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航空傭兵の異世界無双物語  作者: 弐式水戦
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第62話~聖女達との別れ~

 時間は流れ、空が赤く染まり始めた頃。ヒューズ村の門の前には、神影達冒険者組と、村長とルドミラを筆頭とした村民達が集まっていた。

 航空ショーを終え、暫く村長宅に戻って寛いでいた神影達だが、もうルージュへ帰る時間になったのだ。


「それでは皆さん、どうかお気をつけて」

「はい、村長さん。短い時間でしたが、お世話になりました」


 何ともありふれた別れの言葉を返し、村長と握手を交わす神影。

 その傍らでは、エーリヒがリーネとルドミラに抱きつかれ、別れを惜しんでいた。

 この別れの場でも相変わらずのハーレムを見せつける相棒に、神影は思わず苦笑を浮かべる。


「ミカゲさん」


 そうしていると、今度はエレインが神影の前に歩み出る。


「とうとう、お別れの時間になってしまいましたね………」

「………ああ」


 寂しそうに言うエレインにコクりと頷く神影だったが、そのまま会話は途切れてしまう。

 そんな沈黙に耐えかねた神影は、他にも何か気の利いた事を言うべきなのではないかと考えを巡らせる。

 だが、彼が言葉を考え付くよりも先に、エレインが言葉を続けた。

 

「"黒尾"の一件から、今日まで……………本当に、ありがとうございました」


 そう言って、エレインが深々と頭を下げる。


「これまで、貴方達にしていただいた事は………絶対、忘れません………ッ」


 言葉を続けるにつれて、エレインの声が震える。

 

「ちょっ、止めてくれよエレイン。一生の別れって訳じゃねぇんだし」


 エレインの肩を優しく掴み、頭を上げさせた神影は、彼女の両目に溢れていた涙を優しく拭った。

 

「す、すみません………こんな、つもりでは……」

「………………」


 神影は何も言わず、ただ優しげな表情を浮かべて、彼女の頭にポンポンと手を置いた。

 彼等が共に過ごした時間は半月にも満たなかったが、その質が濃密で、双方にとって貴重なものだったと言うのも、また事実。

 神影とエーリヒの関係程ではないにせよ、彼等の間に強い結び付きが出来ていたのは間違いないだろう。


「大丈夫よ、エレイン。絶対、また会いに来るから」


 其処で、ずっと傍らで聞いているだけだったアメリアが話に入ってくる。


「こう見えてボク達、冒険の経緯で出会った人の所はちょくちょく訪れているからね」

「ん………また、必ず来る」


 同じようにやって来たオリヴィアとニコルも、アメリアに同調した。

 "黒尾"に捕まる事から始まった、彼女等の縁。それは、今では互いにかけがえのない存在になっていた。

 

「皆さん………!」


 感極まったかのように、神影から一旦離れたエレインは3人に駆け寄り、抱き合った。


「…………」


 彼女等の抱擁を温かい目で見守る神影だったが、こんな調子で何時までも留まっている訳にはいかない。何事も、キリの良いところで切り替えなければならないものなのだ。


「………そろそろ、行くか」


 せっかくの雰囲気に水を差す事を申し訳無く思いつつ、おずおずと声を掛ける神影。


「………ええ、そうね」

「ん……」


 そう答えたアメリア達が、名残惜しそうにエレインから離れる。

 リーネやルドミラに抱きつかれていたエーリヒも、神影の元へと戻ってきた。


「それじゃあ、エレイン。またな」

「ええ」


 頷いたエレインは神影に歩み寄り、そっと神影の頬にキスを贈った。


「………ふぁ?」


 『今、何された?』とばかりに間の抜けた声を漏らす神影。


「ふふっ………おまじない、ですよ」


 そんな神影に耳打ちし、エレインは赤く染まった顔を隠すかのようにさっさと踵を返し、リーネとルドミラを連れて村長達の元へと戻る。


「あははっ、やっぱり最後はこうでなきゃね」


 呆けた表情で、キスをされた頬に手を添える神影に、エーリヒはニヤニヤと笑みを浮かべて言う。


「おや?そう言うエーリヒだって、さっきリーネ達にキスされてなかったかな?」

「グハッ」


 だが、オリヴィアからの予期せぬカウンターパンチを喰らい、エーリヒは呆気なく撃沈した。


 その後、一行はヒューズ村民達に見送られながらルージュへ向けて歩き出したのだが、エレインに対抗心を燃やしていた"アルディア"の3人が、神影の頬にキスをしたのは余談である。



──────────────



 ヒューズを出発した神影達がルージュに到着する頃には、空は暗くなっていた。

 

「それじゃあ皆、また明日な」


 ギルドで依頼達成の報告を済ませ、神影とエーリヒは"アルディア"の3人と別れ、ルビーンへ向けて走り出した。

 "アルディア"3人は、1度、宿に泊まったらどうなのかと提案した事があるのだが、神影達は鍛練と節約のために断っていた。


「「……………」」


 ルビーンへの道中、街道を駆け抜ける2人の間に会話は無く、ただ彼等が走る音と、それによる風で草木が煽られる音が小さく響いていた。


「………何と言うか、今日は色々ある日だったね」


 その沈黙を破ったのは、エーリヒだった。


 マッドウルフとの戦闘や、ヒューズでのルドミラとの再会、航空ショー。今日1日だけで、彼等はこれだけのイベントと出会していた。


「ああ。こんなにも濃い1日を過ごしたのは、"黒尾"の一件以来かもな」

「間違いないね」


 そう相槌を打ったエーリヒは、不意に微笑を溢した。


「どうした?」

「いや、今の生活は本当に幸せだと思っただけだよ。城での生活を続けていたら、こんな体験は絶対出来なかっただろうし」


 城での生活は、ただでさえエーリヒや神影にとっては肩身の狭いものだった事に加え、行動出来るエリアも、王都内に制限されている。

 それと比べると、こうして誰にも見下される事無く自由に行動し、様々な経験を積めると言う今の生活は、彼等にとって幸せなものだった。


「それもコレも、全て君に出会えたからだね」


 そう言ったエーリヒは、走りながら手を差し出した。


「だから、これからもよろしくね。ミカゲ」

「……………」


 そんな彼を呆然と見つめていた神影は、フッと笑みを浮かべてその手を握り返した。


「おう。此方こそ、改めてよろしく頼むぜ」


 そう言って、神影とエーリヒはどちらからともなく笑い出した。


 経緯こそ違えど、城では"落ちこぼれ"と呼ばれ、蔑まれ、理不尽な扱いを受けてきた2人。

 そんな中で出会い、時には遊び、時には訓練で互いを高め合い、そして城を出てからは、人を殺す事の辛さや罪を分かち合い、様々な経験を積み重ねてきた。

 今や彼等2人の間に芽生えた絆は、切っても切り離せない程強固なものになっていた。

 それこそ、神影と太助、幸雄の3人の絆に並べる程に。



 夜空に輝く月や星に見守られながら仲睦まじく自分達の住居に向けて走る2人だが、彼等の元に勇者や騎士団がやって来るのは、これより5日後の事である。

久々の投稿です。


文章や展開をどうするか考えてたらスッゲー遅くなりました…………

しかも、その割には短いし………orz

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