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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
終章 終末の世界で謳う猫
307/321

第307話 渚さんと微笑まぬ姉

『うーん』


 クキシティを出てから三十分ほど走り続けている武装ビークルの上。そこには猫耳レーダーで周囲を警戒しつつも、とあるものを眺めて唸っている渚の姿があった。そして渚が見ているものは一枚の写真だ。去り際にドクから渡されたその写真に写っているのは十歳前後の年頃の、よく似たふたりの少女だった。


『なんなんだろうな、こいつは?』


 ペラペラと写真を振りながら、渚はソレをジッと眺めている。

 少女たちの背後に建っている家に渚は既視感があった。ミケが調べたところ、その家は西暦2000年頃、或いは西暦4500年頃の埼玉圏に建っていた建築物に近しいデザインであるとのことだ。

 西暦2000年頃というのは渚のオリジナルが生きていた時代で、西暦4500年頃というのはエイリアン・ウォー以前のリヴァイバル・イアラと呼ばれる時代に該当する。リヴァイバル・イアラとは終末の獣によって滅びた旧文明よりも以前に滅びた古代文明のひとつのやり直しを行なっていた時代であり、それは人がもっとも栄えたと言われる黄金文明期を再現したものだという。

 もっとも写真に写っている子供が渚のオリジナルであるのだとすれば時代は西暦2000年頃であるだろう。問題なのはもうひとりのチンチクリンな少女だが、この少女に対して渚はどうにも違和感を覚えていた。


『その写真、ナギサの小さい頃とガヴァナー・ウィンド……っぽいですわよね?』

『見た感じはな。あたし本人ってこたぁ、あり得ないけどさ』


 幼い頃の渚らしき子供とは違い、もう片方のチンチクリンは渚たちの知っているウィンドそのままの姿をしていた。とはいえ、ウィンドとてさすがに4000年前から生きているはずもないために、写真に写っているのはウィンド本人である可能性は少ない。


『けれどもドクが渡したということは、何の繋がりもないってことはないですわよね?』

『だろうなぁ。ウィンドさんもあたしと同じ再生体? ……で、あたしのオリジナルと接点があったってことかな?』


 隣にいるリンダからの問いに渚はそう返す。

 クキアンダーシティを出る前にドクからその写真を受け取った渚は、それをガヴァナー・ウィンドに渡すようにと言われていた。


(となると、この写真はあたしに気づきを与えるもんじゃなく、ウィンドさんから何かを引き出すための撃鉄トリガーになるものってことかな?)


 それが一体何なのか……そう考える渚の横でリンダが目を細めて写真を観察している。


『それにしてもそっくりとはいきませんけど、こうして並んでいる姿を見るとふたりは姉妹のようですわね』

『まあ、そうだな。あたしにもそう見えるよ』


 同じ遺伝子を持っている……そう思える程度には写真のふたりは似ていた。それは今現在、渚とウィンドが並んでも同様に感じられるだろうとリンダは思った。以前にそう感じなかったのは渚とウィンドはこの埼玉圏を含むニホン列島の先住民であるヤワト族であり、似ているのは人種的に共通しているものだと思っていたからだ。けれどもこうして並べられた写真を見れば、両者が近しいのは血縁であるためだろうとも思えてくる。


『もしかするとガヴァナー・ウィンドはナギサのお姉様と関係がありますの?』

『んー、どうだろうな?』

『違うんですの?』


 歯切れの悪い渚の反応にリンダが首を傾げる。以前の反応からも渚はウィンドを慕っているようだし、渚ならば姉妹の可能性を喜ぶかと思ったのだが、その反応はリンダの考えていたものとは違っていた。


『いやさ。確かにあの人に姉貴の面影を感じたことはあったし、生き方も共感はできるんだよ。けどな。やっぱりあたしの記憶の中にある姉貴とは違うんだよ』

『違う?』


 明確な否定にリンダはさらに首を傾げる。


『あたしの記憶の中にある姉貴……まあ、この記憶が本物かどうかは分かんねえけどさ。ただ、普通に考えれば本物に近いはずだ』


 ここまで集めた自分の情報から渚は己がどういった存在なのかをある程度は理解していた。

 分類として渚は再生体だが、本来再生体とは元のデータが存在してこそ再生が可能なものだ。けれども渚のオリジナルが生きていた時代には大元の人間の情報を保存する技術が存在していない。だから現在の渚は過去のオリジナルを再生したのではなく、オリジナルを再現したデータを元に造り出された存在であると予想していた。

 とはいえ、再現されたのであれば大元と一致せずとも近しいものではあるはずだ。ましてや特別な存在という姉の記憶が偽りであるというのは妙な話で、その点は渚も信頼はしていた。


『顔も思い出せないんだけどさ。姉貴は笑わないんだよ』

『笑わない……ですの?』

『そうなんだ。笑顔を作ることはできたんだけど、心から笑うってことができない人だった。感情を表に出せないタイプだったんだろうな。だから……ん?』


 渚が目を細めて周囲を見渡す。それからリンダに視線を向けてスッと西側に注意をするよう促すとライフル銃を構えた。それと同時にリンダが仲間たちに声をかける。


『みなさん、戦闘準備を。渚が敵を感知しましたわ』


(この感じ、グリンワーム? いや、機械獣か)


 猫耳レーダーが捉えたのは巨大な物体だった。そして瘴気の霧の先をフィルターを通して確認したところ、そこには巨大なタコのような機械獣の姿があるのを確認できたのであった。

【解説】

黄金文明期:

 西暦2000年代前後は人が人としての最盛期を迎えた時代とされており『黄金文明期』と呼ばれている。技術の粋も、文化の粋も到達したとは言い難い時代ではあったが、それでも後の人類はこの頃を人類がもっとも栄えた時代だと定義した。それはかつて滅びた古代文明に馳せるある種の浪漫によるものであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ん?形状で言えばアルケーミストが該当するがあれは移動出来ない筈だし…
[良い点] 風音が笑わない・・・過去の謎が深まってなんかハラハラする!
[気になる点] タコ型……あの形で陸上が得意というのは考えにくい。 となると東京酸海から荒川跡?沿いに上陸? 海岸線近いのかな? [一言] オリジナル渚が「姉貴」って呼んでたのは風音に取り込まれ取り込…
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