第245話 渚さんと戦いの結果
計四門のガトリングレーザーからなる緑光の十字砲火が戦場で煌めいた。
それは左右からクロスするように連続斉射することで、正面より迫る機械獣を次々と破壊していく。その全高の低さからアイテールライトのレーザーを抜けて通り抜けるランドスモールオッターも少なくはなかったが、もちろん抜けた相手への対処もすでに準備は完了している。
『じゃあ、撃つよミラン』
『は、はい。うう、本当に戦闘なんですねえ』
そして動き出したのはミケとミランの乗る多脚戦車スパイダーロードだ。両機はランドスモールオッターと並走しながらグレネードとガトリングレーザーを放ち、その数を減らしていく。さらに取りこぼしたランドスモールオッターは待ち構えていた狩猟者たちが処理していった。
『いいねミラン。そうだよ。移動速度はこちらが上だ。距離を取れば一方的に倒していける。君はなかなか筋がいい。鍛え上げれば一流の多脚戦車乗りになれそうだ』
『いや、なりたくないんですけど』
ミランから暗い声が返ってくるがミケのなかでのミランの評価は上がり続けていた。ここまで頼んだ全ての作業をそつなくこなし、期待値通りの成果を上げている。いちいち言っていることがネガティブであることはミケにとっては特に問題にはならない。それに期待値以下でも以上でないことは余計なことをしないということであり、状況を完璧に組み立てて行動するミケとも相性が良かった。
そもそもミランは伊達にカスカベの町の管理官を任されていたわけではない。基本スペックと高いポテンシャルを持っているが故に重要な役職についていたのだ。だから今回ミランが同行人として選ばれたのは決してペナルティというだけではなく、必要な人材となるだろうと考慮されたものだったのである。
そして、その事実をミケはニキータから与えられたプロフィール情報から把握していたし、今後も様々な用途で働かせるつもりであった。
『戦闘は追々考えてもらうとして、多脚マシンは地下都市などでは様々な用途に使えるからね。君には色々と頼むと思うよ』
『んー、戦闘以外なら考えますけど』
『まあ説得は後にするよ。今は目の前のことに集中しよう』
『はい。死にたくありませんしね』
そう言いながらもミランは迫る機械獣に対して多目的弾頭のひとつであるエスマイン弾頭をグレネードランチャーにセットして撃ち、迫るランドスモールオッターにアイテールレーザーの雨を降らせて破壊していく。それは射出後に設定した距離を過ぎた段階で下方に数百のアイテールレーザーを放つ弾頭であり、威力こそ高くはないものの、こうした場面では非常に効果的なシロモノだ。
『動きは止めました。撃ってください!』
『おうさ』『蜘蛛の姉御の指示だ』『撃て撃てぇええ!』
そしてミランの指示により、狩猟者たちがエスマイン弾頭で倒しきれなかった機械獣を仕留めていく。その様子からミランがすでに戦闘の機微も掴み始めているという事実に気付いたミケがニャーと笑う。
『うん。実に指揮官向きだ。ニキータたちは良い人材をくれたね』
ミケが満足そうにその光景に頷きながら、さらに迫る機械獣の群れへと視線を向けた。
『とはいえ、そろそろ近いか。じゃあバリケード発動!』
ミケがスパイダーロード上部のセンサーヘッドを通じて設置してあったバリケードを発動させる。するとランドスモールオッターの群れの前で簡易の壁が次々と出現していった。それは本来都市内での暴徒進攻を食い止めるための設置型バリケードだ。対してランドスモールオッターは突然正面に現れたソレを察知すると飛び越えるべく一斉に跳躍した。同時に
『腹が丸見えだ。間抜け!』
『スコアを稼げ。昨日に続いてボーナスタイムだぞ』
『クソッタレ。二日でもう数カ月分は稼いじまうな』
飛び上がったランドスモールオッターを狙って狩猟者たちが一斉に撃ち始め、露出した腹部などを狙って破壊していく。
つい先ほどまで死ぬか尻まくって逃げるかの選択しかないと考えていた彼らだが、もはや状況は完全に変わっていた。とはいえ、それもランドスモールオッターを相手にしているならば……という話ではあったが。
続いて迫る巨大な影を察知した彼らは眉間にしわを寄せて口元を引きつらせた。それがランドスモールオッターとは比較にならぬ脅威度であることはいっぱしの狩猟者なら皆知っていることだ。
『ふむ、ミケ。『デカいの』が有効射程内に来るぞ』
当然その到来は眼爺も把握している。恐ろしいのはスモールではなくギガント。アレが懐に入った時点で戦線は崩壊する。幾度となく防衛網を食い千切られる光景を見てきた眼爺の表情がわずかに強張ったが、ミケにとってはそれもスケジュール通りの状況のひとつに過ぎない。
『うん。君の視覚は共有しているから理解しているさ眼爺。それじゃあリミナとミランダたちは十字砲火をオートで維持しながらレールガンを使ってくれるかい?』
『了解。オートモードでガトリングレーザーの斉射を維持? これかい。それでレールガンは……ええと。うわっ』
