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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第2章 ルーキーズライフ
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第061話 渚さんと幻の世界

「なんか違わねえ?」

「贅沢言うなよ」


 難しい顔をした渚とルークがソレを見ながら、しみじみとそう言い合った。

 彼らの目の前にあるのは長方形のビークルを胴体とした、左右に辛うじて手と足と思えるものが付いている不格好な物体だった。

 手となる補助腕サブアームのサイズは人間に近いため、足代わりとなったアーマードベアアンサーのベアアームとのバランスに欠いており、供え物のようにちょこんと乗っているセンサーヘッドが付いていることで辛うじて人型であるように見せていた。

 なお手足はビークル前部に設置されているため、後部は重量により落ちて後輪が地面に接触しており、普通にタイヤとして機能していた。


「ロボット? これはロボットなのか?」

「どう見ても普通に運転した方がいいだろうし、足で移動するメリットはほとんどないからなぁ」

「使えねえな、これ」


 渚がそう言ってガッカリする。


「いや。まあ、ベアアームにもランドゲーターの装甲は装備してるからブースト使えば滑って移動もできるだろ。た、短時間なら普通にロボットとしても使えるんじゃないか?」

『無理ニろぼっとトシテ使ウコトヲ考エナケレバ普通ニ良クデキテルンデスケドネ』


 後ろにいたデウスの言葉には渚も確かにと頷いた。

 左右の補助腕サブアームの動作も問題はなく、元々ビークルに乗っていたライフル銃を二丁装備させてセントリーガン代わりにし、ランドゲーターの電磁流体装甲も正常に起動していた。

 またルークが持ってきたセンサーヘッドにより、近い距離であれば瘴気内であっても渚はビークルやミランダとも通信が繋がるようになっているとミケからの説明があった。

 なのでロボットという甘美な言葉に対するガッカリ感こそあったものの、ビークルの改造自体は大成功であると言えた。それから渚たちはデウスに礼を言うと、続いても予定していたVRシアターへとビークルに乗って移動したのであった。




  **********




「じゃあ、俺はミランダと一緒に家に戻ってガレージに置いたら帰るわ。お前らはふたりで楽しんでこいよ」

『それではまたあとで』


 そういってルークとミランダはビークルでその場から去っていく。

 そして、渚たちがいるのはクキシティの中央部にある施設であり、その建物に設置されている看板にはVRシアターと描かれていた。


「出てくる人がみんなふわふわした顔してんな」

「まあ、そういうものですから」


 渚たちがそんなことを言いながら中に入ると、ミランダやセバスと同型のロボットが受付に立っていた。


『いらっしゃいませ』


 また完全武装の警備型ロボットも周囲には配置されていた。


「なんか、やたらトゲトゲしい場所だな?」

「遊んでいる間に襲撃を受けてはひとたまりもないですから。二名でお願いしますわ。今月はわたくし初めてですし、ナギサは狩猟者ハンター登録後初ですから料金は必要ありませんわよね?」

『リンダ、ナギサの二名様ですね。確認いたしました。それでは案内に従って移動してください』

「お、空中に矢印が」

『基地でもあったナノマシンを使った空中投影技術だね。色々と応用性はあるんだけど、こういう使い方が一般的ではある』


 ミケの言葉に渚がなるほどと頷きながら先へと進んでいく。

 その先にも完全武装の警備ロボが並んでいて、奥の部屋には六角形のボックスがまるで蜂の巣のように並べて置かれている部屋があった。それは死体安置所のようにも見えたが、中に入るのは生きている人間だ。そしてカシュンという音と共にボックスがふたつ開き、中はベッドが置かれているのが見えた。


「ナギサ、この中に寝てください。普通ならダイブスーツが必要ですけど、サイバネストであれば自動で接続されますわ」

「そうなのか?」


 リンダの説明に渚が眉をひそめる。元々渚はリンダたちとは違う経緯でマシンアームを付けたのだし、そもそもファングは通常のマシンアームではない。それが渚は気にかかったのだが『規格的には僕たちでも大丈夫だよ』とミケが口にしたので納得してベッドの上で横になった。すると開いたときと同じようにカシュンと音がしてベッドが収納されていき、


