第026話 渚さんと襲撃の犬
『結構来てるなあ。こんなに多いのか』
渚がそう口にする。迫る機械獣の数は見たところ十二体。
渚も何度か相対した相手であり、リンダの言葉によればそれはスケイルドッグと呼ばれる機械獣であった。
『おーし。あの程度の数、到達させんじゃねえぞ』
『あったり前だ。バカヤロー』
そして、狩猟者たちが軽口を叩き合いながら横一列に並んで銃を撃ち始める。彼らの武器は渚と同様にライフル銃が多く、他に機関銃やショットガンなどを所持している者も多いようだった。
『あたしも負けてらんねえなっと』
渚もビークルの上から迫るスケイルドッグに対してトリガーを引くと、狙ったスケイルドッグへと的中させる。
『やった……いや、コアは外したか』
渚は眉をひそめたが、銃弾はコアにこそ当たらなかったが胸部を掠めて右足の付け根を破壊していた。また、渚の攻撃で倒れたスケイルドッグをすぐさま他の狩猟者たちが集中して撃って仕留めていた。
『そうか。撃ってるのはあたしだけじゃあないんだよな』
『渚。ほらさっさと次を狙おう。あれに接近されたら犠牲が出るよ』
『分かってるっての』
ミケの指摘に渚がそう返し、さらにライフル銃を撃ち続ける。
センスブーストは近付かれたときを考えて使用していないが、弾道予測線と機械獣の予測行動は視界に反映されている為に、高い命中率は維持できていた。
そうして渚は二体三体と続けて的中させ、また渚以外の狩猟者たちも次々と機械獣を倒していく。
『数は多いが、こんだけ人数がいりゃあさすがに問題ないか』
『いや。右だ渚。回り込んできているのがいるよ』
『あ、マジかよ?』
ミケの言葉に渚が右側の、大量に岩が並んでいる方へと視線を向ける。
『また隠れたけど、映像は撮ってある』
そう口にしたミケが、岩と岩の間に映って移動するスケイルドッグの映像を渚の視界に表示させ、さらには移動しているスケイルドッグの現在地の予測行動地点も表示させた。
『回り込んでる? 数は5か』
『見えたんですのナギサ?』
渚の呟きに横にいるリンダが尋ねた。この銃声の響く中で自分の声を聞かれていたことに驚きつつも、渚が『ああ』と頷く。
『そうだけど。なんだよ。そっちも分かったのか?』
『いえ、戦闘中に別のところに目を向けていれば何かあるのかとは思いますわ。それにスケイルドッグは陽動を使うことが多いですから』
渚がよく見れば、リンダと何人かは銃撃にはあまり参加せず周囲警戒に当たっていた。
確認こそ取れてはいなくとも、どうやら奇襲に対しての備えはしていたようである。
『右側から多分5だ。岩場の後ろを隠れながら迂回して、こっちに向かってる……と思う』
『そこまで分かりますの。よく見ていますわね』
『まあな。で、どうする?』
その渚の問いにリンダは少し考えた後『わたくしが誘い出しますわ』と口にした。
『お前が誘い出すって、どういう?』
渚が驚きの声を上げるとリンダが笑う。
『それが取り柄だと言ったでしょうナギサ。ヘルメス、ゴー!』
『え、おい!?』
そして、渚の目の前でリンダがビークルから飛び出して渚の示した場所へと走り出していく。いきなり何をするのかと思った渚だが、リンダの動きを見てその考えを改める。地面に着地した後のリンダの移動速度は人のソレではなかった。
『おいおい、あいつメチャクチャ速いぞ』
『あれが彼女のマシンレッグの性能か。おっと、リンダが岩場を撃った途端に機械獣たちが飛び出してきたね。渚、リンダの動きは予測できるから、スケイルドッグの予測行動も絞り込める。狙って』
『ああ、正面の方は問題なさそうだしな』
渚がライフル銃の銃口を右へと向け、警戒していた狩猟者たちもリンダを追い始めたスケイルドッグを狙って撃ち始めていく。
『リンダが追いつかれることはなさそうだけど……ミケ、もういいだろ? 使うぜ』
