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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第6章 地下都市
223/321

第223話 渚さんとミランの顛末

「え、知っていたんですか?」


 渚の前で憮然とした顔のミランがそう口にした。

 渚たちが市役所で市長と相対してから翌々日。ミランがアゲオアンダーシティの現状の報告書を持ってバーナム家にやってきたのである。もっとも渚はすでにトリーよりアゲオアンダーシティ内の情報をもらっており、進行ルートも詰めた後であった。そのため、ミランが持ってきた情報はほとんど無用の長物だった。

 その事実を聞いたミランが大きくため息を吐き、それからテーブルに突っ伏した。


「あー悪いなミランさん。いろいろ用意してもらったのに……それに、なんか機嫌悪い?」

「これはなんだか疲れただけですが……けど、機嫌は悪いですね。けど、当たり前でしょう。上級市民になる近道だからって危険なカスカベアンダーテンプル勤務を引き受けたのに、野盗バンディットに殺されかけるわ、市長に殺されかけるわ、地下都市追放されかけるわ、もう散々なのよ。ここ最近の私」

「まあ……かけただけで、ギリギリ踏みとどまってるじゃん」

「うう、そうだけどねえ」


 野盗バンディットに攻め込まれて地下まで入られた件の責任の所在を問われているため、渚が絡む以前の問題である。それからキーーーと吠えたミランがふところから出した錠剤を口に含んで飲み干した。


「ん、それって?」

「ああ、地上には出回ってないんでしたよね。ハーブを凝縮したオーガニックで体に良いものですよ。気が高ぶったりしているときに飲むことを推奨されていて、心がスーッと落ち着くんです」


 ハーブのパワーで心は落ち着く。オーガニックとは素晴らしいものであった。


(なあミケ、あれってやべえ薬?)

『前にアルが飲んでいたのを成分解析したけど、時代によっては合法と違法のラインが微妙な薬物だったね。常習性は抑えてあるからよっぽどの量を飲まなければ、そこまでの実害はないと思うよ』


 脳内会議でミケがこっそりと渚にそう説明する。


「まあ、こっちはいいんですけどねえ。それでこれからどうするわけ? というかもう出る準備してない?」


 現在渚たちのいるバーナム家の来客室には渚とミケ、ミラン以外にも、リンダとマーカス、ミケランジェロ、トリーにアルもいて、また渚たちは地下都市に入ってきた時と同じ服装をしていた。言ってみればすぐにでも外に出れる格好である。


「ああ、ミランさんが来るって話は聞いてたからさ。この報告だけもらったらもう地上に出ようと思って」


 渚がミランからもらった情報の表示されたタブレット端末を見ながらそう返す。渚たちが地下都市に滞在してまだ三日。そんなに早く外に出るつもりだったとは思わなかったミランが眉をひそめたが、渚の方はここでのんびりするつもりはなかった。


「ま、昨日はショッピングして楽しんだし、やれることがあるんなら身体動かしてた方が気も楽だからな」


 そう言って渚がみっちりと中身の詰まったバックパックをヨイショと背負う。

 それらはショッピングで購入した生活用品の類だ。地下都市内では武器の所持や売買の一切が禁止されているが、地上に比べ文化的な生活を送っている分、渚が必要としている日用品も多かった。


「それにリンダのヘルメスの修理もされているはずだしな」

「ええ、そうですわね。正直、この足ではもの足りませんもの」


 リンダがそう言って、補助外装サポートフレームだけで動作している義足を見た。すでにバーナム家の通信網から地上のバトロイドのセバスを通し、機械人マシンナーのデウスへとマシンレッグ『ヘルメス』の修理を依頼してある。それからトリーが「ああ、そうだ」とリンダに向けて口を開いた。


「リンダ、ヘルメスの改修もデウスに頼んである。上に行ったら調整しとくんだよ」

「お祖母様、改修とはなんです?」

「ヘルメスを本来の姿に戻す……と言ったところかね。オシメも取れた頃だ。今のリンダならなんとか使えるだろう」

「本来のって……わざわざ勿体ぶって弱い状態でリンダに渡してたのかよ師匠?」


 渚の疑問にトリーが肩をすくめた。


「そういうんじゃないよナギサ。現役のあたしに合わせたもんをそのまま使わせたんじゃあ、前のリンダなら確実に死んでいたからね」

「ど、どういうことですの?」

「言葉通りの意味さ。さすがに自爆でジャムになった孫を見るのは偲びないと思った婆ぁの気持ちを察しておくれ」

「ジャム?」

「まあ今のお前でも荷は重いだろうが、クロとかいうAIがいて、センスブーストと弾道予測線も使えるって話じゃないか。だったらあのジャジャ馬もなんとか使えるだろうさ」


 その言葉にリンダがさらに首を傾げたが、トリーはそれ以上の説明はしなかった。それから続けてアルがリンダに口を開く。


「リンダ、もう行ってしまうんだね」

「申し訳ありませんお兄様。わたくしはアゲオアンダーシティ復興計画委員会の一員ですし、今はナギサの手伝いをしたいんですのよ」

「お前の気持ちは分かっているさ。それにナギサにはバーナム家も返しきれぬ恩を受けているからな。リンダを経由してバーナム家も委員会には協力する。今後は僕が地上に出てリンダに会いにいくこともできるだろう」


 クキアンダーシティは渚たちに協力することを約束しており、協力の要請はリンダがバーナム家を経由して行われる。なお、ミランの方は市長指揮下となっており、監視の意味合いも強かったが。

 それからミランが深くため息をついてから頷いた。


「まあ、いいわ。地上に行くというのなら行きましょう。どうせ、ここにいても私は針のむしろですもの」


 なお、渚がその後に聞いたところによると、今回の件で実家の風当たりが強くなったらしく、婚約者とも破談となり、また職場内でも冷たい視線を向けられている……とのことであった。


「キャリアに傷がつくというのはそういうことなのよ」


 そう口にしたミランの目ははるか彼方の遠いところを眺めているようだった。

【解説】

ミラン:

 クキアンダーシティ内でも上級市民の両親より生を受けたミランはエリートと呼ばれる部類の人間である。危険なカスカベアンダーテンプル勤務も上級市民と出世街道を一足飛びにするために自ら望んだことではあったが、危険な仕事にはリスクは付き物であることを彼女は身を以て知った。エリートコースを転げ落ちた彼女の未来はいかに?

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