第300話 渚さんと託された依頼
『いやー、悪りぃ。こっちもゴタゴタしててな。うちの局員からの連絡が遅れた』
『銃口向けられたときはどうしようかと思ったけど……特に被害もないし別にいいよ。それにアイツがヤベーってのは身に染みて知ってるからなぁ』
出会って早々のライアンの謝罪に渚が肩をすくめながらそう返した。
狩猟者管理局の建物の前の防衛陣地で渚は局長のライアンと合流を果たした。そしてその場には渚が乗ってきたメテオライオス・オメガとメテオライオス一体がいる。鹵獲した残り二体は今はリンダとともに戦っているはずであった。
そして渚はここの場に到着した際に一度は銃口を向けられたが、ミケ経由で報告を受けた局員が慌てて止めたことで攻撃を受けることはなかった。そもそもオメガの装甲は厚いし、それ以上にアイテールシールドは頑強だ。仮に狩猟者から攻撃を受けたとしても簡単にダメージを負うはずはないが、撃った撃たれたで揉める状況は渚としても勘弁願いたいところであった。
なおオメガもメテオライオスも渚の後ろで大人しくしてはいるが、周囲の狩猟者たちの怯えは目に見えて明らかだった。シルバークラス以下の狩猟者たちなら出会えば死は免れず、ゴールド以上でも万全に備えてどうにか戦いになるような相手である。機械獣の使役自体は一般的ではないにせよ認知されていたが、ここまでの大物が操られたなどという話は彼らも聞いたことはなく、いつ暴れ出すのではないかと各々が戦々恐々としているようだった。
『で、ナギサ。こんなのどこで拾ってきたんだよ』
『帰りがけに見つけてさ。ついでだから手懐けたんだよ』
『手懐けるってレベルの話じゃねえだろ、それ』
呆れた顔をするライアンに渚が『しゃーねえだろ』と返す。
『あいつら、ハニュウシティの方に向かって走ってたからな。止めなかったらかなりマズい状況になってただろうしさ』
『ハニュウシティが狙われたっていうのか?』
渚の言葉にライアンが眉をひそめる。
実のところ、例え地下都市がなくとも機械獣は人が集まる場所を積極的には狙わない。まったく狙わないというわけではないのだが、集落が半壊することはあっても壊滅することはあまりないのだ。
それは機械獣が地上の人間を人間として認識はしていなくとも生物であることは認識しているためであり、生態系を過度に破壊しないように制限を設けているためであった。その事実をライアンたちは知らぬが、それでも蓄積された経験からすればメテオライオスたちの行動は通常のものではない。もっともそのライアンの推測は見当違いではあったのだが。
『いんや、向かう先の途中にたまたまハニュウシティがあっただけっぽいな』
『向かう先って……メテオライオスもそうだが、オメガが埼玉圏に入ることなんて普通ねえぞ?』
『そうらしいな。たださ、今は普通じゃねえから』
その言葉にライアンがハッとした顔をした。現在の普通じゃない状況が何を原因としているのかなど決まっている。
『まさかグリーンドラゴンか?』
『そういうことだよ。一度大量にアイテール奪取できたんでまた奪いに来たっぽい。それも多分こいつらだけじゃねえってのが厄介なところでさ』
ライアンの顔が青くなる。グリーンドラゴンの保有するアイテールを奪うために強力な機械獣が圏外から押し寄せてくる。今でさえひどい状況だというのに、渚の言葉は事態がさらに悪化する可能性があることを示唆していた。
『ライアンさん、そっちの話は後だ。で、今の街の状況はどうなんだよ?』
『見ての通りだ。第二のカワゴエにはならねえように頑張ってるところだがあの緑ミミズどもに良いようにやられやがってるさ』
あちらこちらから煙をあげている都市を見渡しながらライアンがそううそぶく。カワゴエシティがすでに同じように襲われて陥落している以上、ここも同じようにならないとは限らない。
『もっとも』
……とライアンが渚に視線を向ける。状況は変わったのだ。問題だった相手もすでに『二体』片付いている。その上に信頼するメンバーが近づいてきていることもライアンは報告を受けていた。
『お前とリンダがビッグワームを倒してくれたからな』
『ビッグワーム? ああ、あのデカいのか。それをリンダも倒したのか?』
渚の問いにライアンが頷いた。それはつい今メルメットに届いた通信からの報告だ。どうやら渚と同様にリンダもあの巨大なグリンワームを倒したようだった。
『おうよ。大した腕になったなあの嬢ちゃんも』
『今のリンダの実力は相当なもんだぜ。あのヘルメスの翼はビッグワームにとっては天敵みたいなもんだしさ』
『ヘルメスの翼!? あの婆ぁ、アレを孫に渡したってのかよ。しかし、なるほどな。それなら納得だ。ひとつひとつ集まった集合体をズタズタに引き裂いたわけか』
ライアンはリンダの戦いの状況を正確に推測できていた。トリー・バーナムがかつて使用していたマシンレッグ『ヘルメス』の主武装『ヘルメスの翼』は大量のナノワイヤーを瞬時に生み出し攻撃に転じさせる兵器だ。それを使ってビッグワームを形成するすべてのグリンワームを切り刻む。表面がゴムのような柔い有機物質で造られているグリンワームであれば、それは難しい話ではないだろう。
『そういうことだよ。あたしはオメガのアイテールチャージを全開にして中から焼き切っただけだけどな』
渚の『だけ』という言葉にライアンが口元をひきつらせた。そんなことが可能なのはオメガのような特別な存在だけだ。ビッグワームは渚にしたところでタンクバスターモードを使わなければ一撃では対処できない相手である。
『あのデカブツには普通の銃弾が効きにくいから俺らだとどうもな。いや、効いてねえわけじゃねえが形成しているグリンワームを数体倒したところで動きは止まらねえからな。グレネードかショットガンでチビチビ削ってくしかねえんだよ』
銃か手榴弾などこそあるが大規模破壊兵器は埼玉圏にほとんど存在していない。遺失技術としてたまに見つかっても地下都市が回収しているし、そもそも都市内で使えば被害は甚大なものとなってしまうのだから、あったとしても使用できるものではなかった。
『あんたのガトリングならいけるだろうけどな』
『いざとなれば出向くつもりだったが……これはこれで弾代がな。まったく経済的にも優しくない敵だよ、あのクソミミズどもは』
そう言って苦笑したライアンがすぐさま真面目な顔になって渚を見た。
『ん、今通信でダンたちが街に到着したって報告も来た。あいつらも合流すればひとまずは安心だろう』
『ああ、ダンさんたちもかっ飛ばしてきたからな』
それよりもメテオライオスの移動速度がさらに上回っていたから渚たちが先に来れたというだけのこと。渚やリンダよりもこれまで街を守ってきたダンたちの方こそ、この現状には怒りを燃やしているはずだった。
『しかし問題はまだある。で、お前らにその対処を頼みたいんだが』
『問題?』
ライアンが深く頷く。それからライアンがデータを渚に転送するとドクロメットのバイザーに都市の地図とふたつの光点が表示された。そして光点にはビッグワームという表示があった。
『あのクソデカミミズがまだ二体いて、暴れてやがる。渚とリンダ、お前らにはそいつの討伐を狩猟者管理局として頼みたいんだ』
【解説】
ビッグワーム:
グリンワームの集合体。心臓部となるコアはなく、集まったグリンワームすべてを始末しなければ倒しきることができない厄介な存在。




