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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第7章 地獄輪廻界『群馬』
265/321

第265話 渚さんと生者の進軍

 その日を地下施設で過ごした渚たちであったが、探索の結果はミケの見せた映像と機械獣モドキ以外に価値があるような品を発見することはできなかった。貯蔵されていたアイテールも確認したが、あえて回収して生きている基地を機能不全にする意味もない。なので翌日には地下施設を出て、ミケが見つけたパトリオット教団の施設のある座標を目指すこととなったのである。


『結局あの施設ってなんだったんだ? 軍事施設の一種だよな?』


 その道中で渚がミケに尋ねる。周囲の建物に比べて風化せずに残っているところからして地下都市や軍事基地と同種の施設であることは渚も理解できていた。


『そうだね。軍事基地のひとつだよ。物資がほとんどなかったのは、天国の円環ヘブンスハイローに引き上げた際に持っていったからだろうね。まあ、何か残っていてもパトリオット教団が回収しているだろうし機械獣モドキは多分だけどアイテール回収用に置いてあったんじゃないかな』

『軍事基地ねえ。埼玉圏内にもあったし、確か東京砂漠にもいくつか廃棄された基地があるって話だよな。そんなに基地って分散して建っているものなのか?』

『一箇所にまとまっている方が便利ではあるんだけどね。対宙用の大規模破壊兵器が地上に持ち込まれることも少なくなかったから軍事基地なんて分かりやすい攻撃目標は分散して隠すようになっていたんだよ』

『そりゃ、物騒な話だな』

『まったくだね。君と僕が目覚めた軍事基地もそうした隠された基地だったんじゃないかな』


 ミケの言葉になるほどと渚は頷きながら、かつて天上人がグリーンドラゴンを捕獲しようと地上に降りて北海道の一部を破壊した……という話を思い出した。また伝承として残っている終末の獣は地球全土を破壊したというし、黒雨は今も人類を殺し続けている。


(人が宇宙に手を伸ばし、地球に収まらなくなって、そして戦いの炎は宇宙で大きくなっていったってわけか)


 それはもはや地球にとっては毒でしかなく、またそれを象徴する兵器が機械種でもあった。外宇宙生命体の侵略を阻止した人類の決戦兵器。それはコシガヤシーキャピタルにいるミケの本体であり、グリーンドラゴンであり、黒雨もその一種であり、またその種子は渚の中に存在している。


『人間は……地球に居続けるべきじゃあなかったのかもな』

『かもしれないね。人類全体のことを考えるなら宇宙で繁栄することを目的とした新世界運営計画がうまく動いていれば……と思わなくもないよ。その結果が地上の人間にとって良しとなるか悪しとなるかは分からないけどね』


 宇宙が住みやすくなったとして、それで宇宙そらの人間が地上の人間に手を差し伸べてくれるかを期待できるかと問われれば、渚でも素直に頷くのは難しい。

 市民IDがなければそもそも人間として認識されず、アイテールを生み出す資源のひとつ程度にしか見られないかもしれないし、現在進行形でそうなっていないとも限らない。

 新世界運営計画が頓挫したというのはここに落ちたミケーレ・ハウフマンの予測であり、コシガヤシーキャピタルで聞いた話が正しければ、その後に天上人はグリーンドラゴンを捕獲しに一度は地上に降りてきているのだ。

 実のところ、新世界運営計画は稼働していて、ただその恩恵を地上の人間は受けていないだけ……というのは十分に考えられることであった。


(とはいえ、あたしらがそれを知る方法はねえんだけどな)


 リングナビゲーションシステムが生きている以上は天国の円環ヘブンスハイローが完全に動いていないわけではないのだろうが、ここに落ちてきたミケーレや地下都市でも天上人とは連絡が取れないのだから、現時点で天上人の状況を知るすべはない。そのことを一人考えていた渚の後ろでルークが『だとすりゃさ』と口にした。


