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航空傭兵の異世界無双物語  作者: 弐式水戦
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第24話~幸雄の苛立ちと回復報告~

「クソッ………なんで皆、古代に対してあんな扱いするんだよ………!彼奴、デカいハンデ抱えてたのに頑張ってたじゃねぇかよ…………!」


 気絶状態から目覚めた神影がエーリヒと共に自室へ向かっている頃、幸雄は自室の窓際に置かれているテーブルセットに腰掛け、テーブルに肘をついて表情を忌々しげに歪めていた。


 彼が思い出しているのは、シロナ達によって訓練場に連れ戻されてからの出来事だ。



 訓練場に戻った後、勇者一行を待っていたのは、先ずフランクからの労いの言葉だった。

 勝った者も負けた者も、日頃の訓練の成果を十分に発揮しており、観客達が称賛していたと、フランクは言った。

 その後、明日の予定を聞かされて解散になるのだが、其処で幸雄達が待ったを掛けた。


 彼等は訓練場へ戻っている間、神影に巻き付いた謎の鎖の事を話し合っており、その結果、あの鎖は神影の妨害を目的として、何者かによって放たれたものだと言う話になったのだ。

 そもそも功は神影の視線上に居たため、あの鎖は第三者による介入以外には考えられない。

 それが許せなかった幸雄達は、犯人を見つけ出して神影に謝罪させる事を提案したのだが、このような犯人探しは、1分や2分程度で終わる程簡単なものではない。

 勇者だけでも30人近く居ると言うのに、観客全員を疑うとすると、多大な時間が掛かるのは言うまでもない事だ。

 そのため、ただでさえ模擬戦で疲れているのに犯人探しまでして時間を消費されたら堪ったものではないと、幸雄達以外の生徒達、特に功達3人組がそれを渋ったのだ。

 他の生徒達が、ただ純粋に疲れを理由に渋っている中、功達の言い分が、彼等にとって都合の悪い事が露見するのを恐れているように見えた幸雄と太助は、自分達が戻ってきた時に功達が神影の事を笑い話のネタにしていた事や、日々の嫌がらせから、彼等が犯人なのではないかと疑い、問い詰める。

 実際、その犯人は功達であるために徐々に追い詰められる3人だが、其処で口を挟んできたのが勇人である。

 

──過ぎた事を一々蒸し返して犯人探しなんかしても、意味は無い。


 勇人はそう言ったのだ。

 それはつまり、神影を襲った謎の鎖の事については一切触れず、その鎖を放った犯人探しもしないと言う事を意味している。

 そんな彼の言葉に、沙那達は当然反対した。

 あの試合に不正が行われているとすれば、勇人の言葉は、犯人を野放しにする事と同じだ。

 だが、それでも勇人が意見を変える事は無かった。

 それに激怒した幸雄と太助が勇人を殴り付けようとしたところでフランクが割って入り、一先ず勇人の言う通りにする事を決定。

 幸雄と太助にとって、気分の悪い結果に終わってしまったのだ。


 そして、彼等の怒りを加速させる出来事は続く。


 訓練場から城へ戻っている最中、同じく訓練場から出てきた騎士や魔術師、他の貴族達が今回の模擬戦の事を話題にしていたのだが、勇者達の模擬戦を称賛する一方、やはり神影に対しては否定的なコメントをつけていたのだ。

 勿論、先程の出来事を不思議に思い、あの出来事が無ければ神影が勝っていたのではないかと言う者や、功が、自分が勝つために他者に神影を攻撃するよう指示を出すと言うイカサマをしたのではないかと考える者も居た。

 だが、エリート思考の強い多くの者達は、勇者の称号を持つ者が、自分達が今まで蔑んできた、勇者の称号を持たない成り損ないに負けたかもしれないと言うのを認めたくないのか、あの鎖の事については一切触れず、ただ神影が負けたと言う事だけを取り上げていたのだ。

 それで怒りを掻き立てられ、何度手を出しそうになったか、幸雄達は覚えていない。


「チッ…………胸糞悪い話だぜ」


 忌々しげに吐き捨て、肘をテーブルにガツンと打ち付ける幸雄。


 神影の容態を確認出来なかった上に、神影を襲った謎の鎖の件は迷宮入りにされ、おまけに神影への理不尽な扱いを見せられる。

 これで苛立たない方が不思議と言えるだろう。


「古代の奴………今、何してるのかな……?」


 そう小さく呟き、幸雄は窓の外へと顔を向けて溜め息をついた。

 その溜め息は、部屋の窓ガラスをうっすらと曇らせた。



──────────────



「はぁ、やっと着いた………」


 城の前でエーリヒと別れた神影は、先程の模擬戦を見ていた騎士や魔術師達からの視線や陰口に晒されながら廊下を歩き、自室の前へと来ていた。


「(それにしても、此処に来るまでクラスの連中には1人も会わなかったな…………皆、未だ訓練場に居るのかな?)」


 そう呟きながら、神影は部屋のドアを開ける。

 其所にはレイヴィアが居り、ドアの音で何事かと振り向いた彼女は、神影を視界に捉えた瞬間に固まった。


「み、ミカゲ様…………?」


 大きく見開いた目をぱちくりと瞬かせながら、主の名前をおずおず口にするレイヴィア。

 幸雄達から神影の事を聞いていたため、神影が何事も無かったかのように戻ってきた事が、不思議で仕方無かった。


「お、お怪我の方は………もう、よろしいのですか…………?」

「…………?知ってたんですか?」

「え、ええ………先程、勇者セガミ様や他の方々が来ていましたので」


 その言葉に、今度は神影が目を見開いた。

 

