第077話 渚さんとすごいお宝
「あちゃあ、外れだったか」
中に入ってすぐに、ルークはがっかりした顔をしてそう口にした。
スタッフオンリーとかかれた扉の中は店内の奥に通じていたのだが、そこはすでに人が入った痕跡があった。足跡からしてフロント側から入ってきたようであり、見る限り他の狩猟者か探索者によって探索された後のようであった。
『無数の足跡。何度も出入りした様子もあるし、どうやら漁られた後のようだね』
状況を解析したミケが端末からそう音声を流した。それにルークが少し眉をひそめる。それからリンダがルークに尋ねる。
「どうしますか。別の場所を見てみます?」
「いや、今日はあまり探索するつもりはないし一応中を漁ってみようか。触った程度って感じだし何もないってことはないだろう」
ルークはがそう言って一歩を踏むと埃がムワッと上がった。
「すげえ埃っぽいな」
「そうだな。ここからはマスクを被るぞ。とりあえず予定通りに倉庫に向かう」
ルークがマスクを被り、それに渚とリンダも続く。
そして先に進むとドアが破壊された部屋があり、中には派手に荒らされたような跡があった。
『食料関係の倉庫ですわね。ま、当然風化していますけど』
リンダが崩れた棚から転がったのだろう箱を拾って中身を見た。そこには干からびた何かが入っていたが、もはや原型が何であったかも分からず、当然食べられるものではない。
『食いモンかぁ。なんか残ってないのかよ?』
渚が周りを見渡すが、見た限りでちゃんと保存されているものはないようだった。
『もう何百年と昔のものだからな。東京砂漠の軍事基地なんかには時折食べれるレーションが残っていて高値で取引されることがあるらしいが、アンダーシティ内だとほとんど出てこないな』
『保存食がどこかに置いてあるとは思うけどね。とはいえ非常用の物資が置いてあるとすればセキュリティレベルも高い場所じゃないかな』
ミケの言葉にルークが『そうなんだよなぁ』と返す。
『実際そういうところに踏み込んだのがいたから、ミリタリーガードが出てしばらくここも閉鎖されてたんだ。不用意には近づけないんだよ』
『むぅ。そっか、それじゃあ無理か』
ルークの説明に渚が眉をひそめる。
藻粥とエーヨーチャージに、時折サイタマトカゲの燻製肉ぐらいしかレパートリーがなく、美味しい食べ物は仮想現実でしか味わえない。そんな、この世界の食事に嫌気が指しつつあった渚にとっては非常に辛い話である。とはいえ、さすがにプラチナランクの狩猟者を呼ぶような相手と戦いたいとは渚も思ってはおらず、諦めた顔をした。
『ま、こういうのは基本的にこういうところのだな。あーくそ、レジの……中身も当然やられているか』
ルークが端の方に転がっているレジに何かしらの機械をかざしてから舌打ちする。ルークは中身と言ったが、それはお金のことではなく、換金性の高いパーツが抜き取られているということであった。
『それがスキャナーだっけか』
『そうだ。必要な回路を探せしだせる優れものだ。お前の分もある、ほれ』
ルークから渚に渡されたそれはワッペンに記録されたリストと連動して換金可能なパーツを判定する機械だ。どのパーツを取ればよいのかを把握している機械獣にはあまり使われないが、こうしたダンジョンや天遺物などでは必要とされるものである。
『ルーク、こっちの裏側の機械は無事のようですわ』
『そうか。じゃあリンダはそっちの回収を。ナギサは奥の方を見てくれ。スキャナーで判定されなくてもめぼしいものがあったら回収してこっちに見せてくれ。ものによっては持ち帰る』
『あいよ』
ルークの指示に渚は頷き、部屋の奥へと進んでいく。
『つっても、大抵は風化してるよな』
『まあね。君が欲する食品関係は全滅だろうね。機械類とは違い、消費物を無理に保存させる必要もないしね。コストを考えてもこういう一般的なところだとエーヨーチャージがあるぐらいじゃないか』
『エーヨーチャージはもういいんだよなぁ』
そんなことをミケと話しながら渚が周囲を調べていく。
倒れている棚を起こし、壁に埋め込まれた機械をスキャナーで確認し、落ちている菓子袋を見てため息をついた。
めぼしいものはなさそうだが、リンダが先ほど未回収のパーツを見つけたように、人間が探索したものであれば抜けもあるので拾えるものが残っていることもある。
『これでパーツは三つめか。思ってたより地味だな』
『宝箱があって、伝説の剣でも出てくると思ったかい?』
『ゲームかよ。まあ、ちょっとはそういうのも思ってたけどな』
そう言って渚が苦笑する。そして、さらに奥に進んでいくとその先に開いている扉があった。その中に顔を入れた渚が首を傾げる。
『個室か? なんだ?』
『事務室……オーナールームかな。扉も妙に頑丈だったし。ナギサ、ちょっと机の上の端末のところまで行ってくれるかい?』
『いいけどよ。んー、端末はパッカリ割れてるし、中も抜き取られてるな』
その渚の指摘通り、机の上にある端末はアイテールナイフか何かによって外装が切って割られ、中の基盤などもパーツが抜き取られている痕跡があった。もっともミケの興味はそちらではないようで、タンっと机の上に乗ると端末内に設置されたボックスを見た。
『ストレージだね。ちょっとマシンアームを動かすよ』
ミケの言葉に続いてマシンアームからコードが伸び、ストレージの横にあるプラグインへと接続されていく。
『何してんだ?』
『データを漁っているのさ』
『めぼしいものでもあるのか?』
首を傾げて尋ねる渚にミケは『ソレを調べるのさ』と返す。
『端末は基本的にアンダーシティのデータベースとアクセスして機能してはいるんだけど……まあ、このストレージ内のローカルデータなら何か残ってるんじゃないかなって思ってさ』
ストレージにはすでにマシンアーム側から電力が供給され、内部で何かしら起動している音が聞こえている。それからミケの『あらら』と口にして、渚が不審そうな顔で首を捻った。
『どうしたんだ?』
『いや、このストレージのデータをチップに移して解析したんだけどね。君に見せられない映像がたくさん入っているみたいで』
歯切れの悪いミケの言葉に渚がよりいっそう首を傾げる。
『見せられないって……なんだよ、それ?』
『あのね。エッチな動画なんだよ』
『なんだと?』
渚の表情が固まった。
『つまりね。10万本を越える無修正のエロ動画が今君の頭の中にあるってことなんだ。いや、参ったね』
【解説】
無修正エロ動画:
渚は、ジャンル分けと属性タグによりあらゆるニーズに応える検索が可能なエロ動画の総合百貨店を脳内に建設した。なお、アンダーシティにおいても無修正エロ動画は犯罪である。