『ここまで文明を破壊されて地べた這いずるまで堕とされたところで人間はようやくまた地球に住むことを許されたってことなのかね?』


 話に加わって来たルークに渚が眉をひそめて首を傾げた。


『そりゃあ、どうだかな。少なくともあたしは今の状況が許されてるようにはとても見えねえよ』

『ま、そりゃあそうだわな。けど、それでもこうして俺たちは生きているんだ。俺の知ってるやつの受け売りじゃあ、人間……というか生物ってのは元々苦しみながら生きていくようにできているらしいぜ。だから明日を良くしようと努力をするんだと』

『生物ってのは苦労性なんだな。まあ、言いたいことは分かるよ。で、そりゃ誰の受け売りだよ?』

『今はもういないヤツの言葉だよ。俺には苦しみ続けろってひでえ事言って自分はさっさとくたばって楽になっちまった。ま、昔の話だけどな』


 そう言ってから少しだけ寂しそうに笑って肩を落としたルークが渚からミケに視線を移す。


『ところでミケ。ちょっと聞きたいんだがいいか?』

『なんだいルーク?』

『お前、昨日ミランダにあの機械獣もどきのパーツとシリンダーを移植してたよな。ありゃ、なんだよ?』

『うん。もしかして上手く使えないかと思ってね』


 その言葉に驚いたのはダンだった。


『おい、待て。昨日は使えないって言ってなかったか?』

『僕は量産は無理と言っただけだよ』


 さらりと返したミケの言葉に、ダンは目を丸くしながら今の話を頭の中で反芻してから口を開く。


『と、ということはだ。そのメディカロイドは機械獣から戦わずにアイテールを手に入れられるということなのか?』

『可能なはずだね。ただ検証は必要だし、今瘴気のない状況で信号を出せば機械獣がわらわら集まってくる。そうなるとミランダは無事だとしても僕らは攻撃されるだろう』

『あ、ああ。そりゃあ良くないな』


 埼玉圏内の瘴気とは違い、黒雨の混じった空気は接触すれば確実に死が待っている。アストロクロウズは頑丈だが攻撃を喰らえば傷はつくのだ。だからこそ機械獣との接触は最低限に済ませるようにダンは動いていた。


『だから今は使用しないよ。ミランダもそのつもりでね』

『はいミケ。そもそも私が襲われない保証もありませんしね』

『そういうこと。まあ、ミランダにはシリンダー二本分しか積めなかったし、その程度ならそもそも倒したほうが早いんだけど』

『それでも戦えない者にとっては救いになる』

『まあ、そうだね。あと昨日は量産できないと言ったけど時間をかけて解析を行なえば、ハードウェアのコピーはできなくともソフトウェア上で対応することは不可能ではないかもしれない』

『本当か?』

『まあね。ただ、その信号ってのもダミー暗号を多量に交えた機械言語でね。解析ができても一種のコミュニケーションのようなもので応答してくる。そのやり取りを失敗すれば攻撃されるようなんだよね。なので、とりあえずは時間をかけて進めてみるつもりさ』


 ミケがそう言って締めくくり、それからも似たような話を交えながらも渚たちは進んでいく。外の世界はやはり緑に溢れており、行く先々では鹿や猿、熊、犬……また小動物などの姿もいくつか見受けられた。それは渚が知る元の世界の自然そのものだった。人間が存在しないという点を除けば、世界は元の姿を取り戻しつつあるのだと渚は理解できた。埼玉圏内とはまるで違う世界がそこにはあった。

 そして渚たちが辿り着いた先は最初に想定していたアカギマウンテンの麓であった。ミケの発見した座標によればパトリオット教団の居場所はその場所に存在しているはずであり、


『こりゃあ、どういうことだよ?』


 目的地であるはずの地域の近くを大量の機械獣が移動しているのを渚たちは目撃したのであった。

【解説】

対宙用大規模破壊兵器:

 宇宙で使用される兵器の多くは地上での使用を考慮されぬ恐るべき威力を誇っており、中でも代表的な兵器が人類決戦兵器『機械種』であり、終末の獣と称される機体も分類されるキベルテネス級兵器ですら本来の機械種の戦闘能力に比べれば戦闘機と竹槍以上の差が存在する。

 そのようなものが闊歩する世界で地球が今も現存しているのはアウラやガイアなどというコードで呼ばれている機械種と同等の存在によるところが大きいのだが、その事実を知る者は過去を含めてもそう多くはない。

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