第320話 渚さんとエスケープロード
『どうも、道中の敵はグリンワームの斥候だった可能性が高いですね』
カワゴエシティの手前にある岩場の影に集まるカワゴエ救出隊の中でガヴァナー・ウィンドの代理であり、今作戦の指揮官であるヤマダがそう口にした。
周囲には騎士団や狩猟者、それに渚たちも完全武装して並んでおり、中心には渚のレーダーによって索敵されデータ化されたカワゴエシティの入り口の状況が3Dマップとなって浮いている。
『少なくともこちらで把握できた寄生体は全滅させたはずだが?』
『そうですね。ただ隠れていた個体がいたのかもしれませんし、送り出した斥候が戻ってこない……というだけでも相手にとっては十分な情報にもなります』
狩猟者のひとりの問いにヤマダがそう返答した。
『とはいえ、それはこちらにとって悪い話ではありません』
『なんでだ?』
『簡単な話ですよ。当初の計画では元々地上で騒いで奴らを引き摺り出す予定だったでしょう。それを彼らは自主的に行ってくれたんです。この様子なら中のグリンワームの数は減っているでしょうし。うん、こちらとしてはいいこと尽くめですね』
ヤマダの言葉に質問した男がなるほどという顔をして、周囲のメンバーが音を立てずに小さく笑う。
ともあれヤマダの言葉は決して強がりではなく事実であった。カワゴエ救出隊が地上で迎撃してグリンワームを引きつけている間に潜入部隊がカワゴエアンダーシティの住人と合流、そして地上と地下の双方から挟撃する……というのが、今作戦の主な流れだ。タイムスケジュールが詰められたこの状況は歓迎すべきことだった。
『というわけで今作戦はここで二部隊に分けます。まあ、分けると言っても潜入はナギサさんたちのチームとなりますが』
その言葉を受けて渚とリンダ、それにルークたちハイエンド強化装甲機たち、それにメテオライオス・オメガとメテオライオス二体が前に出る。なお、今回ミランダとマーシャルは地上部隊での参加となっていった。マーシャルのハイエンド強化装甲機はワイズマンがいるため無理はさせられず、ミランダには隠密行動は無理だろうという判断があった。
『はぁ、お留守番ですか。私はメテオライオスたち以下ですかナギサ?』
『メテオライオスは一応隠密行動もできる仕様なんだよ。獲物に飛びかかるギリギリまで気配を隠せるからさ。それにミランダには武装ビークルを守って貰いたいんだ。その分、地上で暴れるのは許可するから。ジンロもミランダを頼むよ』
『わーってる。機械のくせにハッピートリガー野郎なんだってか? 誤射だけはすんじゃねえぞ』
『プログラム上、フレンドリーファイアはできない仕様です』
ミランダがエヘンと自分の胸を叩く動作をしてジンロが胡散臭そうな顔をする。メディカロイドは日々進化しているのである。主にコミカルな方向に。その様子に渚が苦笑しつつもヤマダへと視線を向けた。
『それでヤマダさん、潜入方法はどうすんだ? 騎士団と狩猟者が戦っている間に迂回して潜入するとかそんな感じ……じゃあないよな? ハイエンドとメテオライオスの使用も前提にしているわけだし』
『ええ。さすがにハイエンド強化装甲機とメテオライオス三機を動かせば潜入はバレるでしょう。まあ、見ていてください。この緊急脱出口を使います』
ヤマダが持っていた端末に表示されているボタンマークをポチッと押すとガコンとすぐそばの地面から何かの建造物がせり出てきた。周囲が驚きの顔をする中、姿を現したのは地下に通じる通路の入り口であった。
『これは……軍事基地でも見たのと似てる?』
『製造時期は違うでしょうが、規格は同じものだと思いますよ。カワゴエアンダーシティ側から送られたものでしたが、まだグリーンワームに気づかれていないようで幸いでした。これは地下都市の第一階層に繋がっています。ここから内部に潜入。第二階層を越えて第三階層まで到達しカワゴエアンダーシティの戦力と合流してください』
『なるほどな。けど第二階層への入り口は多分グリンワームも固まっているはずだろ。降りる際に戦闘になるが大丈夫かな?』
『地上でも戦闘を展開している以上、内部であなた方が発見されたからといってグリンワームも早々に行動を変えたりはしないでしょう。ただ入り口がひとつしかないので、その場を固められて籠城の態勢に入られでもしたら面倒です。通り抜ける際には一気に行っちゃってください』
『了解だヤマダさん』
渚の言葉に頷いたヤマダがその場の全員を見渡しながら口を開く。
『ナギサたちがカワゴエアンダーシティの戦力と合流し協力して反撃に入り、地上から攻めている我々もアンダーシティに突入。そして挟撃する形でグリンワームを殲滅です。我々なら決して不可能なことではありません。この埼玉圏の未来のために一丸となってことに当たりましょう!』
そしてヤマダの指示により、渚たちは地下通路へと潜入していき、地上部隊はグリンワームとの戦いに入るのであった。
【解説】
脱出用通路:
脱出用の通路は静音掘削機を用いて誰にも知られることなく生成される。レーダーなどでもただの地面としてしか認識できず、それは渚でも探索精度を上げねば発見は困難なほどである。
また一度使用された脱出経路は廃棄され、再度穴を掘って別の場所に設置されることとなる。




