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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第1章 狩猟者(ハンター)への道
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第035話 渚さんと悪夢の倉庫

『ぐぐ……』

『……チクショウ』


 暗い部屋の中、ふたりの男の呻きがかすかに響いていた。

 そして異臭漂う室内で、男の片方が口を開いた。


『なぁ、ダニエル。生きてるか?』

『あー、まあなマッシュ。エアクリーナー内のアイテールの残量がどこまで持つか分からないが……ただ、やっぱりどうにもなんねえな』


 そう言ってダニエルが自分の手と足を見る。

 無造作にねじ曲げられた鋼鉄の棒が手足に巻き付けられ、とても人の力では外せないようにされていた。それらはアーマードベアが行った拘束であり、当然のことながら今のふたりではどうすることもできない。


『まったく……クマ野郎がやってくれるぜ』

『ヘッ、ジョニーとマイクが逃げられただけ良しとするか。隠し持っていたアイテールナイフはもうねえし……まあ、戻されてないところを見ると』


 ふたりの視線が一瞬だけ部屋の一カ所を見て、それからすぐに目をそらした。エアクリーナーのおかげで臭いこそ防がれてはいるがソレは狩猟者ハンターを十年やってきたダニエルとマッシュにとっても見るに耐えない光景だった。

 ともあれ、先ほどアーマードベアから逃げ出したジョニーとマイクが途中で捕まったならば、生死を問わずにこの場に戻されているはずなのだ。それがないということは、少なくとも今のところ捕らえられてはいないということであった。


『乱暴には扱われなかったし……エアクリーナーもそうだが、水の方も奪われてないのは助かったけどなぁ』


 彼らのヘルメットと繋がっているバックパックには、エアクリーナーと共に水も入っていて、ヘルメットを外さずとも水の補給が可能となっている。だが、それももう尽きかけてはいた。


『それも死んで腐らせないためだろ。それよりも飯食いてえな。俺らをアイテールにしようってんなら、せめて美味い食事食わせてからにしてくれっての。そうなりゃ上質なアイテールにだってなれるだろうよ』

『ははは、まったくだ』


 そう言ってふたりが笑いあう。

 逃げ出すことはふたりとももう諦めていた。

 今も入り口にはアーマードベアが監視に配備されている。ジョニーとマイクのふたりが逃げ出したことで、警戒が強まっているのだ。拘束も解けぬ今、どうすることもできない。


『アルケーミストが完成するまでの命か。それまでに飢えて死ぬか。助けが来るってのは……期待し過ぎか?』

『さすがにな。だがあいつらが死なずに村まで戻れれば、もしかしたら……お?』


 突然、ダニエルの目にアーマードベアの頭部が吹っ飛んだ姿が映った。それにマッシュも気付き、ふたりが驚いている前で即座に何かがアーマードベアへと飛び込んでいくのも見えた。それは蹴りの一撃でアーマードベアのコアを貫き、その後すぐに跳び下がって離れていった。


『おいおい、アーマードベアが!? それにアレってまさかお嬢?』

『それにあのドクロメットのチッコいのは誰だよ!? 死神か?』


 そう言い合うふたりの前に、彼らがお嬢と呼ぶ人物とドクロメットの小さな狩猟者ハンターがやってくる。当然それはリンダと渚だ。ふたりは天遺物に侵入を果たし、無事目的地にまで到達したのである。




  **********




『こりゃあヒデェ……』 


 そして、ジョニーとマイクの移動の形跡を追って辿り着いた部屋に入った渚が絶句していた。その目に映ったのは見るも無惨な死体の山だ。この部屋は、アイテール化するための材料の倉庫であったのだ。


