第058話 渚さんと誘いの言葉
『よっしゃ、破壊した!』
目の前でランドゲーターが真っ二つになったのを見て渚が声をあげる。
オスカーは下からヒートチェーンソーを振り上げ、アイテール装甲でできたファングの拳ごとランドゲーターを左右に割った。どう見ても間違いなく倒したようだが、次の瞬間にミケが叫んだ。
『限界だ。渚、拳をテクノゲーターに向けて撃つんだ!』
『は?』
渚がいきなりの言葉に驚くが、ミケから『早く!』と急かされる。
見れば渚のマシンアームの先にある砕けたアイテール装甲の拳が輝き出し、今にも破裂しそうな気配を放っていた。
『マジかよ!?』
それを見た渚も血の気が引き、すぐさま迫ってきていたテクノゲーターへとマシンアームを射出すると、マシンアームは飛んでいる途中で爆発を起こし何体もの機械獣を吹き飛ばしていった。
『形状維持の限界ギリギリまで拡大したから不安定だったんだ。そこにオスカーの攻撃で破壊されたことで一気に崩壊が加速して、限界を超えた反動で爆発を起こした。もう少し近かったら君も吹き飛んでたよ』
『あ、危ねえ』
目の前にできた小さなクレーターを見ながら、渚がひきつった笑いを浮かべる。そして爆発の中心へと伸びていたワイヤーを引き戻し、マシンアームが渚の腕に再装着されるのとほぼ同時に補助腕なども含めた機能が停止した。
『戻すのもギリギリだったね。流石に引きずるのは邪魔だったし、一度切り離そうかとも考えてたんだけど……うん、間に合ってよかった』
『タンクバスターモードってあんな風に爆発もするのかよ。コエーなぁ』
恐る恐る言う渚にミケが頷く。
『まあね。特に今回のは不安定な状態だったからね。それよりも残りが動き出したよ。まだ戦闘は終わってない』
ミケの言葉通り、今の爆発によって何体かは機能停止したようだが、未だに残り二十体ほどのテクノゲーターは活動している。それを見ながら渚は『へっ』と笑う。
『腕はもう普通にしか使えないが、こっちにゃあ銃とセンスブーストがまだあるんだ。後始末と行くか。オスカー、あんたはどうだ?』
『こっちのチェーンソーも稼働限界だ。ま、別にテクノゲーター程度どうとでもなるさ』
そう言うオスカーの持つヒートチェーンソーも煙を噴いていて、これ以上は使えそうもない。そして迫るテクノゲーターが攻撃を仕掛けようと動き出したが、それは背後からの銃撃によって止められる。それはルークの狙撃銃から放たれた弾丸だった。
『フォローはする。ふたりともこっちに戻ってこい。指揮官もいなくなった。後はどうとでもなる』
『おう、オスカー!』
『分かってる。本命は殺れたんだ。今さら退かねえとは言わないさ』
それからリンダもフォローに動き出したことで四人は合流し、その後十分ほどで決着がつくこととなった。無論、渚たちの勝利である。
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『んー、アルケーミストはいなかったな』
戦闘終了後、天遺物の外にいる渚がそうぼやいた。
テクノゲーターたちがいた巣はすでに探索済みの天遺物のひとつであり、収穫はアイテールとランドゲーター、テクノゲーターのパーツのみであった。部屋のひとつには切り裂かれた防護服などが散らばっており、それらをオスカーがひとつひとつ手に取って確認しながら回収していたが、その手伝いは拒否された。すべて己の手で……というオスカーの無言の意思が彼女の言葉も篭もっており、だから渚たちは天遺物内の機械獣の捜索を終えると、外のテクノゲーターたちのパーツ回収を行っていたのである。
そして渚が口にしたのはアーマードベアのときには鹵獲できたアルケーミストのことだ。有機物をアイテールに換えるという特殊な機械獣が持つアイテール変換装置は、アンダーシティが高く買い取ってくれる上に実績も上積みしてくれる高レートパーツであった。
もっとも渚のぼやきに対するリンダの返答は『そうそう手に入るものではありませんわ』であった。
『アルケーミストは危険が迫ると真っ先に逃げますし、恐らくランドゲーターが破壊された辺りで逃げていただろうから捕まえるのは難しかったはずですわ。アーマードベア戦で捕獲できたのは変態中で動けなかったからですし、あれは非常に運が良いケースでしたわ』
その言葉に『へぇ』と返す渚が天遺物をちらりと見た。ルークが中から出てくる姿が見えたのだ。
ルークは渚たちに回収を任せ、オスカーの護衛兼監視を行っていたのである。隠れていた機械獣も怖いが、ルークが懸念したのは目的を果たしたオスカーが自決するのではないかということだった。
己が命を顧みずにここまでひとりで挑んできたオスカーである。仇討ちも終えた今、万が一の可能性を考えてルークは動いていた。
『ルーク、オスカーの様子はどうだ?』
『落ち着いたようだ。すぐ戻ってくるだろうよ』
渚の問いに、ルークがそう返す。
『オスカー、大丈夫なのか?』
『ま、多分な』
ルークがそう言いながら、渚たちが回収したパーツやアイテールを見る。
『仕事は果たしたようだな』
『まあな。けど、こいつら全部もらっていいのか?』
渚がそう返すとルークが頷く。オスカーは今回の件では回収したもののほとんどを渚たちに譲ると口にしていた。
『あいつは、ランドゲーターのアイテールとアイテール装甲の一部でいいらしい。形見にって言っていたが、まあアイツらしいか』
その言葉に渚が目を細めて俯く。
