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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第6章 地下都市
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第220話 渚さんと残念な返答


『アゲオアンダーシティを修理して使う? へぇ、そんなことが可能だとでも思っているのかい?』


 渚の言葉にニキータが目を細めながらそう返す。それが簡単にできるのであれば、そもそもアゲオの住人は地下都市を放棄などしていない。けれども、渚たちには彼らにはない切り札があった。


『実際に見てみないことにはなんとも言えないけどね。ただ、君も僕の正体が機械種であることは知っているだろう?』

『ああ、機械種反応は検知している。それをコシガヤシーキャピタルに問い詰めたら、君たちのことを告げてきた』


 ニキータの言葉にミケが頷く。渚とミケの許諾を得ての情報開示であるので、それはミケも最初から知っていたことだった。


『現在の僕は機械種からメッセンジャーとして作られたマトリクスのない人形だ。そして今本体はコシガヤシーキャピタルの首都の湖底にある』

「海底だミケ」


 マーカスの言葉にミケが『ああ、そうだったね』とおざなりに返事をした。コシガヤシーキャピタルの人間はあのクレーター湖を執拗に海と言いたがるのである。それは埼玉に生きる者の本能のようなものだった。

 

『僕の本体である機械種をアンダーシティと融合させる。それだけで黒雨を防ぎきれるかは不安ではあるけど、実際融合したシェルターは強固な防壁へと進化していたしね』

『かつては機械種を中心として都市が運営管理されていたことがあったと聞いている。まあ、不可能ではないかもしれないかな』


 ニキータの言葉にミーアが驚きの顔をした。渚の提案そのものは無知ゆえの戯言のように考えていたミーアだったが、ニキータが肯定したことでその認識は改めざるを得なかったのだ。


『それと、この都市の構造を見る限りはもしかすると思ったよりも被害は大きくないのかもしれないって気がしてきてね』

「というと、どういうことだよミケ?」


 渚の問いにミケが『つまりね』と言いながら前足を挙げると、空中に半透明の球体が出現した。それをミケがシュッシュと前足の爪を横に振って輪切りにしていく。


「六個に切り分けた?」

「これは……アンダーシティを模しているのか?」


 ミーアの呟きにミケが頷く。その球体はフィールドホロの応用でミケが生み出したアンダーシティの立体図であった。そしてミケが上部二階層をスッと前足で引っ掛けて球体から離していく。


『基本的にアンダーシティで人が住んでいるのはこの第一と第二階層だけなんだろう。そして僕たちがアゲオダンジョンに入って探索したのはアゲオアンダーシティの第一階層だったのかな。確か地殻変動の影響で外壁が崩れて第一階層内が分断され、瓦礫に埋もれていた……という感じだったと思うけど』

「アゲオの現状についてはそれで間違いではないな。第一階層は壊滅、第二階層も半壊。現状は人の住める場所ではなくなっている」


 ガードマシンによって警備こそされているが、今ではあそこに住む者はおらず、地上から物資狙いで狩猟者ハンターが降りてくるくらいである。それからミケは前足を第三階層へと指して口を開いた。


『うん。そこは理解している。けれどね。第三階層より下層はそこまでの被害ではないんじゃないかな?』


 その言葉に渚とマーカスがどういうことかと首をひねった。対してミーアは頷き、ニキータも『正解だよ』と言葉を返す。


『先ほども説明したけどね。アウラとアースシップの激突の衝撃は地表から真横に流されたことで被害は地面に近いほど酷かったんだ。だからアンダーシティの構造上、上層の方が被害は大きかったし、プラントが配備されている第三階層や都市の心臓部である第四階層、また機密区域である第五、第六階層は上層よりも頑丈にできている。当然、第一第二階層よりも被害は少ない』

「えっと……つまりまだ使えるってことか?」


 渚の問いにニキータは首を横に振る。


『今話した通りに地殻変動による被害をもっとも受けたのは生活の基盤である第一と第二だ。人的被害も大きくて、一時的に第四階層に避難させた後、生き残りは各地下都市に振り分けたのさ。被害を受けた当時は死傷者が多く、市民IDの空きも随分とあったしね。それでも足りない人間は外で暮らしてもらったけれども』

「それが現在の地上の人間ってことか?」

『いや、今の地上人はその後に北アメリカ大陸よりやってきた移民だ。今ではその名残はパトリオット教団ぐらいしか見当たらないけど』

「だとすると、地上に住むことになった人間って?」


 渚の問いにニキータは神妙な顔をして口を開いた。


『地上に出た者たちは地下都市を乗っ取ろうと動き出し、我々は地上と隔絶した。結果的に彼らは全滅した。彼らは我々の庇護無くしては生きられなかったのにね。それなのに地下都市を奪おうとした。愚かな選択をしたものだよ。次は愚かではない選択を望みたいものだね』


 その言葉に渚が唸る。絶滅をさせておいて愚かと割り切るニキータの様子を見れば、それはここから先でも同じことが起こり得ることなのだと否応無しに理解できてしまう。だが、だからこそ渚がやり遂げようとしていることには価値があった。


「その選択を増やすための相談をしてるんだぜ、あたしは?」

『分かってるさ。そのためのアゲオアンダーシティの復活というわけだ』

「そういうことだよ。各地下都市は協力しあってるんだろ。アゲオアンダーシティも人こそいなくなったがAIはまだ健在だって聞いている。そもそもうちらが手をつけた場合、そっちがどう考えるのかも聞きたい。できれば協力して欲しいところだけどな」

「……ニキータ」


 渚の言葉を受けてミーアがニキータを見た。その表情は先ほどまでとは違い、渚の提案に傾きつつあるようだった。実際、廃棄されたアンダーシティが修理されるというのであれば、それによって得られる益はクキアンダーシティにとっても大きい。


『まあ地下都市が復活し、機械種がコアとなるということは……恐らくは現状のアンダーシティの上位に位置する都市となるだろう。それは未来のない今の地下都市を一歩先に進ませるものとなり得る。だから協力はしよう。ただ……』

「ただ?」


 眉をひそめた渚にニキータが肩をすくめて笑う。


『実は今アゲオアンダーシティとは喧嘩中でね。説得はそちらでお願いしたいんだ』

「え?」

【解説】

アゲオアンダーシティの住人:

 地下都市崩壊後に他の地下都市の市民IDを振り分けられた住人の生活は保障されたが、そうでない住人は地上での生活を余儀なくされた。

 ある程度の補給こそあったものの地上に残された者たちの生活は苦しいものであった。そうして蓄積された不平不満は一部の者に地下都市の乗っ取りという強硬に走らせ、それを事前に察知した地下都市は地上を見捨てて完全閉鎖に踏み切った。

 結果として多くの地上の民は死に絶えたが、一部は埼玉の地を離れ、関西圏などに逃れたとも言われている。

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