『ぁ……ああ……』


 そして、後に続いて入ってきたリンダがその場で固まっていた。

 またミケの方はそれらを冷静に眺めながら口を開く。


『なんだか分からない生物なんかもいるね。機械獣以外にもああいう生物が埼玉圏にはいるのか。あれらは全部アイテールを造るための材料かな?』


 ミケの言葉の通り、積まれているのは人間だけではなく、いくつかの奇形の怪物の死体もあるようだった。それは渚が見たこともない生き物だった。


『こんなん、ありかよ。なんなんだよ機械獣って』


 そう口にしながら渚は眉をひそめながらそれらから視線をそらす。これ以上は耐え切れぬという自分の限界を感じていた。


『ハァ、ホントヒデエよ。こんなの……臭いが遮断されていて助かったな。クソッタレ。リンダ、気持ちは分かるが探そうぜ。ていうか、いたわ』

『え?』


 渚の言葉にリンダの目の光が戻る。

 探すまでもなく、死体の山とは分けてその場に置かれているふたりの姿がすぐに見つかったのだ。渚はなるべく部屋の奥を視界に入れないようにしながらふたりに近付いていく。


『おい、生きてるかアンタら』

『腹減って死にそうだけどなぁ』

『それはマジでそう……』


 渚の言葉に男ふたりがそう返す。その言葉に渚が少しばかりの安堵の息をつく。少なくとも彼らは生きていて、意識もハッキリしているようである。


『よぉ。ダニエルとマッシュってのはアンタらでいいんだな。リンダ、どうだ?』

『ええ、間違いなく。おふたりともご無事で何よりですわ』


 リンダが涙を浮かべてながらそう口にした。どうやらふたりとも無事だと分かり、リンダの気持ちも持ち直したようである。


『お嬢か。おいおい。なんだよこりゃどういう幸運だ?』

『もうひとり誰か知らないが……いや、助かったよ。ホントに。でさ』


 それからマッシュが手を伸ばす。


『悪いけど、できればこれを外してくれるとありがたいが……できるか?』

『なんだ、そりゃ。ゴリラにでもやられたのかよ。ああ。ちょっと待ってろ』


 そう言って渚は鉄の棒が巻き付いているマッシュの手を取って、その場で動かさないように固定すると、獅子型機械獣の牙の付いた補助腕サブアームを動かして鉄の棒だけの切断を開始した。

 またダニエルの方は、リンダがマシンレッグから取り出したアイテールライトを輝かせて切断する特殊なナイフで拘束を解いていく。


『おお、リンダ。さっきの熊を倒したブレード外せるのか。そっちのも便利そうだな』

『メテオライオスの牙を使ってるアナタが何を言ってるんですの?』


 呆れたような声色のリンダの返事に渚がキョトンとなった。そして、その言葉にマッシュとダニエルが驚きの顔をする。


『マジかよ。それって本物のメテオライオスの牙か』

『メテオライオス? それって……』


 足の拘束も解かれたマッシュの問いに、渚が首を傾げる。

 とはいえ、メテオライオスの名前は聞いたことがないが、その言葉からなんとなくではあるが察しは付いていた。


『もしかして、あのライオンの姿をした機械獣か? あの、やたら強かったヤツ』


 ここまでの他の機械獣の戦闘を考えれば、渚もあの獅子型機械獣の強さが理解できていた。タンクバスターモードの一撃で倒せたが、それ以外の対応でどうにかできた相手ではなかったと今なら渚にも分かる。


『って、まさか倒したのか?』

『ああ、倒したけど』

『マジかよ。スゲエ』


 マッシュの驚きように渚が困惑する。


『いや、つっても弱ってたところをだからな。リンダもなんだよ、その顔?』

『いえ。なかなかハードな経験をしてますわ……と思いまして。ゴールドランクの狩猟者ハンターが何人も集まって倒すような相手ですもの。わたくしのアイテールナイフも悪い品ではありませんけど、さすがに集束率も違いますし、そちらには劣りますわ』

『そういうもんか。まあ、こいつのことはあたしも知りたくはあるけどよ。今はそれよりもさっさと逃げようぜ』


 そう渚が言うと、リンダも狩猟者ハンターふたりも確かに……という顔で頷いた。


『そうですわね。他に生きている人は……』


 その問いにダニエルが首を横に振る。分かってはいたことだ。それからリンダは何かを口にしようとして、それを飲み込んでダニエルを担いだ。


『ではダニエルさんはわたくしが、マッシュさんはナギサのバイクで』


 だが、リンダがそう指示をしている途中で、


『GuOOOOOOOOOO!!!』


 不意に外から咆哮が響き渡った。

 防護服の上からでもビリビリと伝わる咆哮に、渚の警戒心が一気に上昇する。


『この声は……まさか、さっきのヤツか?』

『不味いぞ。気付かれた』

『マジかよ?』


 渚の問いにマッシュが頷く。


『ああ。さっきお前らが倒した入口のアーマードベアは、今の咆哮に咆哮で返すんだ。それが連中の連絡手段でな』


 その言葉に渚が『マジかよ』と口にする。


『そうさ。けど、まだしばらくは定期の連絡なんてしないと思ってたんだが』

『外ではダン隊長たちが陽動の攻撃を仕掛けてるんですのよ。もしかすると内部の侵入を警戒して、連絡を取ろうとしたのかもしれません』


 実際にリンダたちがこうしてダニエルとマッシュの救出を行っているのだから、それは正しい判断ということなのだろう。

 それからもう一度咆哮が響き渡ると、続けて短いスパンでさらに何かを叫び、その様子にダニエルが苦い顔をする。


『多分、戦闘態勢に入ったな、こりゃ急がないと』

『ナギサッ』

『ああ、分かってるさ。時間もねえし、強行突破で行こうぜ!』


 そう言って渚は一輪バイクの静音モードを解除すると、一気にモーターの回転数を上げた。

【解説】

アイテールナイフ:

 刃先にアイテールライトを纏わせ、鉄の装甲すらも切り裂くことが可能なナイフ。

 狩猟者ハンターとしては一般的な装備のひとつだが、渚の持つメテオファングやリンダのマシンレッグに仕込まれているものほどの高出力を持つブレードは高額で、普及されているのはパーツ解体用に使われる程度のものである。

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