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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第7章 地獄輪廻界『群馬』
290/321

第290話 賢人と冴えたる道筋

 機械種。

 それはかつて太陽系に侵攻してきたラモーテという外宇宙生命体に対抗するために生まれた決戦兵器の名であった。

 ラモーテとは小判鮫の英名であり、その名は彼らが別種の外宇宙生命体の跡を追跡して便乗しエネルギーを得ることを目的とした生命体であることから名付けられていた。

 そのラモーテに追われていた別種の外宇宙生命体の名は恒星寄生種アポロンダガーというイカに近い外見をした生物だった。アポロンダガーは西暦2030年代に太陽表面上に生息しているのを発見されたが、人類は接触することはおろか接近することもできぬまま、発見から太陽系を去るまでの3000年の間、接点を持つことができなかった。そのために現時点でも彼らについての情報は過去の観測記録しか残ってはいない。

 とはいえ、それだけならば何も問題はなかった。生命は地球だけのものではないのだと、地球は孤独な存在ではないのだと知れただけで終わりのはずだった。問題が起きたのは、アポロンダガーが太陽系より離れて50年が経過したのちのことだ。ラモーテの太陽系への到来。それが人類史上最大の危機の始まりだ。

 ラモーテはアポロンダガーとは違い、人類を捕食対象と定めて襲ってきたのだ。

 そもそもの発端は最初に到達した一体のラモーテに対して人類が攻撃を仕掛けたことが原因だったのではないかとも言われているが、どうであるにせよこの時より人類は否応なしに初の地球外生命体との戦争を開始することとなる。


 第一次エイリアン・ウォー。

 最初のラモーテとの戦いはそう呼ばれている。

 たった一体が地上に降り立っただけで人類は一度壊滅の危機に襲われた。


 第二次エイリアン・ウォー。

 百のラモーテとの宇宙での戦い。航宙艦隊による大規模戦闘の末の勝利に人類は大いに沸き立った。その百体が全体の小指の先にも満たないただの先遣隊であることを知るまでは……であったが。


 第三次エイリアン・ウォー。

 十億を超える本隊の存在を知った人類の多くは太陽系を諦めて外宇宙へ逃げ出すことを選択した。外宇宙脱出計画コスモエクソダス。それこそが人類最後の希望であったが、残された者にとっては何の意味があろうか。故に見捨てられた彼らは蔓延する絶望の中で狂気的とも言える行動力によりさまざまな兵器を開発し、ついには機械種を誕生させるに至る。

 それは過剰とも言える環境適応能力を持ち、経験を積むことで加速度的に進化をし、自身の存在が消滅せぬ限りいずれは勝利するという怪物。もはやその存在は巨大なガン細胞にも近く、地球圏に存在すればいずれは地球そのものが機械種に転じてしまうだろうと予測されたために彼らの生息域は木星軌道ジュピターラインより外と定められていた。

 その機械種の活躍により最終的に人類はラモーテに対して勝利を収めることになったのは現在人類が滅亡していないことからも明らかではあったが、実のところ地球圏にもわずかではあるが機械種は残されていたのである。


 本来はテラフォーミングを目的としたものではあったがアウター鎮圧を目的とした人類抹殺システムに調整されたナノミストタイプ。


 機械獣同様に個体としての形状を維持するよう機能を制限されたドラゴンタイプ。


 人類管理システムとして調整されたトレントタイプ。


 機械種を別の用途に使用するためのテストベッド機の中でも、実用化されたのは人類管理システムとして生まれたトレントタイプだった。それが賢人ワイズマンと呼ばれた個体だ。

 エイリアン・ウォーを経て荒れ果てた大地を再生するために運用された賢人ワイズマンは想定された通りの性能を発揮し、長期に渡り人類の管理を行い続けた。けれども彼という存在にも欠点はあった。

 そもそも100年程度の寿命の人間の精神構造をベースにしたAIの耐久年数は精々が100年+アルファであり、高負荷がかかり続ければ保たないことは自明の理であったのだ。

 通常のAIはそれ故にメンタルケアを重視するし、複数のAIでの持ち回りなどで対処を行う。しかし賢人ワイズマンは『機械種』であり、それが精神的な崩壊であろうとすぐさま修復されるため、彼にはそもそも壊れるという自由が存在していなかった。

 だが、そんな欠陥品はいずれどこかで破滅するものだ。結局のところ最後まで狂えなかった賢人ワイズマンのとった行動は管理外の人類アウターの反乱に便乗した自死であり、それが現代まで文明崩壊の原因として知られる終末戦争と呼ばれるものの正体だった。


(そして、私は死んだはずだった)


 終末戦争。それを引き起こした終末の獣は『実のところ』賢人ワイズマンの仕込みだ。賢人ワイズマンは人類を守るために自ら死を選べない。自殺ができない。賢人ワイズマンは人類を見捨てることができない。宇宙にいる機械種(仲間)の元にいくこともできない。

 だから彼は管理する側と反発する側のバランスを自ら取り、それを意図的に崩すことで自身を死に導いていた。結果としてそれは成功したはずだった。


(だというのに私はまた起こされてしまった)


 そう、彼は未だ生きている。

 終末戦争終了後、地球圏の環境悪化を目にした天国の円環ヘブンスハイローの一部の天上人が黒雨を撒き、地球圏を人類の存在を許さぬ世界へと変えた。

 彼らの主張は、地球は自然の回復に任せて人は宇宙で繁栄していく……というものであり、その試みは半分成功し半分失敗した。

 そして賢人ワイズマンはといえば、彼のいたコロニーの生き残りが発動させたサブシステムによって再起動を余儀なくされ、紆余曲折の末に現在は日本の地下にいた。とはいえ賢人ワイズマンは竜卵計画という計画を企て人類の繁栄のための犠牲となることを名目に再び自死したはずだったが、こうして目覚めているのだから今度も失敗したようだと彼は理解していた。


(……けれど)


 目覚めたばかりの賢人ワイズマンは思う。

 機械種としての能力を再稼働させた彼はすぐさまここまでに至った経緯の情報を得て、状況が変わったことを知る。死を望み続けた彼は死とは別の道を見出していた。


『どうやら私にとっても吉報のようだ』


 渚とミケの前で賢人ワイズマンは笑う。賢人ワイズマンの吉報。それが果たして渚たちにとってもそうであるのか否か……それを彼女らが知るのはもうまもなくのことであった。

【解説】

エイリアン・ウォー:

 かつて人類は三度、ラモーテという外宇宙生命体との戦争を行なっている。

 第一次は地球圏内に降下してきた一体のラモーテと、第二次は百体のラモーテと、第三次は十億を越える数のラモーテとの戦いであり、それぞれの戦いの規模はまったく次元が違うものであった。また厳密に言えば、第三次エイリアン・ウォーは現在も続いており、終息する未来は未だ見えていない。




※規模的には順にブルージェ●ダー、宇宙戦艦ナ●シコ、ゲッペラー(ほどではない)な感じで。

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― 新着の感想 ―
宇宙怪獣ぐらいかと思ってたら、ゲッペラーだった
[一言] ヌルっと世界の一端がみえるの… 良いですね!
[一言] >アポロンダガー まのわ世界観では「ゲドゥルト・フェノメーン」未発生か つうかブルージェンダーとか今時の読者は知っているのか?
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