『VRモードの接続確認が来てるね。それじゃあ、繋ぐよ渚』


 ミケのそんな言葉が頭の中から聞こえると、渚の意識はゆっくりと沈んでいった。




  **********




「ここ、どこだ?」


 そして渚が次に目を開いたときには、そこには青い空が広がっていた。

 周囲には渚の良く知る普通の家が建ち並び、離れた場所にはビルが並んでいる。そこは渚の知っている世界だった。


『なるほどね。VRシアターというのはかつての平和だった世界を模した空間を体感する場所か』

「ミケ?」


 いきなり下から声が聞こえて渚が見下ろすと、そこにはミケがいた。


『何を驚いているんだい? 僕の本体は君の頭の中のチップだよ。当然入ってもこられるさ』


 そう言いながらミケが周りを見た。渚もキョロキョロと見渡したが、見知らぬ人が何人か歩いているのが見えたがリンダの姿はなかった。


『どうやらリンダとは離れた場所に出たようだね』

「そうだな。なあミケ。ここどこだ?」

『西暦2030年の東京の、埼玉圏との境に近いところだね。今は西暦6932年だから随分と昔の世界だよ』

「そんな昔の……でもさミケ。あたし、この景色に覚えがあるんだよ」


 渚がそう言って周りを見た。どこを見ても渚はそれらを知っていると感じていた。


『うーん。この時代に君のデータを保存できる技術があったかというと微妙そうな気はするけど……まあ、文明はある程度の段階を迎えると停滞するものだし、何度となく滅びて再興してもいるから似たような景色はあったのだろうけど。ここが君の時代だとすれば、君がこの場所を選んだのかい?』

「いや、知らんけど……けど、なあこの表札」

『由比浜……君と同じ名字だね』


 ふたりが視線を向けたのは目の前にある家だった。

 その入り口の門には由比浜と描かれたプレートが付いていた。偶然にしては出来すぎたものだと感じた渚がその家をじっくりと見回す。


「なあ、ミケ。ここってさ。もしかして本当にあたしが、無意識で自分の家を?」

『誰か出てくるよ』


 そのミケの言葉と共に、ガチャリと家のドアが開いた。


「まさか……姉ちゃん?」


 渚がそう口にしたが、続いて出たのは「あれ?」という声だった。

 家の中から出てきたのは渚の姉でも、自分を含めた姉妹でもなく、小さな姉弟だったのだ。


「違う?」

『一応言っておくけど、これはあくまで過去の記録を基にしたシミュレーション空間だ。大本の家族構成からそれに合わせたキャラクターが配置されているだけだから実際の姿とは違うんだよ』


 そう言いながらミケが姉弟を見る。


『とはいえ、データにアクセスしてみたけどここの家は父母姉弟の四人家族だ。君の名前はないから苗字が同じなだけなんじゃないかな?』

「なんだぁ。そっか。まあそりゃあそんな偶然ないよな」

『苗字が同じ家庭は当然多いからね。ただ、君の元の時代がここに類似しているという発見はあった。それだけでも収穫だったと思うよ』


 そのミケの言葉に「そうだなぁ」と言いながらもガッカリした渚がため息をつく。

 そしてそんな渚の前にスッと光のウィンドウが開いて突然リンダの顔が映った。


『ナギサ、今どこですの?』

「お、リンダ。ビックリした。どうやってんのそれ?」


 空中に映るリンダの顔に渚が驚いた顔でそう返す。


『それは後で説明しますわ。それよりもどうしてそんななんでもない住宅街にいるんですの? ともかく、こちらに転送をかけますので承認ボタンを押してください』

「おう、分かった。ええと、これか?」


 空中に現れた承認ボタンを渚が押すと、渚とミケの姿はその場から一瞬で消失していく。その様子を小さな姉弟がキョトンと見ていたが、すぐさま興味を失ったような素振りを見せるとふたりで仲良く歩いてどこかへいってしまった。そして、渚がその場所を訪れることはもう二度となかったのである。

【解説】

VRシアター:

 元々は宇宙航行時でのストレス解消を目的としたシミュレーション空間である。

 EMS(電気筋肉刺激)などの肉体管理機能を持ったダイブスーツを身に付けての長期間の使用が前提とされているが、強化施術を行っているサイバネストはそのままダイブすることができる。

 なお今回ミケがアクセスした情報によれば、ふたりが訪れた家は由比浜直久、琴音、風音、直樹という四人の家族が住んでいたと表示されており、そこに渚の名前はなかった。

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