オスカーは生き残ったが、彼女の隊の他のメンバーは残らず死んでいる。オスカーとチームを組んでいたアリスとナージャという女性狩猟者たちは、あのランドゲーターに噛み砕かれて死んだらしく、だからこそオスカーはランドゲーターに執着していたとのことだった。
それから渚たちが回収したパーツを整理していると、天遺物の中からオスカーが出てきた。
『よお、やってるな狩猟者ども』
『んだよ。やっぱり分け前欲しいってんなら言ってくれよ。それにアイツ返せっつーんなら返すぜ』
渚が自分のバイクの後ろに積んである回転式弾倉型グレネードランチャーを見ながら言う。それは渚がランドゲーターと戦う際に使ったオスカーのグレネードランチャーであった。
『構わねえよ。そいつはアホみたいに何丁も買ったし、それでお前に命を救われたんだ。次に戦うときにはまたそいつで助けてくれよな』
『ああ、そうかよ。だったら、そんときゃ任せろよ』
渚の返事にオスカーが『へへ、頼んだぜ』と笑う。
それからオスカーはその場にドッサリと座り込んで、大きくため息をついた。
『それにしても今回はやられたわ。アンダーシティ行きはパーになっちまったしな』
『アンダーシティ行きがパー?』
首を傾げる渚にリンダが横から補足する。
『ナギサ、シティの人間は高い貢献度を達成していればアンダーシティの市民IDを手に入れることもできます。人口調整に沿ってのものですから枠は少ないのですけれども、オスカーさんやダン隊長は狩猟者の枠に入り込めるところにいたのですわ。ですが……』
リンダが自分の足を見た。それが彼女がアンダーシティにいられなくなった原因だ。同時にオスカーも同じ理由でアンダーシティに入る最短ルートは閉ざされたということであった。
その意味を理解し渚も『そっか。そうだよな』と返す。それは渚も同様に抱えている問題だ。そして、そんな渚たちにオスカーは笑う。
『ま、そういうこともあらぁな。ライアン局長にはお仲間扱いされそうだけど。お前らも今回は俺に付き合わせちまって悪かったな。本当だったら、もっと安全に戦うことだってできただろうによ』
『いんや。まあ、結果オーライだ。四人でもなんとかなるもんだな』
そう返した渚にルークが苦い顔をする。
『今回はその馬鹿が大盤振る舞いだったからな。普通は無理だぞ。そのタンクバスターモードとかいうのも一発限りなんだろう?』
渚のマシンアームファングは現在も修復モードに入っていて、普通の腕程度の動きしかできない。
ミケの言葉によれば今回はかなり無茶をしたので、修復にはまだしばらくかかるとのことだった。
『そうだな。だが勝った。俺はそれだけで満足さ』
オスカーが微笑みながら、そう返した。
彼女にとってこの結果は、最悪のスタートラインから始めたにしては最高のものであった。
襲われてひとり逃げたオスカーはそれでも遠くからテクノゲーターたちの動きを調べ、ある程度の予測を立てて巣を探し当てた。それは結果的に渚たちよりも早くの巣の発見を可能とし、それから合流した渚たちと共に戦うことで命を落とすことなく、こうして勝利もできた。
『感謝してるぜ。だからガキン……いや、ナギサ。そんなショゲた顔すんなよ』
『けどさあ』
『この世界じゃあたまにあることさ。ま、そうならないようにすんのが一番なんだけどな』
実際つい最近、リンダも仲間の多くを失っている。この世界はそういう世界だ。だが、そうならぬように……リンダたちを失わぬように、強くあろうと渚は深く頷いた。
『いい子だ。で、さあ。ナギサ。ものはひとつ、相談なんだけど』
そう言ってオスカーが渚にズイッと近付いてきた。
『な、なんだよ?』
『お前さあ。俺と組まないか?』
『は?』
その言葉に渚が首を傾げ、ルークが眉をひそめ、リンダが『何言ってるんですの!?』と声を荒げた。
『ナギサとコンビを組んでいるのはわたくしですわ。大体、ロリには興味ないんじゃなかったんですの?』
『愛でなんとかするさ!』
『しないでください!』
そのやりとりに渚が意味が分からず両者を交互に見ているとオスカーがリンダに対して『ハハァアン』と笑った。
『まあ、聞けリンダ。別にお前さんにひとり寂しい思いをさせるつもりも俺にはないさ。お前も俺んとこにくりゃあいい。以前は断られたが、ナギサと一緒ならいいんじゃないのか? そこのチャラい男といるよりは安全だろう?』
『嫌ですわ。あなたのそばは貞操が危険過ぎますし、ルークはチャラそうですが一応安全枠ですわ』
その言葉にルークが心外だという顔をした。
『え、やっぱりチャラいように見えるのか? 嫁と娘はカッコいいって言ってくれてたんだけど……』
『正直言って、チャラいぜ』
『チャラいですわ』
『チャレえよ、マジで』
反論に対しての三人の言葉にルークはガックリと膝を落とした。
本人にあまり自覚はないようだが、明らかにチャラいのだ。
ともあれ、こうして狩猟者となった渚の初めての依頼は終わった。後はクキシティへと戻り、依頼達成を報告すれば完了であり、渚たちは手に入れたものをビークルに詰め込むと街へと戻ることにしたのである。
【解説】
ファイナルロック:
タンクバスターモードの一形態。アイテール装甲を巨大化させて掴む技だが限界まで拡大させるため構成維持が困難であり、場合によっては自壊して爆発するが、爆発の指向性は腕より外にと設定されているため、ファングそのものへの直接的なダメージはない。
なお、ファイナルロックの命名はいつも通りに渚である。




