第066話 渚さんと敵の罠
『なんか。リンダ、おかしくなかったか?』
天遺物までの移動中、渚がふと後ろを見てそう口にする。
瘴気の霧に阻まれてもう何も見えないが、その先にいるであろうリンダの先ほどの態度に渚は何かしら引っかかるものを感じていた。そして、その渚の
問いにダンが『仕方ないさ』と返す。その表情は先ほどリンダに向けた厳しいものではなく、同情的なものに変わっていた。
『アイツの足はオオタキ旅団にやられたんだからな』
『マジかよ?』
驚く渚にダンは肯定の頷きを返す。
『ああ、お前は聞いてなかったか。ま、そういうことだ。だから当然恨んでる。ああなるとあいつは冷静な判断ができなくなるし、何よりあんまり接触させたくねえんだよ』
『そっか』
であればと渚も理解を示した。疑問も氷解した。
だが、その渚の様子にダンが苦笑しながら尋ね返す。
『で、お前はそのことを聞かないんだな? コンビなんだろ?』
『言いたければアイツが言うはずさ。あたしはそれでいいよ』
コンビになると決めたのだ。リンダが話さないならそれを尊重するし、話すときにはちゃんと向き合おうと渚は考え、そう返した。そしてそんな渚の言葉にダンも『そうかい』と返す。
それから少しだけ、眉をひそめながら口を開いた。
『で、お前ら。本当にこんな道を通ったのか?』
その視線はこれから先に続く道へと向けられている。いや、そもそもそこは道ですらないただの岩場だ。
『そうだぜ。だからさ。本当ならマシンレッグ持ちのリンダの方が良かったと思うんだけど、まあダンのおっちゃんもリンダが心配だったみたいだし仕方ねえよな』
感心した顔で渚が言うが、ここまでの道のりとこの先の道のりを考えると、先ほどの自分の言葉を撤回して交代してもらった方が良かったんじゃないかとダンは思い始めてもいた。
渚が先導する天遺物までの移動ルートは、道無き道どころか延々とデコボコとした岩場が続き、とてもまともに移動できるものではなかったのだ。
悪路に強い一輪バイクといえども渚の尋常ではないドライビングテクニックなしではその移動は成立せず、ダン自身も自分がなぜそれに付いていけているのかが分からないほどであった。
だから、まともに渚に追いつけるのは確かにリンダのマシンレッグぐらいなものだろうとダンもこの時点では理解できていたのだが、ともあれもう意地である。
ダンはこれまでの狩猟者人生においてもっともバイク操作に集中して渚の後を追い、そしてふたりは天遺物の手前の、以前に渚とリンダが見張りのアーマードベアを倒した付近へと到着した。
『うし。特に問題なく来れたな』
『後はヤツらがいるかの確認だ』
『確認はいいんだけど、結局あいつらがいたらどうすんだ?』
渚の言葉にダンが眉をひそめる。
『盗賊行為は埼玉圏じゃご法度だ。即時処刑も許可されているが』
『マジかよ』
『とはいえ、実際色々あってな。殺さずに捕らえるに越したことはない』
『裁判にでもかけんのか?』
渚の問いにダンが首を横に振る。
『いや、ヤツらが奪った人質や物資との交換に使う。ブラックリストのヤツは問答無用で処刑だがな』
『渚、話はそこまで。何かがおかしい』
ダンと話をしている渚にミケが警告を発した。
それに渚が眉をひそめつつも周囲を見回す。
(何がだ?)
『多分だけど罠だ、これ』
『ふむ。ナギサ、お前も気付いたか』
ミケの言葉に重ねるようにダンがそう口にした。
どうやらダンもミケと同様の何かを感じたらしい。
『ダンのおっちゃん?』
『ああ、会話中にざわついた感じが少しあった。多分だが囲まれてるな』
『電磁ネットだ!』
ミケがそう口にした次の瞬間、複数の場所から緑の放電を帯びた網が飛び出てきた。
それは的確に渚とダンの立っていた場所へと被せられて、それから周囲の岩陰から男たちが飛び出してくる。その中には渚がビークルで移動中に見た男の姿もあった。つまり彼らはオオタキ旅団のメンバーなのだ。
『おいおい。本当に引っかかったな』
『こっちから来るかもって言われてたが、ダンを捉えたぜ』
『本命はガキだ。いや、待て。下がれ』
何かに気付いて慌てた男の言葉と共に、三枚被せられていたネットが放り投げられ、続いて銃声が響いた。
『チィ』
『ヤツら、電磁ネットが効いていないのか?』
オオタキ旅団のメンバーが慌てて再び岩陰に隠れるが、逃げ切れなかった盗賊はその場で倒れ、そしてネットが被せられていた場所には無傷で銃を構えている渚とダンの姿があった。
『助かったぜナギサ』
『いや、ダンのおっちゃん。あたしがやんなきゃ、それぶっ放そうとしただろ?』
渚が少しだけ冷や汗をかきながらダンの持つ物体を見た。構えているのはスコーピオンバズーカだ。
『やられる前にやれというし、爆風でネットも吹き飛ばせるからな。一石二鳥だろ?』
『いやいや、そういうことじゃあねえから。爆風はあたしらにも当たるからな』
そう言って渚はネットを掴むために展開した八本すべての補助腕をマシンアームに収納し、ダンもスコーピオンバズーカからライフル銃に持ち替え。同時にどちらも岩陰に身を隠しながら、相手を観察する。
『まさかオオタキ旅団がこちらを狙ってくるとはな』
『なんで待ち構えられるんだ?』
『たかがふたりだ。ブッ殺せ』
野盗のひとりが声をあげて銃を撃ち始め、手榴弾も投げ込まれる。
『おい、ナギサ』
『自分の分は自分で始末つけろよおっちゃん』
ダンが叫びながら別の岩へと飛び、渚は自らに迫る手榴弾を撃って野盗の足元へと弾いた。そして爆発が起きたと同時に、渚は一気に岩場から飛び出していった。
【解説】
手榴弾:
爆発と破片により相手にダメージを与える武器だが、装甲で守られた機械獣にさほど効果はなく、通常は対人用として使用されている。




