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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
終章 終末の世界で謳う猫
317/321

第317話 渚さんとカワゴエの今

 コシガヤシーキャピタルに到着した渚はウィンドによるサプライズとアウラとの再会を経て、その後仲間たちにウィンドが姉であることを明かすこととなった。

 もっともそれらは目下迫っている問題に対して大きく影響を及ぼすものではない。アウラは肥大化した自身が直接グリーンドラゴンに接触することを忌避していたし、ウィンドとの関係もすでに己の立場を確立させている渚の状況を一変させるほどのものではなかった。

 そういった意味では渚にとって今後の戦いにおいて一番有益だったのはアウラとウィンドより渡されたアイテール結晶のペンダントを得たことだろう。

 ともあれ、それから一通りの雑務を済ませて持ってきた兵装の整備をバーナードたち整備班に頼んだ渚たちはその日はアースシップ内で休み、翌朝に騎士団たちとの作戦会議となったのである。


「我が剣にして盾、騎士団の面々にゲストの諸君。みんなお集まりだね。寝坊助もいないようで何よりだ」


 渚たちが呼ばれた作戦室は巨大な空中モニターがある壇上を中心に放射上に三方向に六列机が並べられた部屋で、そこにはすでに騎士団の幹部や団長、また共にカワゴエシティ奪還に参加する狩猟者ハンターの代表者たちも集まっていた。

 そして壇上に立っているのはコシガヤシーキャピタルのガヴァナー(総司令官)たるウィンドと参謀のヤマダだ。さすがにウィンドも普段のおちゃらけた雰囲気を出してはいない。


「じゃあ始めようか。さて、みんながここに呼ばれた理由はすでに知っての通り、グリンワームという新種の機械獣に現在進行形で侵略を受けているカワゴエシティ及びカワゴエアンダーシティの奪還」


 その言葉に全員の顔が引き締まったのと同時にウィンドが「だけのはずだったんだけどねぇ」と口にする。その言葉に渚や団長たちが首を傾げるが、ウィンドはわずかに目を細めて続きを促すようにヤマダの方に視線を向けた。


「はい。それではみなさん、これをごらんください」


 ヤマダの声と共に巨大モニターに都市の地図が表示される。それは作戦目標であるカワゴエシティのものであり、大部分が赤く染まっていた。


「こちらはカワゴエシティの全体図です。地上は完全にグリンワームの支配下にあり、さらに現在のアンダーシティへの予想進行具合はこうですね」


 ヤマダが右手をクイッとひねる様な動作をすると上空からの地図が真横に変わり、地下にあるアンダーシティの卵型の構造体が表示され、五段階の階層が映し出されていった。そして一番上の階層は赤く、二番目の階層は黄色く、三層より下はまだ青くなっていた。


「二階層の居住区まで攻められてんだな。三階層は製造区だったったよな? 市民はそっちに避難してんのか?」


 渚がそう口にする。アンダーシティの構造はどこも同じで一階層は商業区、二階層は居住区、三階層は製造区、四階層は機関区、五階層、六階層は機密エリアでまとめられている。


「そうですね。食料も製造区で生産されているため、現状のまま籠城できていれば市民の生命は保障されます。しかし現在、上級市民以外は四階層には入れません。よって下級市民は三階層まで到達された時点で終わりです。地上に避難する道が残っていれば生き残れるでしょうがそうなると今度は埼玉圏の人口比が上がることになりますね」


 下級市民が生き残れるか否かは避難経路がグリンワームに気付かれず残っているか次第だが、彼らが例え地上に出れたとしてもその後に続くのは苦難の道しかない。

 コシガヤシーキャピタルはカワゴエシティの難民を受け入れているためにそれ以上のキャパはなく、そもそも他の都市は現時点ですらも住人全員を養えてはいないのだ。また各地下都市は人口制限を設けているために他の地下都市の市民を受け入れることはない。

 その上に安穏と日常を過ごしてきた地下都市の人間がまともに地上の暮らしに適応できるとは考え辛く、当然彼らの未来は絶望的だ。そのまま全滅するか、武力を持って地上の都市を襲うか、結果として起こり得る悲劇を予想した者たちの顔が苦々しく歪んだ。もっともそれはここで改めて言うまでもなく最初から予想できたものだ。


「そうなれば、私たちにはまあ……非常に嫌な仕事が待っているだろうね。だからそうなる前にさっさとグリンワームを駆逐してカワゴエシティを奪い返さないといけないんだけど問題はここからだ。ヤマダくん。観測班の情報をもとにした進行ルートを出してくれる?」

「進行ルート?」


 なんのことだという顔をしたのは渚だけではない。けれどもウィンドが渚たちの疑問の声に応えることなく、ヤマダがモニターを操作していく。カワゴエシティのマップが縮小し、埼玉圏全体の図が現れ、埼玉圏中心部からカワゴエシティに向けてラインが引かれていった。

 その様子に部屋の中が騒ついた。何しろ現在中心部にいるであろう存在などひとつしかなく、それがカワゴエシティと結びつけられたのを考えれば、現在何が起きているのかを予測することはさして難しいことではない。そして団員のひとりが挙手しながら口を開いた。


「ガヴァナー・ウィンド。それはまさか?」

「うん。グリーンドラゴンだよ。あいつが動き出した」

【解説】

情報伝達網:

 埼玉圏内は瘴気の影響により長距離通信が不可能な状況となっている。瘴気の正体である浄化物質はナノマシンの集合体であり、常にスキャンによる監視と情報インフラの即時破壊を命令されており、例えば有線を引いても独自のロジックにより即座に物理破壊を行ってくる。作中では描写されていないが、かつて大規模な情報インフラ整備を計画された際には施設そのものが瘴気に包まれ燃やし尽くされたという記録も残っている。

 従って埼玉圏内での有効な情報伝達手段は足を使って直接情報を渡すことであり、現在のコシガヤシーキャピタルは機械獣と遭遇した場合でも対処が可能な熟練の騎士団団員を強行させることによって伝達速度をあげている。

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