第068話 渚さんと逃げた敵
『渚、来るよ。バスターモードで相殺だ』
『ォォオオオッ!』
野盗のマシンアームが起動するよりもわずかに早く、何が起こるのかを看破したミケが叫ぶ。
そのミケの指示に反応した渚は迷うことなく右腕から銃を手離し、迫るエアウォールに対してバスターモードを起動した己のマシンアームを叩きつけた。
『な!?』
『甘ぇよ』
そして発生したのは、緑に輝く拳が不可視の空気の壁を消失させたという状況。それはバスターモードによって発生したアイテールライトが拡散し、ナノマシンミストによって生み出された風を中和した結果であった。
その様子にマシンアーム持ちの野盗はあっけに取られた顔をし、渚の放った回し蹴りをモロに喰らって思いっきり吹き飛んでいった。
『へっ。切り札が破られたからって、動き止めてんじゃねえっての』
ノビている野盗に対して渚はそう口にし、それからもうひとりの方へと視線を向けると、そちらはすでにダンがマシンアームを破壊して組み伏せているところであった。
『へぇ。あっちもマシンアーム持ちだけど、簡単に勝つもんだね』
その様子を見ていたミケが少し感心した顔で言う。ミケは全天候型監視カメラでその様子をしっかりと確認していたのだが、おおよそ危なげなくダンはマシンアーム持ちを倒していた。
『ま、あれがベテランの狩猟者なんだろ。なあダンのおっちゃん、そっちも片付いたみたいだな』
渚が手を挙げてそう口にすると、ダンも親指を立てて『おう』と応えた。
その様子からまるでダメージはないようで完勝だったことがうかがえたが、次の瞬間に離れた場所からバイクの音が聞こえたのにふたりと一匹が同時に反応する。
『なんだ? 天遺物の方からだよな?』
『うん。音が離れていく。どうやら逃げた野盗がいるみたいだね』
『今の音、まだ野盗がいたのか?』
ダンが音のした方に視線を向けながら舌打ちする。バイクの音はもう聞こえない。
そして、この瘴気の霧の中では今から探そうとしても見つかることはないだろうことは明白であった。その事実にダンは眉をひそめるが、とはいえそれはそれである。
『まあ仕方ない。狙われたのに命が残っただけでもメッケモンだ。それよりもナギサ、俺は周囲を見張るからお前はこいつらの拘束を頼む。場合によっては増援がくるかもしれんしな。お前なら俺よりも早くやれるだろう?』
ダンの言葉に渚も『あいよ』と返すと、倒れている野盗を持ってきていたロープで次々と縛りあげていく。
その間にもダンは周囲を警戒し続けていたが特に増援が来るもなく、しばらく様子を見て動きがないことを確認すると、その場にはダンが残って、渚は仲間たちを呼びに戻ったのであった。
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『ダン、お前は無茶をしない男だと思ってたんだけどな』
そして、渚に連れられてやってきた一行の先頭にいたルークが、頭を抱えながら待っていたダンにそう皮肉を口にした。
偵察に向かったはずの渚が野盗たちを壊滅させたと言って戻ってきたのだ。それにはダンも苦い顔をして言葉を返す。
『わざとじゃねえんだよ。狙われてた。まったく厄介なことだがな』
そのことはルークも渚からすでに説明を受けてはいたので理解はしている。ただそれでも肝の冷える話ではあったし、何か苦言のひとつも言いたくなって出たのがさっきの言葉であった。それからダンはリンダを見て『それとリンダ』と口にした。
『は、はい』
『さっき、お前を連れていかなかったのは失敗だった。すまんな』
そのダンの口から出た素直な謝罪にリンダが目を丸くする。
『まあ、なんだ。ナギサに散々愚痴られた』
『なんだよ。本当のこと言っただけだろ』
背後からの渚の言葉にダンが苦笑いを返す。
実際に勝利したから良かったものの、バイクに乗った渚の機動力にダンが追いつける力があれば全面的な戦闘は避けられた可能性は高く、隊のリーダーであるダンとしては結局戦う以外の選択肢を取れなかったことを反省していたのである。
『ま、あいつと上手くやれんのはお前ぐらいだよ。手放すな』
『ええ、当然ですわ』
ダンの言葉にリンダが強く頷き、そのやり取りにルークが少しだけ微笑むと、それから険しい顔をして倒れている男たちを見た。
全員が拘束され、また怪我をしている者は渚のナノマシン治療がかけられていて命の別状はないようである。またそれぞれの防護服には同じマークが付いているのが確認できた。
『全員生きてるな。で、こいつらはやはりオオタキ旅団か』
『ああ、あとひとり逃げられた』
『それは渚から聞いたが、増援は来なかったみたいだな』
ルークの問いにダンが頷く。
『もう遠くまで逃げ切ってることだろう。逃げたのは百目のロデムだ』
ダンの言葉に、ルークたちの顔色が変わる。
『待ってる間に野盗たちから話を聞いたが、ヤツが指揮をしていたらしい』
『それは……確かに厄介だな。そうか。アレに目を付けられたのか』
『誰なんだ?』
そのやり取りに渚が首を傾げる。
渚はここまでに百目のロデムという名を聞いたことはない。だが、ダンたちのやり取りから危険な相手だろうとは理解できた。
『オオタキ旅団の幹部で賞金首のひとりだ。眼爺と同じようなマシンアイの持ち主でな。アレのおかげでこちらの動きを掴まれて奇襲されたり逃げられたりすることが多い』
ルークの言葉に渚がなるほどと頷き、それから横にいるリンダを見た。ロデムの名が出た途端に明らかに顔が強張ったのを渚は目撃したのだ。
『リンダ、どうした?』
『その、なんでも……いえ、ナギサ。わたくしのこと、ダン隊長から聞いたんですの?』
渚の気遣わしそうな様子にリンダが恐る恐る尋ねる。
『んー、お前が襲われたってことぐらいは……だけどな』
『……そうですの』
その言葉を聞き、リンダが少し目を細めて考えたあと『あの……ナギサ』と口にした。
『アゲオ村に着いたら、お話ししたいことがありますの。聞いてくださいます?』
『ああ、分かった。任せろ!』
そう言って渚が親指を立てると、リンダも笑って頷いた。そして、自分に向けられたその瞳は何かの決意を固めたかのように渚には感じられていた。
【解説】
マシンアイ:
基本的に眼球の代用として使われる機械の目ではあるが、ルークの様に目の代わりに埋め込むものや、眼爺のようにズームレンズが付いていて外部からも見て分かるものなど形状は多様で、また性能も視覚以外のものも感知する多目的レーダーである場合が多い。




