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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第7章 地獄輪廻界『群馬』
256/321

第256話 渚さんと地獄の光景

『見ろよ。リンダ、ナギサ。分かるだろ? あのツラ、まるで殺意の塊だ。連中は心底俺たちを憎んでる』


 ルークの言葉に渚とリンダが頷く。一体何を経験すればああした表情になれるのか……それは渚には分からない。ただ、その憎悪の対象はこのハニュウシティであり、そこにいる人間であり、そこには自分も含まれているのが理解できた。


『あいつらに遭遇して捕まると悲惨だぞ。なぶられ、オモチャのように扱われて殺される。ネズミを狩る猫のようにな。そんで皮を剥いで被るんだ。あいつらなりのファッションなんだろうな。趣味は悪いが』


 嫌悪感をあらわにして言うルークの表情からして、その言葉は冗談ではないのだろう。そしてリンダが口元を震えさせながら、迫るデキソコナイたちへと視線を向ける。


『人間に恨みを? どうしてですの……いえ、攻めてきては殺してるのですから、分からなくはないのですが』

『さてな。ずっと昔からそうだったらしいから俺も理由は知らない。あいつらとは会話も成立しない。仲間同士では話もするみたいなんだがな』

『ま、あのツラじゃあ言葉が通じてもまともな会話にゃなりそうもないよ』


 それからハニュウシティの門の外ですでに停まっている武装ビークルの上に渚とリンダ、それにルークが乗ってそれぞれの銃を構え始めた。最前面は他の狩猟者ハンターたちが並び立っているために、武装ビークルの上から狙う方が都合が良かったのである。

 そして集まった狩猟者ハンターが待ち構えている前でこちらを発見したらしいデキソコナイたちが一気に走り出し始めた。それはおおよそ生物が出す速度を超えていたが、生物ではない機械獣たちを倒すのを専門としている狩猟者ハンターたちにとっては対処不可能な動きではない。


『『『撃てぇえ』』』


 周囲から一斉に合図の声があがり、一斉にライフル銃から弾丸が放たれた。その合図と共に渚もデキソコナイの一体をヘッドショットで仕留めたが、よく見てみれば初弾でデキソコナイを倒した者の数はあまり多くはなかった。


(弾丸が弾かれてるのか?)

『どうも体表が弾丸をそらしやすいみたいだね。君のように綺麗に急所を撃たないとクリーンヒットにはならないようだ』


 状況を分析したミケが渚にそう説明をする。確かに放たれた弾丸がデキソコナイの身体をつるりと抜けて、あらぬ方へと飛んでいくことも多いようだった。とはいえ、飛び道具を持たぬデキソコナイと銃を所持する狩猟者ハンターとではどちらが有利かは言うまでもない。接近しようとするデキソコナイがバタバタと仕留められて血を飛び散らせながら崩れ落ち、またその亡骸を踏み越えて新しいデキソコナイが後から後から接近して来る。恐れもなく、ただ怒りを持って突撃して来る様は優勢であるはずの狩猟者ハンターに重い重圧となってのしかかる。


『聞いてはいましたが……本当に酷い有様ですわね』


 リンダが苦々しい顔でそう口にした。

 目の前の光景は控えめに言っても地獄であった。

 蛮人が正面から挑んで銃を持つ軍隊に敵うわけもなく、それはもはや虐殺といっても良い状況だ。

 瘴気の霧によって肉眼では見えぬが、渚たちは瘴気除去のフィルターを通してそれを見ているし、この場の狩猟者ハンターたちも眼爺と同じ力を持つ誰かが鮮明化された映像と位置情報をデータリンクして敵の情報を逐一確認していた。そんな状況に渚は顔をしかめるが目をそらすことはなく、自分の仕事をこなしていく。


『ナギサ、大丈夫か?』

『ん、まあ……ね』

『そうか。問題ないならいいんだが』


 ルークがそう言って狙撃銃を撃つ。

 渚もルークの言わんとしていることは理解できている。デキソコナイは大きさや外見の差異はあれど機械獣とは違って赤い血を流す生物で、非常に人間に近いのだ。そんなものの虐殺現場を初めて見せられれば、場合によってはトラウマになるのは仕方のないことだろう。

 実際それが嫌で埼玉圏の内地で狩猟者ハンター業を行なっている者も少なくはない。そして、最前線に送り込まれた新人狩猟者ハンターは渚たちのようにまずは現場を見せて慣れさせられるのが通過儀礼となっていた。

 ルークもそれに従って渚たちをこの場に連れて来たのだが、リンダの嫌悪感混じりの反応は予想内だが渚のソレはルークの想定にはなかったものだ。


『ずいぶんと冷静だな』

『そういうわけじゃねえよ。良くないってのは頭ん中でも分かってる。けど、あたしの中に刷り込まれた戦士の知識がそれで立ち止まるのを許しちゃくれないってだけさ』


 渚がそう言いながらライフル銃を撃ち続ける。

 目覚めてすぐに手に入れた義手であるハンズオブグローリー『ファング』から渚はかつての兵士の戦闘技術をその身にインストールしている。それはこの世界で生きるためには必要なものではあったが、渚の人間性の一部を欠けさせている原因でもあった。


『それよりもルーク。奥の方、変なのがいるけど?』

『出て来たか。あれはデキソコナイの変異種だ』

『変異種?』


 渚が眉をひそめてデキソコナイの群れの中にいるソレを観察する。

 身長は5メートル近い上に体躯はまん丸く、けれども表皮は硬そうで、他のデキソコナイよりも移動速度が速い。そんなタイプのデキソコナイが何体も後ろから迫って来ているのが渚の眼には映っていた。


『ああ、他に比べてでかくて硬い。全身が筋肉の塊で鎧のような鱗に覆われてる。時折混ざってるんだ。で、あれが相手だとライフル銃の装甲弾もあまり効果がない』

『だったらどうすんだよ?』

『グレネードか、接近して近接武器で倒すか……おっと、誰かが飛び出て行きやがった』


 ルークの言葉の通り、一輪バイクに乗って変異種に近付く狩猟者ハンターの姿が見えた。渚が目を細めて、その狩猟者ハンターを観察する。


『赤く光る武器を持ってるな。なあミケ。あれって……』

『うん。あの狩猟者ハンターが持っているのは強化武装パワードアームズヒートチェーンソー。であれば彼女は僕らの知っている人物だろうね』


 かつて渚たちが共に戦った狩猟者ハンターのオスカー。その彼女がデキソコナイの変異種を次々と斬り裂いていくのを渚たちは目撃したのであった。

【解説】

デキソコナイ:

 グンマエンパイアの住民。彼らは人の形をしているが人類に該当しない別種の生物である。彼らは人間ではないので黒雨の影響を受けず群馬でも生きていける。彼らは人間ではないので人間の証を求めて埼玉圏に向かい続けている。彼らは人間ではないので人間を羨み、憎しみ続けている。

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