第266話 渚さんと機械獣の向かう先
『まさか、パトリオット教団の本拠地が襲われてますの?』
リンダが眉をひそめて、その光景を眺めている。
巨大樹の森の先では埼玉圏で百鬼夜行と呼ばれている機械獣の群れの列が続いており、それは彼女らの向かう先へと向かっているようにも見えた。もっともその疑問の言葉に対して、リンダの足から『違うようですよ』とクロの否定の声が響く。
『リンダ、よく見てください。確かに近くを通ってはいますが、わずかに別の方角へと進んでいます。あのまま進むのであれば目的地には到達しませんよ』
『あら……本当ですわね。だとすればアレは一体どこへと向かっているのでしょうか?』
『ここからだとさすがに分からないな。あたしがちょっと見てくるよ』
『見てくるって……ナギサ、あの数ですよ』
リンダの言葉に対して渚がスッと手を挙げると、その体が周囲に溶けていくように消えていった。ダンやオスカーが驚いた顔でその様子を見ているが、それは渚が取り込んだ光学迷彩の効果だ。
『あたしはこういうときのための手段を持ってるからな。そんじゃ、ちょっと行ってくるわ』
そう言って姿を消した渚は同様に光学迷彩を発動させたミケとともにその場を離れ、機械獣の群れへと近付いていった。
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『メテオライオスや……空を飛んでいるのはフォートレスホエールと言ったかな。かなり強力な機械獣もいるみたいだね』
『ああ、こっちのことがバレたらさすがに不味いな』
そして百鬼夜行へと近付いた渚たちが目にしたものは様々な機械獣の群れであった。中には戦闘能力の高い種や全身に緑の結晶を生やした古老級と呼ばれる個体も存在しており、渚も警戒のレベルを上げていった。
『なあミケ。もしかして埼玉圏の外の世界って、こういう光景が普通だったりするのかな?』
『それならダンがあらかじめ警告しているだろうし、それはないと思うよ。それと機械獣の移動先だけど……ルートを計算してみたけどアカギマウンテンには向かわず西側、ワタラセ渓谷の方へと向かっているみたいだ』
渚のバイザーに群馬圏のマップが表示され、そこにミケが計算したルートが表示される。
『ワタラセ渓谷か。グンマエンパイアのあるところだよな。もしかして機械獣はグンマエンパイアを狙ってるのか?』
『それで機械獣がグンマエンパイアを制圧してくれれば、懸念はひとつ解決するんだけど多分違うかな。グンマエンパイアは昔から存在しているし、そんな状況になるようならもっと昔にグンマエンパイアはなくなっているはずだよね』
『そりゃあ……な。となると単純に向かう先が被ってるだけか?』
『そうかもしれないし、そうじゃない場合の予想もつくんだけど』
その言葉に渚が首を傾げるとミケが『まあ、ひとまずは一旦戻ろうか』と口にした。規模と状況は把握できたし様子見という目的を果たしたのだ。そして渚たちは、機械獣に見つかることなく仲間たちの元へと戻っていった。
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『なるほど、機械獣はグンマエンパイアの方へと向かっていたのか』
『けど、機械獣があの場所に攻め込んだなんて話は聞かないぜ。なあダン?』
『ああ、過去にグンマエンパイアに機械獣を誘導したことがあったらしいんだが、上手くはいかなかったと聞いているな』
戻ってきた渚たちの百鬼夜行の説明に対しダンとオスカーが眉間にしわを寄せながらそう言葉を返した。
『上手くいかなかったってなんでだ? 機械獣はデキソコナイを襲うんだよな』
『まあな。ただ機械獣はグンマエンパイアに近づかなかったんだそうだ。俺も報告書で読んだだけだが、恐らくグンマエンパイアは地下都市と同じく機械獣が攻め込めない場所になっているんだろう』
『だとすりゃ機械獣たちがグンマエンパイアの方へと向かっているのは偶然か』
