第206話 渚さんと地下都市への一歩
「入り口はアゲオ村のアンダーシティと似てるな」
『似てるというか同じだろうね。同一の規格だろうしさ』
案内人であるナビロイドに続き、渚とその横を歩くミケがそんなことを言い合いながらクキアンダーシティの入り口を潜っていく。そこはアゲオ村で見た入り口とおおよそ同じ、渚の感覚からすれば近代的……というよりは未来的な建物を思わせる形状をしていて、周囲には一糸乱れぬ流れで巡回をしている無数のガードマシンがいた。
そもそもこの場所は地上の都市であるクキシティの中心ではあるが、一般的な解放はされておらず、周囲を壁で覆い、この中に入るのにも二度の検査があった。
また入り口の門番はガードロイド、内部の警備まで全てガードマシンが行なっており、管理者らしい人間もアンダーシティの者で、地上都市の人間は一切いない。
「ホント徹底してるな」
「ここはもうアンダーシティ内部ということさ。市民IDがない人間は、そこらへんにいるガードマシン以下なんだろうね。まあ手は足りてるなら外から人を雇う意味はないし、こちらの方が問題も起こらないんじゃないかな」
ミケの言葉にふーんと渚は口にし、そんなふたりの後ろをヘルメスを外してただの義足と補助外装で辛うじて歩ける状態にしているリンダ、それにマシンアームの左腕を特殊な拘束具で封印しているマーカスが続いている。なお、ミランダやヘルメスであるクロはリンダのハウスで留守番となっていた。
(やっぱりアゲオのと同じか)
入り口を越えた先には改札口があり、それから渚たちはエスカレーターを降り、さらに続く通路を進むと以前にアゲオアンダーシティに入ったときと同じくエレベーターのある小部屋へと辿り着いた。
(確か、あのときはあっちから入ったんだったか?)
渚の視線がエレベーターの横にある通路に向けられる。アゲオアンダーシティと同じであればその先を進むと排気口があり、そこからアンダーシティ内部に入れるはずだった。それから渚の様子に気が付いたマーカスが「どうかしたのかナギサ?」と尋ねてきた。
「あーいや。前にアゲオアンダーシティに入ったときを思い出してさ。ミケともさっき話してたけど、構造は全く同じなんだなってさ」
「製造自体はかなり短期間での着工であったらしいからな。少なくともこの埼玉圏のアンダーシティの基本構造は全て同じはずだと聞いている」
「そうなんだ」
渚が感心した声をあげながら、エレベーターに乗った。
「ナギサ、ここから見える光景はアンダーシティの中でも特に素晴らしいものですわよ。ほら、この下ですわ」
リンダがそう言ってエレベーターの扉とは反対の、ガラスの窓へと駆け寄り、渚がそれに続いて窓ガラスに近付くと「へぇ。凄いな」と渚が感嘆の声をあげた。
「ふふふ、そうでしょう。アンダーシティは全部で五層に分かれていて、ここから見えるのは一番上層の第一層となりますわ」
リンダの言葉を聞きながら渚が眼下の光景から目が離せない。
(なんだ、この感じ。懐かしい……のか?)
渚はその街並みに何処か既視感を覚えていた。
(昔見たような。まあ、廃墟になってるのは目にしたけど。それとは別の……これって多分、昔の世界の記憶なんだろうな)
そう渚は結論付けて頷いた。見えているのはアゲオアンダーシティで見たような、けれども人々が行き交い生きている都市の光景であり、それは渚の脳裏に焼き付けられた過去の世界を思い出させていた。
(これも……本当は私の記憶じゃあないんだろうけどな)
再生された存在である渚は、過去から時間を飛び越えてやってきた者というわけではない。けれどもその事実を思い出しても渚の顔は笑っていた。己の現状を悲観してはいなかった。
(ああ、だからあたしはあたしの世界を作ろうとしているのかもしれないな。もしかしたら、あの人も……ウィンドさんもそうだったのかも)
ここまで渚が漠然と考えていたもの。ウィンドと並びたい。誰かを助けたい。そんな、自分ではない誰かを前提にした思いとは別に、渚は今の自分の願いをこの街並みに見出せた気がした。
『おや、どうしたんだい渚? なんだかとても嬉しそうな顔をしているじゃないか』
「いいや、別になんでもねえよミケ。ちょっと、こっから先頑張んなきゃなって思っただけさ」
その渚の言葉にミケも頷く。
『そうだね。確かに君の言う通りだ。この街を僕たちは自分たちで造らないといけないんだから。頑張らないとね』
そのミケの言葉が終わると同時にエレベーターの動きが止まり、それから渚たちの前にある扉が開いていったのである。
【解説】
アンダーシティ建造:
アンダーシティの基本構造はスペースコロニーを元にしている。
部品は月面都市で製造し、宇宙空間内で組み立て、完成後に地上に投下して設置した。




