第316話 渚さんと新たなる姉
あけましておめでとうから実に一ヶ月の月日が流れた。時間が経つのが早い……
これと前の話の中間に一話あったんですが、別作品のまのわの要素が強すぎたので省いたり、今話もなぎさとウィンドの関係をどうしようかと四苦八苦したり色々と難産でした。中間の話は多分、完結後に載せると思います。
それでは、今年もよろしくお願いします。
『渚、さっきよりもさっぱりした顔になったみたいだね』
「そうかな? へへ、そうかもな」
仲間の元へと戻ってきた渚が照れた顔で笑う。
コシガヤシーキャピタルに到着してすぐにウィンドに連れて行かれた渚であったが、一時間ほど経ってから戻ってくると妙に上機嫌になっていた。その様子を見たリンダが首を傾げながら口を開く。
「ナギサ。ガヴァナー・ウィンドから何か良い話でも聞かされたのですの?」
「おう。そうなんだよ。聞いて驚けよ。ウィンドさ……姉さんが実はあたしの姉ちゃんだったらしい」
その言葉には尋ねたリンダのみならず、ルークたち他の仲間も眉をひそめた。
確かに渚とウィンドはどことなく似ている。けれどもそれは同じヤワト民族で、さらにはどちらも年齢不相応に若く見えるためであるためだとリンダは思っていたし、他のメンバーも同様の認識だ。
そもそも以前にウィンドと遭遇した際の渚はウィンドを姉であるとは認識していなかった。記憶はおぼろげではあっても言葉の節々から姉が好きだとうかがえていた渚がその時に気付かないというのは普通に考えて不自然だ。
であればリンダたちの間で疑問が生じるのは当然のこと。
「ええと、ナギサ。それはどういうことですの?」
「んー、突然そんなこと言われても驚くよな。まあ、あたしもそうなんだけどウィンド姉さんも再生体だったんだ。で、あたしらのオリジナルが実の姉妹だったって話なんだよ」
『かなり不審に感じるかもしれないけど渚の話は事実だよ』
ミケが捕捉の言葉を入れると渚が不満気な顔をする。
「ミケ、不審ってどういう意味だよ?」
『分からないかな? リンダたちは君がガヴァナー・ウィンドに洗脳でもされたんじゃないかと不安になっているのさ』
「ウィンドさんがそんなこと……って、いや、そうだな。ちゃんと話しておくべきだよな」
実際に会ったことがある者であればウィンド本人が善性に寄った存在であることは理解できるだろう。良い歳をして子供のような性格をした落ち着きのないチンチクリン。本人だけに限っていえばそのイメージから外れることはない。けれども彼女の立場を考えれば見方は変わる。ガヴァナー・ウィンドはコシガヤシーキャピタルのトップであり、彼女の配下の騎士団はこの埼玉圏内でも自らを正義と言ってはばかからない、狩猟者からも野盗からも、住人からも恐れられている、ある意味では悪名高い存在だ。
であればウィンドが個人の情を殺して動くこともあるかもしれないのは渚も理解できた。
「まあ、記憶があるのはあたしだけで、ウィンド姉さんにはないんだけどさ」
それから渚は、ウィンドと事前に決めていた通りにアウラの件をボカした形で自分とウィンドの関係を話していった。
渚の記憶が治療によって戻ったこと。ウィンドは渚が生まれる前の姉のデータから生み出された再生体であること。そのためウィンドは渚を知らず、渚も記憶を取り戻したことでようやくウィンドと姉が一致したこと。遺伝子判定でも姉妹であることが確定したこと……等等。同時にミケとは通信でアウラも含めて情報を共有した。
「ま、あたしの知る姉貴はあんな笑う人じゃなかったし、無表情で言葉のニュアンスで感情が分かるような感じだったからな。ウィンド姉さんとは雰囲気が全然違うんだ」
(それはアイテール結晶侵食体の初期症状だね)
(んん、でもドクは違ったよな?)
通信でのミケの言葉に渚がそう返す。
カスカベの町でアイテール結晶侵食体となったドクは以前と変わらない、それどころか重力の重さでダルさが抜けていなかった頃よりもハツラツとなって復活していたのを渚は覚えていた。
(アレは再生体の魂を移し替えたからだね。アイテール結晶に侵食された肉体に宿る魂は負荷によって破壊されるか、耐え切れても感情の揺らぎのない存在と化す……らしい)
(なるほど。笑う練習とかしてたけど上手くいってなかったみたいだったけど……そうか。姉貴もそういう苦労をしてたんだな)
そんな脳内会話を高速でミケとしている渚に「それで」とリンダが口を挟んだ。
「その話が事実で渚が納得しているのでしたらわたくしたちが口を挟むことではないのですけれど……その、これからどういたしますの?」
そのリンダの問いに渚は少しだけ考えてから口を開いた。
「特に何かが変わるってわけじゃねえさ。アゲオアンダーシティ復興計画は継続。ウィンド姉さんはウィンド姉さんの、あたしはあたしのするべきことは変わんねえ。表向き、コシガヤシーキャピタルの協力が取り付け易くはなった……って、ところはあるのかもしれねえけど」
そう渚は言うもののアゲオアンダーシティの復興はコシガヤシーキャピタル内でカバーできない住人の受け皿にもなるのだから、彼らにとっても最重要課題だ。だから実際に何が変わるというものでもなかった。
「つっても正直再生体であることを抜きにしてもだな。ウィンド姉さんとはほら、血縁関係はあってもやっぱり他人も同然なんだよ」
「それは確かに……そうなのかもしれませんわね」
ウィンドは渚の記憶を持たず、渚もウィンドと姉では変わり過ぎていて同じ人物として見れない。実質的に両者にはこの世界での積み重ねしかない。
「うん。だからのんびりやっていこうってことにしたんだ。実感がなくてもウィンド姉さんとも家族なのは確かなんだ。それにあたしの姉貴とは違っていても、ウィンド姉さんも好きだからな」
「色々と複雑なようですわね。けど……それでもおめでとうと言わせていただきますわナギサ」
「あんがとよリンダ」
その渚の様子を見てルークたちも安堵の顔を見せる。
ここまで元々記憶がないことに関して後ろ向きではなかった渚だが、記憶が戻っても今までのあり方から変質するようなこともないようだった。それは埼玉圏という劣悪な環境を歩んできた経験が彼女のアイデンティティを確立し、より強固なものにしてきた結果でもあった。
【解説】
ウィンド姉さん:
渚はウィンドを姉貴とは呼ばず、ウィンド姉さんと呼ぶことにした。
それがアウラと同一視はできず、けれども姉妹としての新たな関係性を築こうと考えた渚の答えであり、弟は知っていても妹は知らないウィンドも渚の心情を鑑みて同意した。




