第091話 渚さんと出戻りシティ
『GYAN!?』
一撃。まるで苦痛を訴えるかのような声をあげたスケイルドッグが上半身と下半身を分けながら砂漠を転がっていく。それは渚の持つアイテールチェーンソーによって斬り裂かれた結果であった。
周囲には他にも何体かのスケイルドッグの残骸があり、それらもすべて渚がアイテールチェーンソーを振るって破壊したものである。
『ナギサのやつ、上機嫌だな』
それを見ていたルークが苦笑する。渚が持っているアイテールチェーンソーは強化装甲機用のものであったが、渚はそれをいたく気に入ったようで、補助腕の補助を使って生身でも普通に使い始めていた。
『まあ、いい。西側は片付いた。リンダ。残り二体だ。外してもフォローするからやっちまえ』
『は、はいですわ。あら?』
狙撃銃を構えるルークの横でリンダが撃った攻撃は、まるで吸い込まれるようにスケイルドッグ二体へと命中し、その機能を停止させた。それにはルークがヒューと口笛を吹いて驚きの顔をする。
『おいおい、やるじゃないかリンダ』
『え? ええ。ざっとこんなものですわ!』
ルークの言葉に、リンダはそう返しながらも不可思議という顔をしていた。
たった今、彼女は自分はとあるものを見て命中させた……ような気がしたのだ。
(今、弾道予測線のようなものが見えた気が? うーん、強化装甲機での体験がまだ印象に残っている? ちょっと疲れているのかもしれませんわね)
疲れている……リンダはそう結論付けて、ひとり頷いた。
そして戦闘が終わった後、その場に狩猟者たちとリアカーを牽いた商人らしき男が近付いてきたのである。
『いやぁ、助かりましたよ。いきなりあの数でしょ。正直、ここでおしまいかと思いました』
『ルークさんに、期待の新人ふたりか。助太刀すまない』
『いやいや、気にすんなって。こっちが先に遭遇してたら立場は逆だったろうしな』
近付いてきた男たちにルークがそう返す。
現在渚たちがいるのはアゲオ村からクキシティの間の道であった。
彼らはダンジョン探索後にアゲオ村で一日休んだ後、翌日には村を出てクキシティへと向かっていた。そして偶然ではあるが、道中にスケイルドッグに襲われている一行を見つけ、こうして助勢したのである。
それから渚たちはスケイルドッグのパーツとアイテールを回収するとアゲオ村へと向かうらしい商人たちとその場で別れて再び移動を始め、その後は特に機械獣や野盗とも遭遇することなくクキシティへと到着したのであった。
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「よう。ようやく戻ってきたなお前ら」
そして戻った渚たちが最初に向かった先は狩猟者管理局で、施設に入った彼女たちに笑顔で近付いてきたのはその場にたまたま居合わせたダンであった。
「お、ダンのおっちゃん。三日ぶり」
「あの後の処理は問題ありませんでしたの?」
「ああ、大丈夫だ。捉えた旅団の連中分の報酬も分配してもう振り込んであるぞ。後で受付で確認しておいてくれ」
「了解。ちょっとアイテールが不足してたからな。助かるぜ」
渚がそう口にすると、施設の奥からドタドタという音が聞こえてきた。
「おい、なんだアリャア」
それは二階の局長室から飛び出てきたライアンの足音だ。その姿を見て渚が「あ、局長オヒサ!」と言って手を挙げると、ライアンが「ああ」と声をあげながら渚たちを見て、それから外を指差した。
「ナギサ。つーと、あれはお前たちか。騎士団がきたのかと思ったが、ビビらせやがって」
「ああ、強化装甲機を見たんですのね」
リンダは局長が慌てた理由を理解して頷いた。
局長室は二階で、駐車場ともなっている中庭はよく見渡せるようになっている。その上に渚たちが持ってきた強化装甲機はビークルの上に寝転がせているのだから、彼らの強化装甲機が局長室からよく見えたはずだった。
