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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第7章 地獄輪廻界『群馬』
231/321

第231話 渚さんと久方ぶりの村長さん

『ナギサ、まだそのドクロメットなんだね。右腕の形は変わったみたいだけど……新しいのに変えたんじゃなく、改造したのかい?』

『うん、そんなところ。色々あってさ。実はメットの中身も結構変わっちゃったんだよなぁ』


 戦闘終了後、狩猟者ハンターたちへの挨拶もそこそこに渚はリミナと話をしていた。

 実のところリミナも村に来る狩猟者ハンターたちから渚とリンダの活躍のことは聞いていたのだが、それもカスカベの町奪還までの話だ。コシガヤシーキャピタルの騒動についてはまだこの村にまでは届いておらず、現在の渚が機械種によって身体を改造されていることも当然彼女は知らない。


『中身が? 気になる言い方だけど……まあ今はいいか。それにリンダも成長したもんだね。もう私よりも随分と強いんじゃないかい?』

『正直、お祖母様の装備によるところが大きいですわ。それでも本気になったリミナさんを止められるとは思えませんけど』


 リンダにとって、リミナは狩猟者ハンターの教官である。

 リミナには『とある切り札』があり、一対一の対人戦であれば今のリンダとて勝てるかどうかは分からない。


『ふふ、私ももうロートルだ。昔のようにはいかないさ』


 そう言ってリミナが肩をすくめた。そして、そうこうしている内に村とは反対方向の瘴気の霧の中から一輪バイクがやって来るのが見えた。それはさらなる機械獣の侵攻がないかを確認しにいったガン爺のものであった。


『お、ガン爺じゃんか。久しぶり』

『おお、ナギサ。恐ろしい活躍ぶりじゃったな。リンダもこの短期間で随分と狩猟者ハンターとしての腕をあげているようじゃし』


 賞賛の言葉に渚とリンダが照れて笑う。もっとも、ガン爺からすればそれはリップサービスでもなんでもなく、正しく状況を見れているだけのことだ。

 ガン爺は時間さえかけられれば、ふたりだけでも機械獣の群れを仕留めきれていただろうということを正しく理解していた。本当に恐ろしいほどの暴れっぷりだったのだ。


『それでな、リミナ。確認してきたが今のところこちらに向かっておる群れはいないようじゃ。まあ、見張りは必要じゃろうが、ひとまずは区切りがついたとみて良いだろうな』


 その言葉にリミナがホッとした顔をする。渚たちが加わった現状ならば、再度の襲撃にも耐えられるだろうが、戦わずに済むのであればそれに越したことはない。弾薬も人材もこれ以上消耗できる余裕は村にはなかった。


『落ち着いたか。襲撃は……ただ様子を見たほうがいいだろうな』

『ん? ナギサ、何か知ってるのかい?』


 何か含みがあるように感じたリミナに渚も少しだけ苦く笑う。


『まあな。そのことで話があるんだけどさ。ええと、まずは村長のバルザさんと話したいんだけど、大丈夫かなリミナさん?』


 その問いにリミナは頷き、それから機械獣のパーツやアイテールの回収をその場の狩猟者ハンターたちに任せると、渚たちは村長の家に向かうことになったのである。




  **********




「あー、随分と変わったな」


 そして、渚たちが向かった村長の家ではバルザが待っていた。

 とはいえ、つい先ほどまでバルザはアゲオアンダーシティの入り口に避難していたため、彼自身もリミナより報告の通信を受けて急ぎここに戻ってきたばかりであった。

 そんなバルザの視線の先にあったのはミランダだ。全身がコシガヤシーキャピタルで調整されている上に補助外装サポートフレームで強化され、さらには『ふふ、どうです?』とばかりに腹部のハッチを開けてウィーンとガトリングレーザーを出してドヤ顔をしている。そんなメディカロイドの変貌にバルザはかつて活動停止をしていて置物であった頃のミランダを思い出しながら、なぜ医療特化のロボットの武装がここまで強化されているのだろうかと思っていた。


「それにナギサも随分と様変わりしたようだな」

「色々とあってさ。まあ、派手っちゃー派手なんだけどな」


 右腕がキャットファングに変わっただけではなく、緑の髪に緑の瞳に、さらには猫耳と尻尾も生えている。今の渚は一見すると以前と同じ人間には思えぬほどに変貌していた。


「ふむ。そうした嗜好を持つ狩猟者ハンターもいるとは聞くが、あまり肉体改造すると寿命が縮むぞ」


 バルザは若干心配そうな顔をしてそう口にした。

 かつての頃であれば肉体改造は逆に寿命を引き上げたのだが、それも医療環境が整っていた頃のこと。肉体改造はナノマシンによって拒絶反応は抑制されるがそれでもメンテナンスなしで十年二十年と過ごせば歪みが生じ、場合によってはガン細胞化したり塩の柱となったりもする。


『そうした心配は無用だよ。肉体の状態は良好に保つし、ナノマシンの不具合も千年単位で処理できる。多分渚はこの場の誰よりも健康さ』


 そしてバルザの指摘に言葉を返したのは渚ではなく、テーブルの上で丸くなっているミケであった。意外なところからの指摘にバルザとリミナの目が丸くなる。


「ほぉ、珍しいサポートマシンだと思ったが喋るのか」

「驚いたね。VRシアターでしか見たことないんだけど、これ猫でいいのよね?」


 その問いにミケはニャーと鳴いて応えた。その仕草にホッコリしながらもリミナは続けて渚の後ろにいる男を見る。その顔を見てもバルザは気付かなかったが、リミナはその男のことを知っていた。


「それにしてもナギサ。とりあえず人のいるところでは口にはしなかったんだけどさ。そちらの、コシガヤシーキャピタルの要であるマーカス騎士団長様がなんでここにいるんだい?」

「は、きしだ……なんだと?」


 バルザが目を見開き、驚きの声をあげる。

 コシガヤシーキャピタルの騎士団といえば、埼玉圏最大の武装勢力にして秩序そのものと言っても過言ではない。

 秩序の剣を自称する彼らの行動は時として狩猟者ハンターに横柄に映るし、強化装甲機アームドワーカーの占有などの問題もあって、騎士団と狩猟者ハンターは反目しあっている面があった。とはいえ、それはあくまで組織の末端同士の摩擦に過ぎず、狩猟者ハンターもコシガヤシーキャピタルの騎士団の頂点に敬意を払っていないわけではない。渚たちは未だにピンときていないが、そこにいる男はこの埼玉圏内でも最大クラスのビッグネームであるのだった。


 一方その頃、ミランはマーライオンし過ぎて今は武装ビークル内で横になって寝ていた。そしてルークはミランの看病といっぱい出た「ま゛ー」の処理に明け暮れていたのだが……それはまた別のお話である。


【解説】

肉体改造:

 肉体性能を上げるだけではなく、ファッションなどのために角やエルフ耳を付けるなども可能で、人体としてあり得ない形状の部位を持つ狩猟者ハンター野盗バンディットも存在している。

 それらはナノマシン投与によって拒絶反応を抑えてはいるのだが、現代ではメンテナンス抜きでは十年単位でバグが発生し歪んでしまう。その末路はナノマシンの暴走であり、場合によっては全身が腫瘍の塊と化したり、塩の柱となったり、形状が崩れた肉塊が増殖したケースも存在すていた。

 なお対象者ごとに調整されたナノマシンを用いればそのような状況には本来ならないのだが、埼玉圏でそれらに使用されているナノマシンは調整の必要のない、短期間のみ使用するタイプの緊急医療用の株であった。

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