『まあ、いいけどね。増援の可能性もあるから余力は残そう。キッカリ1秒で行くよ』
『あいよ。センスブースト!』
そう口にした渚が次の瞬間には水の中に重く沈んだような感覚に支配されていく。
そこはすべてがあまりにも遅い世界だ。その中で渚は弾道予測線と機械獣の予測行動表示を頼りに次々とトリガーを引いて銃弾を放っていった。
(狙ってトリガーを引くだけだ。ああ、問題ない。ファングはちゃんと動いてる)
そして、この世界においてもマシンアーム『ファング』の動きは変わらない。実時間では恐ろしく高速かつ精密に動いているのだろうが、己の知覚自体が加速している今の渚の認識ではいつも通りに動いているようにしか感じられない。
そして、三発すべて放ち終わった渚がセンスブーストを解除するとすぐさま世界の時間は元へと戻り、撃った三発すべてが的中してスケイルドッグが倒れていくのが見えた。
『おい。なんだ今のは?』
『あのお嬢ちゃんがやったのか?』
その様子に、共に撃っていた狩猟者たちから驚きの声が上がる。
高速で移動するスケイルドッグを仕留めるのは狩猟者たちにとっても至難の業だ。だがビークルの上から放たれた渚の銃撃は、三体のスケイルドッグすべてに必中していた。
その事実に気付いた狩猟者たちが驚愕するのも無理はないが、ともあれ彼らもプロの狩猟者だ。手を止めたのも一瞬。すぐさま戦闘は継続され、残りの二体のスケイルドッグがリンダのグレネードランチャーから撃たれた捕縛弾によって動きを止められると、渚が手を出すまでもなく他の狩猟者たちによって仕留められていった。
『終わったな』
『そうだね。正面側のスケイルドッグもすべて片付いたみたいだ』
ミケが周囲を見渡しながらそう口にする。
なお、それは仕草こそ周りを窺っている風ではあるが、実際にミケが見ているのは渚のドクロヘルメット上部に設置されている全天球型監視カメラの映像である。
リアルタイムに全周囲をチェックしているミケに隙はなく、であればと渚も銃を降ろした。それから離れた場所にいるリンダを見ながら渚が呟いた。
『それにしても、あいつ……あんな速度で移動しながら当てたぜ。すげえな』
『マシンレッグ『ヘルメス』。僕のように会話ができるわけではないんだろうけど、あれも独自のAI制御で動いているんだろうね。多分移動をマシンレッグに任せて、彼女は射撃に集中していたんだと思う』
『そんなことも可能なのか?』
驚く渚にミケが『何を言ってるんだい?』と返した。
『昨日にレギオンラットを相手に僕と共同で対処しただろ? アレと同じことだよ』
レギオンラットとの戦闘の際には、最終的にマシンアームの右手をミケに、生身の左手を己で操作し、それぞれで攻撃を行っていた。
そのことを思い出した渚がなるほどと頷く。
『普段は自分で操作しているんだろうけど、戦闘中は切り替えてるのかな。乗り物に乗っているような感覚なんじゃないかな。おっと、何か手振りで伝えているね』
ミケの言う通り、リンダが渚に対してジェスチャーで何かを訴えているようであり、それに気付いた狩猟者のひとりが渚に声をかける。
『おい、ドクロの嬢ちゃん。お嬢が来いって言ってるぜ。アイテール取りにいかねえのかい?』
『ああ、そういうことか。ワリィ。すぐ行くわっ』
すぐさま渚がビークルから降りて、リンダの元へと駆けていく。
戦闘が終われば、狩猟者の次の仕事は機械獣からのアイテールとパーツの剥ぎ取りだ。『もう、遅いですわよ』と愚痴るリンダに謝りつつ、渚も回収を行い始めた。
そしてリンダとのコンビでの初戦は完勝。他の狩猟者たちと共に急ぎ機械獣からの素材回収を終えると、一行は移動を再開したのである。
【解説】
スケイルドッグ:
渚も何度か対峙した犬型の機械獣。
機械獣の中ではスティールラットに並んでよく見る個体であり、比較的戦闘能力は低いが、当然のことながら人間が素手で対峙して勝てる相手ではない。




