第099話 渚さんと戯れるチワワ
『畜生。シャッフルも落ち着いてたって言ってたじゃないか!?』
『それを今言っても仕方がないでしょう。いいから撃ってよ』
『二人とも言い争ってないで。ほら来る』
少年のひとりが『分かってるよ』と言ってビークルの後部の開いた扉からガトリングガンを撃ち続けている。けれども周囲のデコボコとした路面ではロクに照準が定まらず、また相対する機械獣も動きが素早いためになかなか命中しない。またもうひとり、その場にいる少年もかなりの怪我をしているようだが、持っているライフル銃で迫る機械獣を撃ち、少女はビークルを運転している。
『ちゃんと狙って。あれは目が良いし反応速度も高いって先生に教わってるでしょう』
『分かってるってのアイ。クソッ、ケイ。身体は大丈夫か。あのタワーまで行けば籠城もできるはずだ』
『ああ、ビィ。僕はともかくさ。間に合えばいいけど』
ケイと呼ばれた少年が迫る機械獣を見た。彼らを襲っているのはマッドチワワ。かつては小型種として名を馳せた犬種であるチワワを模した、獰猛なる機械獣である。
チワワを丸々大きくしたようなフォルムをしており、巨大な頭部から繰り出される嚙みつきは恐るべき破壊力を持つ。何よりも耳と目が大きく、反応速度が高い。それはビークルと並走している補助外装装備の少年少女にも徐々に近付いてきていた。
『ああ、僕が強化装甲機さえ破壊されなければ』
顔を歪ませてそう口にするケイにアイが『命があるだけ十分でしょ』と返す。
先ほどまでケイは強化装甲機に乗って戦っていたのだが、機械獣に機体を破壊されて脱出していた。全身の怪我はそのときのものだ。
『マーキングしておくから、首都に着いたら回収を頼んでみるわよ』
『アイ、ケイ。言ってる場合じゃねえぞ。それよりもクマガヤタワーだ。全速力で』
『駄目。この路面じゃあもう間に合わない。補助外装だって限界なのよ!』
思うようにスピードが出ない状況にアイが悲鳴をあげるが、次の瞬間に正面より何か緑の光が迫ってくるのが見えて『何よあれ!?』と声をあげた。
『何か飛んでくる? もしかして新手の機械獣!?』
『いいや、違うぞ。強化装甲機だ!』
そしてビークルの上空を所属不明の強化装甲機が飛び越えながらガトリングレーザーを撃ち放って、迫るチワワの動きを破壊していく。
『ガトリングレーザーか。いい装備持ってやがる』
ビィがそう口にしながら突如参戦した強化装甲機を観察する。それは自分たちの所有していた強化装甲機に比べて真新しく、装備もガトリングレーザーにレールガン、また腰にはアイーテルチェーンソーらしきものまで装着していた。
また強化装甲機以外にも参戦者がいるらしく、遠距離狙撃でマッドチワワが何体か吹き飛ぶのも見えた。さらにはソニックジャガーを連れたサイバネストらしき者が周囲を飛び交って、サブマシンガンを撃ち鳴らしながらマッドチワワをその場に押さえつけている。
『強化装甲機だけじゃあないわね。何なの?』
『あのサイバネストの格好からして騎士団じゃない。狩猟者じゃないかな?』
ケイの言葉にビィが舌打ちする。
『狩猟者風情が強化装甲機持ち? 気に食わねえな。けどチャンスだ。お前ら撃て撃て! 従騎士団の力を見せてやれ』
そして形勢の有利を感じた彼らはビークルをその場で止めて攻勢に出始めた。
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『なんだよ、あいつら元気じゃねえか。無事で何よりだけど』
ルークから従騎士団だろうと言われていた子供たちが自分らの攻撃に合わせて逃走から反撃に出たのを見て渚がそう口にする。
『まあ背中を撃たれる心配もなさそうな腕前だし、このまま協力して倒そう』
ミケの言葉に渚が『応ッ』と声をあげて、迫るマッドチワワへと集中する。
機械獣の数が多かったため、渚は強化装甲機で仕掛けることを選択したのだがそれは正解だったようだ。バックステップで距離を取りながら渚はガトリングレーザーを撃ち続けていく。
対して相手は避けるのが上手いようだったが、弾道予測線とガトリングレーザーの火力に加えて、リンダとソニックジャガーが周囲を回りながら敵をその場に押し留めているためにただ撃ち続けるだけでも敵を仕留められていた。そして溢れた機械獣もルークが片付けてくれていて、従騎士団も渚たちに合わせて戦ってくれている。形勢は一気に逆転していた。
『しかし今回使った分、こいつらのアイテールで補えるかな?』
『敵はあの数でそこそこ大きい。彼らが腹ぺこじゃなければ問題ないだろうね。それよりも渚、後のことを考えていられるほど楽観できる状況でもないよ』
『分かってるっての。これ以上下がるとクマガヤタワーまで到達してルークもミランダも危ないしな。で、あんなでけえのもいるしよ』
そう口にした渚の視線の先には、顔は愛くるしいが、筋肉質で獰猛なフォルムをしたチワワ型の機械獣がいた。
『アレはルーク曰くカラーテチワワとかいうらしい』
『センス最悪。誰が考えたんだ、その名前?』
『発見者じゃないかい。それよりも気を付けて。アレは速いし格闘戦をするらしいよ』
『おいおい。嘘だろ!?』
ガトリングレーザーを避けながら近付いてくるカラーテチワワが立ち上がったのを見て渚が目を見開かせる。
『関節部分に変形機構があるんだね』
『ばっか。あれ、人型になったじゃねえか。つかゴリラだろ。マッチョゴリラ。間違ってもチワワじゃねえよ。顔以外は』
渚の叫んだマッチョゴリラの名は今のカラーテチワワの姿を的確に表現していた。顔がチワワなだけになんともいえない雰囲気を醸し出しているが、危険であることは誰の目にも明らかであった。
『おい。そこの強化装甲機乗り、気を付けろ。ウチの強化装甲機もアレに破壊された。接近戦を許すんじゃねえ』
『誰だか知んないけどサンキューな。けどさぁ』
渚が強化装甲機の脚部ブースターを噴き上がらせて加速していく。
『おい、俺の警告聞いてねえのかよ』
後ろから響く声を無視して渚はカラーテチワワに突進する。
『今回は強化装甲機があるからな。ここで使っても問題ないしさ。ミケ行くぜ!』
『うん、タンクバスターモード発動!』
その言葉と共にマシンアーム『ファング』がタンクバスターモードへと切り替わり、強化装甲機の右腕を伝ってアイテールライトの光が収束して巨大な緑の拳が形成される。対してカラーテチワワの右腕も緑色に輝き、拳を構えていた。
『WAON!』
『ていやぁあっ!』
次の瞬間、カラーテチワワの拳と強化装甲機の拳がぶつかり合う。激突し合う拳と拳によって周囲にアイテールライトが撒き散らされるが、その均衡はすぐさま崩れ始めた。マシンアーム『ファング』にカラーテチワワは出力で大きく劣っていたのだ。
『ブッ飛ばせファング!』
そして渚の叫びに呼応して強化装甲機の拳がさらに肥大化しながらカラーテチワワの拳を砕き、そのまま本体まで一直線に打ち抜いて破壊していったのである。
【解説】
チワワ:
小型の犬種。かわいい。