「は、強化装甲機? マジか」
ライアンの言葉にダンが驚き、周囲にいた他の狩猟者も外を見始める。それからどういうことかというライアンの視線を受けたルークが肩をすくめて「とあるところで見つけてね」と返す。
「まあ、ナギサは自分たちで使いたいってんで、登録もしに来たんだが」
「アレを自分たちで使うのか。売っちまえば結構な金になるのによ」
「いいじゃん。使いたいんだよ」
そのライアンの言葉はルークにも言われたことで、渚が口を尖らせてそう返す。確かに強化装甲機の性能は高いのだが、維持費などを考えれば足が出ることもあり、それなりの組織でもなければたとえ見つけても売り払うケースは多いのである。
「まあ……お前らなら必要アイテール分は用意できるだろうが。それにしてもビークルにメディカロイドに続いて強化装甲機まで所有すんのかよ。まったく贅沢な奴らだな」
「ま、金に困ったら売ることも考えるさ。それに稼ぎだけじゃなく、実績をあげることも考えると強化装甲機を持ってるのも悪いことじゃあない」
渚とリンダがアンダーシティの市民IDを求めている以上、実績をあげるための手段を多く持つのは正しい……とルークも一応納得していた。
「そんで局長、アゲオ村だけどヘラクレスがミリタリーガードを仕留めてくれたんでダンジョン潜れるようになったぜ。そこらへんは連絡あったか?」
「ああ、昨日連絡は届いているが……お前ら、もしかして廃地下都市でそれを見つけたってわけか?」
ライアンの言葉にルークが頷くと、周囲の狩猟者たちがにわかにざわめき始める。どうやら彼らは強化装甲機という結果を見て、アゲオアンダーシティでの探索を考え始めたようである。
「まあ、ともかく今日来たのは報酬の確認と強化装甲機の管理局登録でさ。と、なんだ?」
ルークが眉をひそめて、外を見た。何やら中庭が騒がしくなってきたようである。
「あたし、見てくる」
「わたくしも行きますわ」
その様子に渚とリンダが慌てて施設を出ると、そこには渚たちのビークルの周りに群がる狩猟者たちがいて、彼らには補助腕の持つライフル銃と、ベアアームの持つスタンポールと、さらにはビークル上部に積まれていた強化装甲機の起き上がった上半身が構えているガトリングレーザーが向けられていた。
『申し訳ございませんが、これ以上の接近はビークルの防衛に含まれている敵対者排除命令に抵触する恐れがあります。ですので、それ以上の接近はおすすめできません』
「いや、悪いって。ちょっと近くで見たかっただけだから」
「撃つな。撃つなよ。確実に死ぬぞ。俺たちが」
ミランダの注意に狩猟者たちが怯えた声でそんな言葉を返していた。どうやら狩猟者の何人かがビークルに近付きすぎていたようで、 ミランダが警告の威嚇を行っていたようである。
「いや……あれ食らったらあいつら、形も残んねえぞ。さすがにあのビークル、戦闘力が過剰なんじゃないか?」
そして後から施設から出てきたライアンの言葉に渚が乾いた笑いを返す。それは言われたことは分からないでもないが、だからといって改める気はないという感じの笑みであった。
「まあ、それだけ護りが硬いってことさ。ところで局長、聞きたいんだけど、すぐにやらなきゃいけない仕事って今はないよな」
「なんだよ。仕事がしたいんならいくらでも見繕うぞ?」
ライアンの言葉に渚が首を横に振る。
「いや、そうじゃねえよ。ちょっと別件を当たってみたくてさ」
「別件?」
首をかしげるライアンに渚が頷いて口を開いた。
「ああ、緑竜土探しに少し出ようと思ってるんだ」
【解説】
騎士団:
サイタマシーキャピタルを守護する強化装甲機を中心とした武装組織。強化装甲機の集団による圧倒的火力を誇り、野盗だけではなく、埼玉圏内のあらゆるコミュニティに畏怖されている恐るべき暴力集団である。