『どうだろうね。でも彼らの目的地がグンマエンパイアなら、機械獣はそこにアイテールを届けにいっているのかもしれないよ』
『は? なんで?』
目を丸くした渚の問いはその場の全員の共通した疑問でもあった。
『別に難しい話ではないよ。デキソコナイは自然繁殖ではなくグンマエンパイアで生産されているようだしね。生物の生産なんてプラント、或いは軍事基地か研究所でなければできないものだ。ただ当然エネルギーの供給問題は発生する』
『それを機械獣がアイテールで補ってるって言いたいのか。でも、なんで機械獣がそんなことをするんだよ?』
『新世界運営計画だよ』
ミケの言葉に渚の目が細められる。
それはここに来る途中の地下基地で見つけた計画であった。
『アレによれば機械獣は軌道エレベーターにアイテールを運ぶんだ。その際に経由する場所があっても不思議じゃないし、地上の生きている施設への補充を行なうように行動設定されていたとしても不思議じゃない』
『つまりデキソコナイは機械獣のアイテールで造られてるってことか? となると、それは……うん?』
『どうしましたのナギサ?』
いきなり周囲を見回した渚の反応にリンダが首を傾げる。
『これは……囲まれてる?』
その言葉に全員が一斉に銃を手にとって巨木の影に隠れるように動き出した。そして全員のバイザーに渚からデータ共有されている箱庭の世界のフィールドマップが表示され、この場からそれなりに離れた地点に動体反応を持つ何かが複数出現したことを知らせていた。
『これって……距離はありますけどここまでナギサの感知能力でも気付けませんでしたの?』
『まだ箱庭の世界の範囲外だったし光学迷彩を使ってるみたいで察知しにくかったんだよ。けど光学迷彩を使ってるならパトリオット教団か?』
『光学迷彩は元々彼らのものだったからね。けれども箱庭の世界の範囲に入った時点でその意味はなくなる』
ミケの言葉と共に全員のバイザーに離れた地点にいる十三人の人間の姿が映し出された。相手は箱庭の世界の索敵範囲内にすでに入っており、同種の光学迷彩であれば渚はそれを解析してAR表示で場所を把握することができる。
『相手から積極的に攻撃しようという感じはしないか。それに戦闘になれば機械獣に気付かれるだろうし、こちらから仕掛けるのは止めておいた方が無難だろうね』
『んー、確かにそうだな』
渚の目にも近付いてくる者たちに戦う意思が感じられなかった。すでに箱庭の世界の圏内である以上は不意打ちを食らうということはないし、今の渚たちであれば十分に制圧できるだろうとチップが戦力分析も出していた。
『おや、光学迷彩を解いて近付いて来ている人がひとりいるね。武器は下ろして両手を挙げてる』
『戦う意思なし。つまりは交渉するつもりか? なら、様子見だな。こちらからは撃つなよ』
ダンの言葉に全員が頷き、銃口は向けつつも近づく相手を待った。
そして近づいてきたのは、アストロクロウズの上に星の柄が散りばめられた青いフードと赤と白のストライプの外套を纏う男だった。
『あれは確かにパトリオット教団だ。なかなか強そうではあるが』
『そうだな。マーカスさんに似た気配をしてる』
そう口にした渚に相手の男が視線を向け、それから口を開いた。
『争うつもりはない。我々はそちらのドクロメット、竜の苗床に会いにきた』
『んー、こっちのことは知ってるわけか。で、あんた誰だよ?』
その渚の問いにバイザー越しに見える男の目がわずかに細められ、それから渚を観察するように目が動く。
『私はパトリオット教団の陸軍大将マーシャル・ロウ。竜卵の苗床、お前をホワイトハウスに案内するようにと大統領より命を受けてこの場に来た』
【解説】
パトリオット教団の服装:
星の柄をちりばめた青いフードに赤と白のストライプの外套がパトリオット教団の正装であり、それはかつて存在したアメリカ合衆国の星条旗を元にデザインされている。




