何だろうな。奇妙な気分だ)
「ジャニスティ様、素敵な妹さんですね」
「――!?」
味わったことのない、感情。自分の中にあるその気持ちに少しばかり気を取られていたジャニスティは背後からの気配に気付くのが遅れ突然の声に、身構える。
(なんだ、この気配は――誰だ?)
一瞬だけ驚き眉をしかめるがすぐに表情を戻すとジャニスティはいつもの無表情で、振り返った。そして声の人物が誰なのかを確認し、返事をした。
「……あぁ、ありがとう」
物音を立てないようこっそりと話しかけてきたのは、早朝にアメジストと素敵な時間を過ごし自分の意志と強い心を持ち始めていた、ラルミだ。
(この者は……確か)
ラルミはアメジストが生まれるずっと前から、ベリルの傍にもいた者。後にベルメルシア家に来たジャニスティでもよく見覚えのある、お手伝いだ。その嬉しそうな屈託のない笑みで話された言葉に固くなっていたジャニスティの心は少しだけ、和らぐ。
「いえ、お嬢様のお顔がとても幸せそうで……きっとまた」
ハッとしたラルミは何かを言いかけて手を口に当て、話を止める。
「ん? 『きっとまた』とは」
「あー、いえいえッ! 何でもありませんので」
「……そうか」
(何を言いかけたのか。言葉の続きが気になるが)
――今のところ彼女を見る限り、危険要素は無さそうだな。
そう頭の中で考えているジャニスティの顔はピクリともせず、無表情。するとラルミはふと何かを思い出したかのように、慌て始める。
「も、申し訳ございません、ジャニスティ様! 私ったら、つい……朝食の準備へ行かないと」
突然、強張る表情に変わり「それでは」と頭を下げ去って行く姿はジャニスティに、孤独という溜息をつかせる。
「まぁ、いつもの事だが」
普段、屋敷内では無表情な印象のジャニスティ。何事にも冷静で動じない人だと言われていた。
その背景には――ベルメルシア家に来てから彼の警戒心は“ジャニー”としての人生を送っていた頃よりもさらに厳しくなり、周囲に対して眼光鋭く見ているためであった。
その厳たるジャニスティの事を近寄りがたい御方だと皆、感じていた。