視覚に映るインターフェースを思考制御によってたどたどしく操作をしていたリミナが声をあげる。レールガンの火器管制システムが彼女が操作するよりも早く立ち上がったのだ。
『時間がないから発射までの操作は僕が行うよ。ほら、これでいいだろ?』
『あ、ああ。すまないね』
リミナの感謝の言葉は他の強化装甲機乗りの狩猟者たちからも届けられた。本来であればレールガンの火器管制システムは待機状態にしておくべきものだが、リミナたち強化装甲機の素人がそれを分かっているはずもない。ミケもそれは最初から理解していたので、細かい制御は自分が受け持つと決めていたのである。勿論それはとうの昔に予習済みであったミランダには不要なものだった。
『こちら、ミランダ。了解しました。ミケ、それでは撃ちますよ?』
『うん。それじゃあ一斉に』
『ってぇえええ!』
リミナが叫びながら二門のレールガンから弾頭を撃ち放つと、他の強化装甲機たちも続いて斉射していく。その火力に瘴気が散り、轟音が鳴り響いた。けれどもそれでカタが付いたわけではない。そして弾幕の中からランドギガントオッターたちが次々と飛び出てきたのである。
『ふむ。三体は仕留めたか。中破は四、小破は十。弾頭が弾かれおったな。やはり面倒な相手じゃの』
近付いてくるランドギガントオッターたちを見ながら眼爺がそう口にする。場合によっては一撃で仕留めきれる可能性もあったが、現実はそこまで甘くはなかったということだろう。とはいえ、ミランダたちもここで打ち止めというわけではないのだ。
『まあ、撃ち続けていれば倒せるよ。じゃあ二射目いこうか』
ミケが再度の攻撃指揮をすると、再びレールガンが火を噴く。それを中破しているランドグランドオッターが正面に立って盾となって防ぎ、そこに火力が集中して、そして……
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『おっし、ようやく地上に出れた!』
そして渚たちがようやく地上へと姿を現した。
第四階層から急ぎ向かっていたのだが、地下都市内そのものが広いことに加え、崩壊によりいくつものルートが分断されていて想定以上に戻るのに時間がかかってしまったのだ。とはいえ、それでも彼らの踏破速度は決して遅いわけではなく、十分に戦闘には間に合うはずであったのだが、
「あ、ナギサだ」
『あれ、ミミカか?』
地上にたどり着いた渚たちを迎えたのはリミナの娘のミミカだった。
『おいミミカ。まだ地上は危ないんじゃ』
ドクロメットを被っての戦闘態勢であった渚がそう口にする。
狩猟者たちが防衛に当たっているとはいえ、機械獣たちがそれを抜けて村に侵入する可能性はあるのだ。ミミカが無防備に地上にいるのは危ないと渚は考えたのだが、
『ん?』
周囲の状況が想像と違っていた。何しろ地下都市に避難していたはずの人々の多くがすでに地上にいたのだ。その様子に渚がリンダと目を合わせて首を傾げた。
『これ、どういうこと?』
『なんだか、和やかなムード……ですわね?』
『ああ。渚、リンダ。僕のバックアップからの連絡が今あったんだけどさ。機械獣はもう』
「機械獣ならもうお母さんたちが倒しちゃったよ」
『な!?』
驚く渚たちにミケが頷いた。どうやら事実のようである。
『そういうことみたいなんだよね。すでに戦闘は終了。村人は戦闘後の回収のために地上に戻されているみたいだ。ランドギガントオッターもレールガンの集中攻撃にはなすすべもなかったようで、急いで戻る必要なかったね』
『あ、そう。いや……うん。みんな無事なら良かった。うん、良かった。はは』
いかにも拍子抜けしたという顔をしつつも渚は安堵の息を吐いた。
状況からして相当に厳しい戦いになると考えていたのだが、蓋を開けてみればアゲオ村+地下都市の戦力の圧勝だったのだ。張り詰めていた気持ちがプシューっと萎んで、力が抜けるのも仕方のないことだろう。
ともあれ、こうしてアゲオ村は二日めの機械獣の襲撃も無事に乗り切ることに成功した。二度にわたる絶望的な数の機械獣の襲撃であったにもかかわらず、大した被害もなく撃退に成功したという事実は大きく、それは渚たちの今後の計画を進める上でもプラスとなるだろうと思われた。けれども、それとは別にこの二日間の襲撃から渚たちはとある事実に気付かざるを得なかった。
それは機械獣の保持していたアイテールの量だ。機械獣たちは通常よりも明らかに多い量のアイテールを保持していたのである。
そして、それが何を指し示しているのかを推測するのはそう難しい話ではなかった。機械獣たちがどこから来たのかを考えれば、そう難しいことでは……
【解説】
戦果:
地下都市内で機械獣がアイテール回収型ドローンと呼称されている通り、基本的に機械獣の多くは戦闘用ではない。対してリミナたちが使用したのはミリタリークラスの兵装であり、今回の戦いの結果は戦闘用とそうでないものの差が如実に現れたものであるとも言えた。




