第084話 渚さんとパワードスーツ
『そんで、どこを探すよルーク?』
立ち入り禁止区域内の入り口受付所をバイクで駆けながら渚が後ろに乗っているルークに尋ねる。内部の侵入は果たせたものの、その後をどうするかについてまだ話をしていない。もっともルークの返答はスムーズなものだった。
『向かうのはガレージだ。武器庫もそのそばにあるはずだからな』
『ガレージか。けど、それがどこにあるかは』
『それなら外の入り口などの配置からある程度の予想はついてるよ。渚、僕が誘導するから従って進んでくれるかい?』
そのミケの言葉に渚が頷くと視界にナビゲーションの矢印が浮かび上がる。
『こいつに沿って進みゃぁいいんだな』
『いやぁ、ミケってホント便利だなぁ』
同じものが見えているルークが感心している前で渚はアクセルを噴かしながら先へと進み、それにリンダが続いていく。
もっともこの場は立ち入りを禁止している区画だ。スパイダーが外に出てるとはいえ、無防備というわけではない。
『基地内はほとんどの機能が死んでいるけど……前方から人型のガードマシンが近付いている。どうやら彼らは今もここを守っているようだ』
『人型のミリタリーガード、ガードソルジャーか。あいつらの持ってるレーザーはライオットシールドじゃあ防げないぞ』
『わたくしが仕掛けます。援護を!』
『お、おいリンダ!?』
目を見開くルークの横をリンダが加速して通り過ぎ、正面から迫ってくる二機のガードソルジャーに突撃していく。それに渚が銃を構えて援護に入ろうと声をあげる。
『しゃーねえ。攻撃はこっちで押さえる。センスブースト!』
『こっちもだ』
ふたりが同時にセンスブーストを発動し、リンダに対して伸びている弾道予測線から逆算し、撃たれる前にガードソルジャーの銃を撃って弾いた。そして次の瞬間に駒のように回転したリンダが背後に回って足から伸びたアイテールナイフで二機のガードソルジャーをまとめて切り裂いて破壊する。
『やりましたわ!』
『やりましたわ! じゃないぞリンダ。無茶はするな。今のは肝が冷えたぞ』
『ルーク、説教は後だ。後ろからも来てる。クソ、こいつでも喰らえってんだ』
背後からもガードソルジャーが迫っていることを察知した渚が腰に下げた手榴弾を投げ、わずかな間の後に爆発が起きる。
『やったかな?』
『無理だろうが時間稼ぎにはなる。さっさと行くぞ』
『了解。ま、念のためにオマケも置いとくぜ』
ナギサはそう言ってさらに手榴弾を後方に投げると加速してその場から離れていく。そしてさらに進んだ先で渚たちはようやく目的地のガレージへと辿り着いた。
『ここかっ!?』
『そうだろうな。三機分のスパイダーがいたような跡がある』
中に入ってすぐの渚の問いにルークが頷いてそう返す。
彼らが入ったガレージの内部はかなり広く、大型の何かが三機並んでいたような痕跡もあった。また彼らが望むシロモノも、そこには置かれていた。
『ルーク見てください。あれ』
『ああ、強化装甲機だ。騎士団と同じタイプか』
『ん、ありゃあロボットか?』
二人の視線を追った渚がそう口にする。そこにあったのは人型の機械だったのだ。
だがミケが首を横に振って『パワードスーツだよ』と返した。それから周囲を見回してヒゲを揺らした。
『強化装甲機にガトリングレーザーもあるのか。他にも……ああ、これなら多分イケるね』
**********
「あの区画に逃げ込んだか」
驚異的な跳躍力で建物の上へと飛び上がった男が、爆発によって扉が吹き飛んだ立ち入り禁止区画の入り口を見てそう口にする。
今も光学迷彩フィルムを身に包んで姿を見せぬようにしているその男だが、内には星柄の青いフードに白と赤のストライプのローブというパトリオット教団の正式な衣装を纏っていた。また彼が立っている建物の下には多脚型機甲兵器スパイダー二機と街の警備用の人型ガードマシンであるガードポリスが編隊を組んで並んでいた。
『厄介なところに逃げられたね』
そして、その場には男に声をかける存在がいた。
男がその声の方へと視線を向けるとそこにいたのは『黒猫』だった。それは正しくは男にしか見えない、存在しない幻影なのだが男は気にせず頷く。
「頭が切れる相手がいるらしいな。クロ、中はどうだ?」
男の問いにクロと呼ばれた黒猫は目を細めて『残念ながら』と返しながら首を横に振る。
『あの内部は今オンラインでほとんど繋げられないからね。こちらから探りを入れるのはちょっと無理だ。ミリタリーガードのスパイダー三機と繋がったのもたまたまだったしね。けど、何機かガードソルジャーが倒されているのは把握できている』
その返しに男が感心した顔を見せた。
「……あの苗床、平和な時代の娘と聞いていたが、思ったよりもやるようだな」
『やるかやらないか。それを判断できるのは僕らではないと言っているはずだけどね。彼女は平和な時代の人間だからこそ価値がある。それをいきなり殺そうとするなんて』
クロの非難の視線に男はニヤリと笑う。
「私なりの見定めさ。駄目ならばチップだけ回収してやり直せばいい」
『それができる施設があればいいんだけどね』
「あの基地はもう完全に消滅したからな。しかし他の苗床を生んでいる施設を借りて……む、扉が開く?」
話している途中で、男は開き始めた扉の内側から弾道予測線が見えたのに目を見開いた。
『下がらせねば……いや、間に合わないか』
クロがそう口にする。すぐさまスパイダーたちが動き出したが、開いている途中の扉の中から凄まじい数のレーザーが放たれ、スパイダーの一機やガードポリスたちが破壊されていく。そして、扉の中から3メートルはあろう巨大な人型兵器が出てくるのを男はその瞳に捉えた。
強化装甲機。その古代の戦争の遺物を前に男はわずかばかり笑みを浮かべて舌舐めずりをし、スパイダーたちを一斉に戦闘モードへと変え、反撃を開始した。
【解説】
強化装甲機:
パワードスーツの一種であり、中に人が乗って操作する。
今回渚たちが発見した強化装甲機はコシガヤシーキャピタルの騎士団の所有している機体と同機種であり、その機動性は極めて高い。
なお強化装甲機はアイテールの消費が激しく、常時使用するのは潤沢なアイテール保有量がなければ難しいため、所持している狩猟者は少ない。