「どうやら彼等は、訓練場から運び出されたミカゲ様を追っていたらしく、此処に運び込まれたと思って来たそうなのですが………」

「そ、そうッスか…………参ったなぁ」


 神影はそう呟き、右の頬を軽く掻いた。


 エーリヒが自分の部屋の場所を知らなかった事や、普段使っている場所だったために大して問題にはしなかったが、2人の行き先を知らない幸雄達からすれば、大問題になってしまった。

 その事を思い知らされた神影は、ばつが悪そうに表情を歪める。

 変に心配させた事や、無駄に走り回らせてしまった事への申し訳無さが、その表情には含まれていた。


「………飯の時間、彼奴等に謝っておこう」

「それが良いでしょう。ずっと心配していたようですので」


 神影の呟きに、レイヴィアはそう返すのだった。



──────────────



「さて、一先ず食堂に来たのは良いが………どうすっかなぁ………?」


 あれから時間は流れ、今は午後7時。

 既に食堂内では夕食が始まっているのだが、神影は食堂のドアの前に突っ立っていた。

 レイヴィアが部屋を出ていった後、暫くベッドで寝転がって休んだ後、夕食の時間が迫っているのを見て慌てて食堂へ向かったものの、レイヴィアから聞かされた幸雄達の話が頭から離れず、気まずさから中々食堂に入れなかったのだ。

 

 耳を澄ませば、生徒達の楽しそうな声が聞こえてくる。

 そんな中に足を踏み入れれば、神影は間違いなく、同期達からの視線の雨に晒される事になるだろう。

 それに食堂に入ったところで、自分の分が用意されているのかどうかも怪しい。

 例の模擬戦で負けた事を理由に、『役立たずに食わせる飯は無い』と言わんばかりに食事抜きにされているかもしれない。

 入ったところで無駄になる可能性の方が高いのだ。


「でも、瀬上達には心配掛けちまったからなぁ………」


 そう呟いた神影は、せめて幸雄達に回復した事だけでも伝えておこうと考える。

 そして両開き扉のドアノブを掴み、ドアを開け放った。


 それなりに勢いがあったためか、ドアが開かれる音が大きく響く。

 そして神影の予想通り、生徒達は何事かとばかりに振り向き、そして沈黙した。


 神影を嫌っており、彼が食堂に入ってくる度に侮蔑の眼差しや嘲笑を向けている男子達も、この時ばかりは目を皿のように丸くしており、互いに顔を見合わせる者も居れば、両目を擦って再び見る者も居た。


「み……神影君…………?」


 静まり返った食堂内に、少女の可愛らしい声が小さく響く。

 神影が目を向けると、其所には沙那が立っていた。


 彼女もまた、目を大きく見開いて神影を見ており、彼が此処に来たのが信じられないと言わんばかりの表情を浮かべている。


「あ、ああ………俺だよ、天野。古代神影だ。回復したから、取り敢えず伝えに来たんだ」

「…………ッ!」


 その言葉を受けた沙那が駆け出すと、幸雄達も続いて立ち上がり、神影に駆け寄ってきた。


「神影君!」


 最初に駆け出した沙那は、目尻に涙を浮かべて神影の胸に飛び込んだ。


「うおっ!?」


 それを慌てて受け止めた神影は、彼女の突進の勢いで後ろに吹っ飛ばされないよう、上手く衝撃を受け流して抱き留める。


「良かった………神影君、無事で………本当に、良かった………!」


 余程心配していたのか、神影の胸に顔を埋めて嗚咽を漏らす沙那。

 

「古代!」


 そんな彼女にどんな言葉を掛けてやるべきかと頭を悩ませていると、今度は幸雄達が駆け寄ってきた。


「よ、よお。瀬上達…………さっきぶりだな」

「『さっきぶりだな』じゃねぇよ!此方が何れだけ心配したと思ってやがる!?」


 物凄い剣幕で詰め寄る幸雄。

 こうなる程に神影を心配していたのだろうが、その何とも言えない迫力に、神影は尻込みしていた。


「す、すんませんでした………」


 顔を青ざめさせながら、神影はそう答える。


「落ち着け、幸雄。そんなに怒鳴っても仕方無いだろう」


 そんな中に太助が割って入り、幸雄を宥めた。


「さて、幸雄は暴走しすぎだが……………古代、本当に心配したんだぞ?あの金髪の男に訓練場から運び出されて、そのまま部屋に連れていかれたのかと思って行ってみれば誰も居ないし、君のメイド…………確か、レイヴィアさんだったか?彼女も、君の事は見ていないと言っていたからな」

「そ、そうです!今まで何処に居たのですか!?」


 太助が言うと、桜花が言葉を続ける。

 奏も言葉にこそしないが、今まで何をしていたのか説明を求めるような視線を向けていた。


「わ、分かった。説明するから!ちょっ、お前等近いって!転ける!俺このままだと後ろに転けちまうって!」


 沙那に抱きつかれている上にジリジリ迫ってくる4人に慌てながら、神影はそう言うのだった。

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