第067話 渚さんとモブ無双
(こいつら、あんまり狙い良くねえな)
すでにセンスブーストを発動させた渚が心の中でそう呟く。
その場にいた野盗は五人。すでにふたりは銃と手榴弾により戦闘不能となっていて、残り三人全員もライフル銃を所持してはいるが、渚の動きにはまったく付いて来れていない。
(そんなんじゃあ当たんねえよ)
野盗の銃弾が放たれるが、敵の弾道予測線はすべてチップによって演算されて渚の視界に映し出されている。
それを避けて動くことは難しくなく、接近した渚は真横に凪ぐように残り野盗たちの足下を狙ってライフル銃を狙い撃ち、三人全員がその場に崩れ落ちた。
直後に倒れている野盗たちの肩を撃って戦闘不能にすると背後から『テメェ』という声が聞こえた。
『おっと、そっちはまだ動けたか』
渚がそう言って倒れている男のひとりへと振り返る。
そこには先ほどの手榴弾のダメージで倒れていた男が銃を持って渚に向けていた。
『死ね!』
男の叫びと共に銃弾が放たれる。だが渚はそれを避け、野盗の銃を持つ手を踏みつけて動かせないようにするとすぐさま銃口を頭に向け、引き金を弾こうとして……
『ダメだ渚』
ミケがそれを制止した。
その言葉に渚は指を止め、不思議そうな顔をして首を傾げる。
『どうしたんだよミケ?』
『渚、君は自覚がないみたいだね。なるほど、であればファングからのインストールしたものではなく元からそうであった可能性が高いか』
『だから、なんだよ? 敵を倒すのを止めんなよ』
ますます訳が分からないという顔の渚の問いにミケは『渚、人間が人間を殺すことは良くないことだ』と口にした。
その言葉に渚は頷く。
『? ……当たり前だろ』
『そうだね。けれども君はね。そこにいる相手を人間ではなく敵として認識している。今、君がやろうとしたことは殺人だ。その自覚はあるのかい?』
『何を言って……ミケ、なんだよ? いや、そうだよな』
ふと、その言葉に渚は理解した。今自分は目の前の野盗の頭を吹き飛ばそうとしていたのだ。
『殺すなとは言わないよ。こういう世界だ。そういう選択を取ることだってあるかもしれない』
渚にしか見えないミケがにゃーと鳴きながら、野盗の前に立って渚に目を向ける。
『けれど、それを為すならば君は自分の意志で殺すべきだ。少なくとも何も分からぬまま、余計な罪を背負う必要はない』
『罪?』
『でないと君は正しく認識したときに壊れてしまうかもしれない。それは、情操教育によろしくはないと思うんだ』
そこまで口にしたミケに渚は頷き、目の前でおびえている男から銃口を離した。
『お父さんかよ』
『保護者ではあるんだろうね。後、そいつはすぐ拘束して』
『あいよっと』
そして渚がバックパックからロープを出すと、瞬く間に野盗たちの手足を拘束していく。
ダンがその手際の良さに驚きながらもそばに近付いてきた。
『なんだ。その早さは? 一瞬で手足が結ばれたぞ』
『まあ、訓練積んでたんだよ。こういうののさ』
渚が適当な説明でダンに言葉を返す。
実際のところ、それはマシンアームからインストールされていた技術の一種だ。
『それよりもダンのおっちゃん。どういうことだよ? あたしらがわざわざ迂回して来たのにここで待ち伏せてたぞ』
『話からして、こちらからお前とリンダを来たことを知ってたから念のために見張りをたてていた……という感じだろうな』
そう返したダンは苦い顔をしている。問題なのはなぜ知っていたか……ということだが、それはもう答えが出ている。ダンが上げた報告書にも渚たちの天遺物への接近ルートなどの細かい説明は入れていない。だから知っているのは一緒にいた狩猟者だけであり、つまりは情報を売った仲間がいるということだ。
『完全に情報握られてんのかよ。で、どうするのさ?』
『お前はともかく、俺は元来た道を事故らずに逃げられる自信がないんだが』
『リンダ連れてきた方が良かったな』
渚の言葉にダンが肩をすくめる。今の状況を考えれば、渚とダンだけでここに来たのは言うまでもなく失敗であった。
『まったくだ。俺が意地になり過ぎてたのかもしれん。にしても、お前は対人戦闘に慣れてるな。機械獣のときよりも迷いがないように見える』
その言葉に渚は『そうかな?』と首を傾げたが、ミケは『当たり前の話だよ』と口にした。
『君にインストールされたのは人間と戦うための技術であって、機械獣はその応用で対処しているに過ぎないからね。元々銃を持っている人間相手の方が専門なんだよ』
渚にしか届いていないその言葉に渚は頷きつつ、ミケに尋ねる。
(で……この先にいるヤツら、やれんのか?)
