第085話 渚さんと圧倒される蜘蛛
時はガレージの扉が開く直前にさかのぼる。
『アイテール循環率67パーセント、戦闘機動は可能になったよ。アイテールはそんなに入ってるわけではないけど一、二戦程度なら問題なく動くね』
ガレージの中では強化装甲機に入った渚がミケの言葉を聞きながらマシンアームを通して己と強化装甲機が一体化しているのを感じていた。
立入禁止区域内の軍事施設で発見した強化装甲機。それは今もまだ稼働可能な状態が保持されており、渚とリンダはその中に入り込んでいたのである。
『それで渚、調子はどうだい?』
『ああ、問題なくいけるぜ。この強化装甲機とかいうの。まるで自分の身体になったみたいだ』
横に置いてあったガトリングレーザーを軽く掴んで持ち上げながら、渚がそう返す。その言葉は比喩ではない。マシンアームからチップを介して強化装甲機と接続された渚は、この機械の鎧が肉体の延長線上にあるかのように認識できている。
また同時にその操作マニュアルについてもインストール済みであり、扱い方についても特に迷うこともなかった。
『結構。装甲は外のガードマシン、ガードポリスと言うんだったっけ。あれのレーザーならある程度は弾いてくれるよ』
『マジで?』
『完全にではないけどね。大体は受け流せると思っていい。怖いのはスパイダーだ。あれのガトリングレーザーはこちらのものと同じ規格だ。それにグレネードランチャーは言うに及ばずだろ?』
ミケの言葉に渚が『なるほど』と頷いた。スパイダーの装備しているグレネードランチャーは渚たちの使用しているものと同じものらしく、さすがに当たれば無事では済まない。
そして、そのやり取りを聞いていたリンダが後ろから声をかける。
『そ、それでミケさん。わたくしは砲門担当なのですわね?』
『そうだよ。ルークには別の役回りがある。だから君に渚の補助をお願いしたい』
ミケにそう返されたリンダは強化装甲機のバックパック内で、ちょうど渚とは背中越しになって座っているような姿勢で乗っていた。そこは装甲に守られた強化装甲機の複座席であり、リンダの役目は強化装甲機の両肩に設置された砲門の射撃手である。
『強化装甲機は僕ともリンクしているからね。モニターには先ほど君が羨ましがっていた弾道予測線も表示している。実のところ、ガトリングレーザーだけではあのスパイダー相手には心許なくてね。だから最終的には君の砲撃が勝負の決め手になるはずだ』
『は、はいですわ。わたくしやってやりますわよ!』
リンダが意気を強めてそう返すと、モニター越しに映っているミケがにゃーと鳴いて頷いた。
『よろしい。さて、それじゃあふたりとも監視カメラからすでに敵の位置は把握できているね』
ミケがガレージの入り口へと視線を向けながらそう言うと渚とはリンダが頷いた。
実際、ふたりはミケを介して扉の先にいるスパイダーとガードポリスの配置をすべて確認できていた。連中が外で待機し、こちらの出方をうかがっているのを壁を透視するような形でその目に映している。
『あっち側から回線への接続があったけど、すべて遮断しておいた。まあ、電子戦は基本的に先に手をつけた方が有利だ。今頃相手も繋がらないことに慌てていることだろう。つまり攻撃のタイミングはこちらが先手を取れるということ。というわけで、扉を開くよ』
『おうよ!』
渚がガトリングレーザーを構えて一歩踏み出した。弾道予測線はすでに映し出されている。そしてミケが扉を開いたのと同時に渚が引き金を弾いた。
『いっけぇええええ!』
それは扉が開いたことで内部をようやく把握できた『外の敵』が動くよりもわずかに速く、そのわずかな差は戦場においては覆しがたい絶対的な差となる。
『しゃあ、一方的にぶっ壊してやらぁ!』
渚が叫びながら扉が開くのに合わせてガトリングレーザーを左右に撃ち続けていく。一方的に展開された火線は、その場にいたガードポリスたちを蹴散らし、さらにはスパイダーたちの装甲をも削っていく。当然のことながらスパイダーたちはその攻撃から逃れようとして動き出したが、
『逃がしませんわ』
続けて放たれたリンダの砲撃を避けきれなかったスパイダーの一機が胴体を吹き飛ばされて崩れ落ちた。
『と、とんでもない威力ですわね』
己の攻撃にもかかわらずリンダが驚きの顔をすると、ミケが『レールガンだよ』と口にした。
『弾数はあまりないが、それは目の前のああいうヤツらに対抗するために生み出された装備だ。威力の高さは折り紙付きさ』
『へっへ、やるなリンダ。で、こうなるとヤツらもさすがに動くわな』
渚がそう口にする。大量の弾道予測線が自分たちに向けられたのを察知したのだ。もっともすでにその動きを把握している渚が黙ってその場に立っているわけもない。
『そんじゃ、行くぜ』
敵の攻撃よりも早く、渚は脚部のブースターから炎をあげて一気に跳躍した。その速度にスパイダーたちの放ったレーザーは追いつけない。
『当たるかよっと』
そして着地後の衝撃も強化装甲機は渚に負荷をかけることもなく吸収すると、足裏にある無限軌道を回転させてその場を高速で移動していく。
『おっと、こいつは速いな』
『調子に乗らないで渚。ガードポリスはともかく、スパイダーはまだ一機いる』
『分かってるっての。けど、ガードポリスだって結構邪魔なんだぜ。センスブースト!』
渚はセンスブーストを発動し、左右の足の無限軌道の動きを調整してその場で回転しながらガトリングレーザーを一斉に撃ち放った。まるでばら撒かれるように放たれたソレは弾道予測線とセンスブーストによって的確にガードポリスを破壊していく。
『す、凄いですわね』
それを見ているリンダが圧巻という顔をしているが、ミケが『感心している場合じゃないよね』と注意を促した。だがリンダにしても別にただ見ているというわけではないのだ。ここまでの動きについて来れず、撃つタイミングがなかったというのが正しい。
『うう、分かっていますけど、動きが速くて』
『照準はこっちで調整する。あたしの指示で撃てリンダ!』
その言葉にリンダが『わ、分かりましたわ』と返すと、渚が頷きながら無限軌道を回してスパイダーに向かって加速していった。
対してスパイダーのガトリングレーザーが放たれるも渚はそれを弾道予測線を見ながら読みきって左右に綺麗に避け、続いて放たれようとしたグレネードランチャーの攻撃も対装甲弾頭が出る前に砲門を撃って破壊した。
『よっしゃ!』
その衝撃で弾頭が内部で爆発し、よろけたスパイダーを見て渚が笑う。
『リンダ、下に入り込む。頼んだぜ!!』
『はいですわ!』
そして渚がスパイダーの腹部へと潜り込むと同時にリンダがレールガンを放って胴体を吹き飛ばすと、スパイダーは緑色の放電を放ちながらゆっくりと崩れ落ちたのであった。
【解説】
レールガン:
電磁加速砲と呼ばれている兵器だが、この技術が確立してから4000年の時間が経過しているため、その構造は全く別物になっているものと考えられる。
なお渚たちが使用している強化装甲機に搭載された弾頭はアンダーシティ内で使用することを前提としているため、壁との距離を計測して到達する前に自壊するようプログラムされていた。




