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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第7章 地獄輪廻界『群馬』
277/321

第277話 渚さんと三機のウォーマシン

『爆発?』


 足元がぐらつき、窓ガラスがブルブルと震えた。すぐ近くではない。けれども、この施設内のどこかで何かが起こっているのは渚たちにもすぐに把握できた。


『音が響いて……ああ、瘴気がないからですわね』


 その中でリンダがズレた言葉を口にする。埼玉圏内では離れた距離の音は瘴気によって消されてしまうため、この状況にリンダは違和感を覚えたのだ。もっともそれは大きな問題ではない。問題となるのは音の出元であった。


『渚、音紋が一致した。今の爆発の原因はハンズオブグローリーのタンクバスターモードだ。ウォーマシンが動いているね』

『あのドームの前にいるヤツ以外にもウォーマシンがいるってことか。こりゃあ……マーシャルさん』

『ああ、分かってる。チームブラボーの反応が消えた。やられたな』


 マーシャルが苦い顔でそう返す。三人のバイザーに表示されているマップに出ていたチームブラボーの光点はすでに消えていた。タンクバスターモードの発動が確認できたと同時に信号が途絶えたのだから、その意味するところはひとつしかない。


『どうすんだよ?』

『作戦の変更はないが……不味いな』

『ああ、当然連中も気づいたはずだ。動き出したぜ』


 そう言い合っている間に施設内でサイレンが鳴り響き始め、ドームの入り口前にいたウォーマシンが動き出し、いくつかの場所で隔壁が下り始めているのが窓の外に見えた。


『マーシャル。どうやら君たちの想定はいささか甘過ぎたようだ』

『どういうことだ?』


 眉をひそめるマーシャルにミケが目を細めて視線を送り、ヒゲを揺らす。


『ここが軍事施設のひとつであるのだから君たちがミリタリークラスとして想定していることは間違っていなかったのだけれどね。この内部の一部はその上の最重要機密区画アンタッチャブルに設定されていると思うよ。この規模の施設で複数のウォーマシンを稼働させているのだから多分間違いない』

『考えていたよりも危険ってことか、ミケ?』

『そういう認識で間違いないかな。地下都市内の禁止区画に相当するものだ。む?』


 ミケが話している途中で、別のところでも爆発音が響き、さらには窓の外に空に向かって緑の光が伸びたのが見えた。それだけで渚もミケも何が起きたのかを察し、眉間にしわを寄せる。


『あれは……ドラグーンのファイターバスターモードだな。さっきとは場所が違う。ウォーマシンがもう一機いる。ドームの前のも含めて最低三機か。キッツいな、こりゃあ』

『チームチャーリーの反応も消えた。どうやら生き残っているのは我々だけのようだ』


 マーシャルが感情を削ぎ落としたかのような、まるで能面を被っているかのような顔でそう告げる。


(ミケ?)

『問題ない。マーシャルは正常だよ』


 マーシャルの様子を疑問視した渚にミケがそう返す。

 実のところ、かつてアゲオダンジョンで渚と対峙したパトリオット教団の戦闘員ケネディと同様にマーシャルにも再生能力やセンスブーストが備わっており、また渚と同じようなかつての兵士の技術もインストールされていた。またマーシャルたちはワシントンSDCの防衛を主としていたために、埼玉圏の狩猟者ハンターやケネディたち遠征メンバーたちとは違って仲間の死というものにあまり慣れてはいない。

 だからストレスが振り切ったことでマーシャルは戦士の技術のテクストに従って感情面を停止させた。その上に渚のように情緒面を調整してくれるパートナーミケがいないために能面のような無感情の表情となっていたのである。


『それでマーシャル、君はどうする? 残念ながら君の戦闘技術ではこの先は厳しいかもしれないよ』

『俺が駄目ならナギサたちは?』

『彼女たちならこのまま進むことは可能だ。だから作戦そのものは続行する。僕らにも目的があるしね。ここで判断するのは君が付いてくるか退くかだ』

『それならば、返答を返すまでもないな』


 そう返してマーシャルがライフル銃を構えて前に出た。つまりはひとりも欠けることなく作戦は続行。その様子に頷きつつも、ミケが別のところに視線を向ける。その先にあるのは壁だが、ミケには別のものも見えていた。


『そうかい。だったら早めに動いた方がいいだろうね。厄介な状況は続いているようだし』

『そうですね。振動音を感知。外にいたデキソコナイがサイレンに気づいて施設内に殺到しているようです』


 クロの言葉の通り、バイザーに表示されたマップの施設入り口付近に赤い光点が大量に表示されており、それは外からさらに集まってきているようだった。その様子にリンダが青い顔をして『これが全部デキソコナイですの?』と口にした。光点として表示されているから現実味はないが、これが示すリアルを想像すればリンダの顔が青くなるのは必然であった。


『そのようだね。どうやら生産されたデキソコナイは通常は施設外で生活しているらしい。数が溜まると埼玉圏に向かうのかな。口減らし……という意味合いが強そうだけど』

『この数で殺到されたら、こっちの姿が見えなくとも通路が埋まって見つかりそうだな』

『そう思うよ。だから、ひとまずは僕の分身を陽動に使おう。どの程度効力があるかは分からないけど、やらないよりはマシだろう』


 そう口にしたミケの体から緑の光が漏れると、それは光る猫の形へと変わり、さらにはそれらは五体にまで増えて、すぐさまその場から去っていった。その様子にマーシャルが目を細めながらミケを見た。


『今のはなんだ?』

自爆猫スーサイドキャット。アイテールから作ったエネルギー体の一種だ。思考を付与したから少し疲れたよ』

『んじゃあ私に乗ってけ』

『そうさせてもらうよ』


 そう口にしたミケがピョンと飛んで渚の頭に乗った。


『そんじゃあ、行くとするかおふたりさん。焦りは禁物。けど迅速にだ。機械種のコアを奪ってとっとと逃げようぜ』


 その言葉にリンダとマーシャルとミケが頷くと、それぞれのバイザーにルートが表示される。それは先ほどまでとは違って高い集中力を要求される、リスクを伴った強行ルートだ。それはわずかな時間の差異が生存率を大きく変える状況になったことで成功率が変動したためにリルートされた結果であった。

 そして三人と一匹が即座に動き出す。その間もサイレンが鳴り止む気配はなかった。


【解説】

最重要機密区画アンタッチャブル

 軍事基地内の区画識別の中でも最上位に値するエリアを指す。

 行使できる権限が増すため、防衛のための戦力申請が容易となる。

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