『さっきの程度なら問題はないよ。イレギュラーがなければね』
そう返すミケに渚はなるほどと考え、それからダンを見た。
『なあ、ダンのおっちゃん。どうする? やれなくはないぜ』
『上等だ。俺がサポートに付く。どのみち、もう連中も動き出してるしな』
ダンがそう言いながら天遺物の入り口の方へと視線を向ける。
瘴気の霧の先で人影が近付いてきているのが渚にも見えた。
『銃声らしい音がしたぞ』
『狩猟者か機械獣か』
『どっちでも構わねえ。ぶっ殺せ!』
その会話の内容から、瘴気の防音性能に阻まれて相手はまだ正確に状況を把握できていないようである。それを察した渚はダンに『行くぜ』と口にして岩場を迂回しながら走っていく。
『渚、石を投げて攪乱する。いいね』
『頼んだ』
渚の了承と共に補助腕が展開されて地面に落ちている石を次々と拾ってそれぞれ別方向に投げていく。
『銃か爆発か? クソ、どっちだ』
『天遺物の方だ。撃て』
次の瞬間に銃声が響いたが、当然それは渚やダンのいる方角とは真逆の石が落ちてぶつかった場所へである。その間に渚は後方へと回り込み、野盗たちのすぐそばにまで近付くことに成功した。
『さて。気は進まないが、ひとまずは捕らえることを優先しよう』
『なんで気が進まないんだ?』
首を傾げる渚にミケが『やれやれ』と言って肩をすくめた。
『僕が彼らの命に気を配る必要なんて本来ないから、余計なストレスになるんだよ。まあいい。さっさと片付けよう。先ほどの銃声で近付いた十一人全員の捕捉は済んでいる。マーカーを出すよ』
ミケの言葉と共に野盗の位置がすべて表示され、渚はそれを見ながらライフル銃で足を撃った後に銃を弾いていく。
『音は確かにあっちからしたのに』
『後ろからだぞ。馬鹿やろう』
『何言ってんだ。前からだ。お前、どこ見てんだよ』
対して野盗たちはその状況に付いていけていない。さらに渚とは別の方向からも銃声が響いていた。
『ダンのおっちゃんが援護してくれてるみたいだ』
『いい具合に混乱してるね。じゃあ、こっちもかき回すか』
ミケがそう言いながら補助腕を使ってさらに石を投擲して野盗たちの注意を引きながら、渚が的確に相手を倒していく。
『おい、ドクロメットの餓鬼がいる。こっちだ』
『ようやくバレたか』
途中でさすがに渚の存在を野盗たちも気付いたようだが、渚に慌てた様子はない。逆に気付かれるのが遅かったと感じているくらいである。
『残り四人。問題ないよ。渚、あのふたり並んでる』
『ああ、捕縛弾でまとめて捕まえるさ』
そう返した渚がライフル銃に付いているアドオン式グレネードランチャーを撃ってふたりを捕縛弾で絡めると、残りふたりがダンと渚それぞれに飛びかかっていく。
『来るよ。マシンアーム持ちだ。気を付けて』
『こんの餓鬼がぁあ』
そして野盗のマシンアームから不可視の何かが放たれる。
『こいつ、アンサーと同じ!?』
それはアーマードベアアンサーと同じ能力であるエアウォールであった。
【解説】
殺人罪:
埼玉圏の法においては街内外問わず、殺人は発覚すれば処刑である。
野盗に対しては即時処刑の許可が出ているが、奪われた人員や物資とのバーターとして生かして捕らえることも推奨されており、捕らえれば金になる。また生死問わずの賞金首リストも存在している。




