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航空傭兵の異世界無双物語  作者: 弐式水戦
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SS5~桜花の過去・第1部~

今回から桜花編に入ります。

「今日も………彼の手掛かりが掴めないまま終わってしまいました…………」


 古代神影さんが王都を出たと言う知らせを受けてから数日、沙那さんや奏さんと共に、彼の手掛かりを掴むために王都を歩き回り、道行く王都の人々に訊ねたものの、結局何1つとして手掛かりが掴めないまま城に戻ってきた私は、自室の窓枠に凭れてそう呟きます。

 明日からは、最近は行われなかった1日迷宮に潜っての実戦訓練が再開されるのですが、実力的に無理だと判断し、城に残って訓練する事を選んだクラスメイトも数人居ました。

 私や沙那さん、そして奏さんも城に残ろうとしたのですが、『城での訓練は実力に合わない』と勇人さん達に押し切られ、迷宮での訓練に参加する事になってしまったため、暫くの間、彼の手掛かりを探す事が出来なくなってしまう事になりました。

 

「……いいえ、これ以上王都内で彼の事を探しても、意味は無いでしょうね……………」


 何日も探して情報が全く掴めなかったのだから、もう王都内で彼の情報を得る事は、期待出来ないでしょう。


 頭を振って溜め息をついた私は、部屋の隅に置いてある鞄から、ある出来事の後、両親に買ってもらった携帯電話を取り出して眺めました。

 この小さく薄い箱のような機械の中には、古代さんとの思い出が詰まっています。

 それこそ、この大きく膨らんだ胸の中に抱えきれない程に………

 

「古代さん………」


 そっと携帯電話を抱き締め、私は彼と出会った時から今に至るまでの経緯を思い出しました。



──────────────



 彼と出会ったのは、今から約2年前。高校受験を終え、合格発表の日を待っていたある日、とある大きな駅と直結している地下街の広場でした。



 その日、私は母にお届け物を頼まれて、少し遠い町に住んでいる親戚の家に行っていたのですが、幼い頃から神社の手伝いをして、外に出る事が殆んど無かった私にとって、学校の遠足以外では殆んど使う機会が無かった電車は、15歳になっても未だに慣れないものでした。

 それも、1人で幾つもの電車を乗り換えて行かなければならないのだから、尚更です。


 携帯電話の中でも最新のモデルであるスマートフォン、略称スマホを使えば、地図や電車の経路、はたまた時刻や遅れ等の情報が直ぐに分かると同級生達が話しているのを何度も聞きましたが、当時、携帯電話を持った事が無い私には、次元が違いすぎて理解出来ませんでした。

 

 それはさておき、出掛ける前に母に手渡された、地図や電車の経路が書かれた数枚のメモを頼りに、右往左往しながらも何とか親戚の家に辿り着いた私は、頼まれたものを渡すと、そのまま来た道を逆戻りしていきます。


 1度通った道なのに何度も間違えながら、漸く駅直結の地下街への入り口を見つけ、階段を下りていきます。

 後は駅へ向かい、電車に乗って家に帰るだけなのですが…………其処で、私の中に居る悪魔が、こんな事を囁いたのです。



──寄り道、したらどうだ?



 最初こそ、そのような事をしている場合ではないと頭を振る私でしたが、見渡す限りに広がる広場や、其所から幾つもの方向に分かれて伸びる道にある様々なお店が、その悪魔と一緒になって、私を誘惑します。


 寿司や肉料理と言った、様々な種類のレストランや喫茶店、居酒屋、スイーツの売店、本屋、可愛らしいアクセサリーショップ等、家と神社と学校ぐらいしか行く場所が無く、外の世界を殆んど知らない私にとって、其所は未知なる世界でした。

 当然、興味をそそられます。


 幼い頃から、両親からは『寄り道は絶対にするな』と何度も言い聞かされてきました。

 今回も、寄り道をするべきではないでしょう。何せ、此処は学校の通学路や、家と神社までの道のように何度も行き来する場所ではなく、その日初めて来た場所なのだから。


「…………やはり、帰りましょう」


 そう呟き、羽織ってきた上着のポケットからメモを取り出そうとする私ですが、其処でまた、悪魔の囁きが脳内に響いてきたのです。



──本当に、それで良いのか?



 その声を聞いた私は、メモを取り出しかけていた手を止めます。

 そんな私に、悪魔は続けて語り掛けてきました。



──今日を逃せば、こんなチャンスは2度と来ないかもしれないぞ?



 確かに、悪魔の言う通りです。

 このような事は、普段は両親のどちらかが行くものなのですが、その日は両方共、神社の方で用事があったため、偶然やる事が無かった私に話を持ち掛けてきただけ。

 恐らく、私が再び此処を訪れる機会は、今日を逃せば無いでしょう。

 このまま家に帰れば、後は何時もと変わらない日常を繰り返すだけ。

 こんな冒険が出来る機会は、来なくなるでしょう。


 広場の時計を見ると、未だ時間はある。

 少しだけ歩いて直ぐに戻れば、問題無く帰れる筈。


「(少しだけ……ホンの少しだけ、寄り道する程度なら………大丈夫……ですよね………?)」


 結局、悪魔の誘惑に負けた私は、本来向かうべき道から外れ、別の道へと歩みを進めてしまったのです。


「うわぁ…………」


 暫く歩みを進めていると、私の口からは感嘆の溜め息が漏れ出します。

 この地下街は非常に賑やかで、何十、何百もの人々が、何やら喋りながら通り過ぎていきます。


 中には私と同い年の学生も居り、『この店のアクセサリーが可愛い』とか、『あの店のスイーツが美味しい』とか、そんな話が、絶えず私の耳に飛び込んでくる他、外国人の姿もあり、様々な言語も聞こえてきます。

 そうしている内に楽しくなってきた私は、少し寄るだけで、直ぐに戻るつもりだった事をすっかり忘れてしまい、どんどん奥へと歩みを進めていきます。

 

 この地下街は、地上でも幾つか出入り口を見掛ける程の事もあって非常に広く、あちこちに道が分かれている広場が幾つもあり、其所に着く度に、私は興味を引かれる方向へと足を運びます。


 何れだけ奥に進んでも、店は減る事無く建ち並んでおり、道行く人々が出入りしていきます。

 私も、琴線に触れた店に近づいては、売られている商品や食品ディスプレイ、メニュー等を眺めます。


 このまま眺め続けていたいとすら思ってしまいますが、そうする訳にはいきません。

 予定より長居してしまった上に、そもそも私は、この地域に住んでいる訳ではないため、早く帰らなければならないのですから。


「……あ、あれ?」


 いざ駅へ向かおうと引き返し、広場へとやって来た私ですが、其所で足を止めてしまいます。


「此処は………何処なのでしょう?」


 周囲を見回しながら、私はそう呟きました。

 

 やって来た広場の天井から吊り下げられている掲示板には、私が目的としている駅の名前が表示されておらず、代わりに別の路線の駅名や、何故かホテルやデパートの名前が表示されていたのです。


「えっ………ええ?」


 私は軽いパニック状態に陥り、意味も無く辺りを見回します。

 立ち止まっている私の横を、他の人々が邪魔臭そうに通り過ぎていきます。


「(此処に居続けても駄目…………兎に角、早く駅を見つけないと……!)」


 私は再び歩き出し、この道だと思った方向へと進んでいきます。

 でも、その先にある広場の掲示板には、やはり目的の駅の名前はありません。

 また歩き出して別の広場へ辿り着いても、それは同じでした。


「そ、そんな………」


 目的の駅に向かうつもりが逆に迷い込んでしまい、私は壁に背を預けます。

 私が途方に暮れている間にも時間は流れ、人々は足音を響かせながら通り過ぎていきます。

 しかも、その人数は徐々に増えていきます。恐らく、仕事や部活、お出掛け等から帰る人なのでしょう。


「だ、誰か………!」


 恐る恐る助けを求めようとするものの、元々人と話すのが得意ではなく、神社では、主に地域の方々が来るために、普通に接する事が出来ただけである私にとって、見ず知らずの人に話し掛けるのは難しく、必然的に、細々とした声になってしまいます。

 しかも、特定の誰かに声を掛けている訳でもないため、他の人々は、私の様子に気づいてくれません。


「(そ、そうだ。こういう時は、お父様かお母様に……!)」


 当時、未だ携帯電話を持っていなかった私は、公衆電話から連絡を入れようと思いつき、その広場を歩き回って電話を探しますが、最悪な事に、電話はありません。

 つまり、家族に助けを求める事すら出来ないのです。


「(一体、私はどうすれば………?)」


 最早打つ手が無くなり、私は再び、壁に背を預けます。


 時間が経つに連れて人は増えていき、足音や声も大きくなります。


「………怖い」


 先程までは楽しいと感じられた声が、今では得体の知れない何かに変わり、その言い表せない恐怖に、私は自分の体を抱き締めます。


 それと同時に、どうして直ぐに帰ろうとしなかったのか………どうして悪魔の誘惑に負けて、知らない場所で寄り道なんて愚かな事をしたのかと言う後悔が、私の心の中で沸き上がります。


 そもそも、あの場で誘惑を振り切っていれば、迷子になるような事にはならなかったのに。

 もし、寄り道せずに真っ直ぐ帰っていれば、今頃、無事に我が家へ辿り着いていたのに………


「………ッ」


 電話は出来ない上に、他の人に助けを求める事も出来ない、正に孤立無援な状態に心細くなり、私はただ、その場で立ち尽くす事しか出来ません。

 終いには、『このまま帰れなくなったらどうなるのか』等と考えるようになり、両目からは涙が溢れてきます。

 15歳にもなって、迷子になった上に泣きそうになるなんて情けない話だと分かっているのですが、それでも恐怖心や心細さは、溢れてくる涙を止めてくれませんでした。




「あの、其所の人…………何かお困りですか?」



 彼が現れたのは、そんな時でした。

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