第200話 渚さんと不可視の隣人
『オ久シブリダネ。リンダ、ナギサ』
野盗たちを狩猟者に引き渡した渚たちはクロとミランダを見張りにして武装ビークル内に戻り、機械人の代表も車内に招き入れていた。そしてその代表の機械人が最初に口にしたのは久しぶりという挨拶だった。
「あれ。あんた、デウスさんか」
渚があっという顔をして、機械人を見た。
そう、その機械人は渚がクキシティの機械市でお世話になっているデウスであった。もっとも渚は少しだけ目を細めてデウスを観察しながら首を傾げる。
「うーん、機械人ってみんな同じ見た目だから分かり辛いな」
『同族デモ用途ニヨッテ差ハアルケドキ商人用ノぼでぃ規格ハ統一サレテイルカラネ。マア、トハイエ以前ニ君タチト会ッタぼでぃトハコノぼでぃハ別ダヨ』
「どういうことだよ?」
さらに首を傾げた渚にリンダが横から口を挟む。
「ナギサ。機械人は基本的に複数のボディを持っていて、接触するたびに記憶を統合して行動していますの。頭にDの文字が付いているでしょう。あれがデウスさんの証なのですわ」
「つまりデウスさんって何人もいるってことか?」
『ソウイウコトダネ。マアソレハドウデモイイ話ダケドネ。ソレデ』
デウスがそう言って渚とミケにカメラアイを向けた。
『こあハナイヨウダケドドチラカラモ機械種ノ反応ヲ感ジルネ』
「あんた、機械種目当てなのか?」
渚がそう言いながら眉をひそめた。実のところ、先ほど退治した野盗たちは、ハイアイテールジェムの情報を情報屋から仕入れて渚たちを襲ったのだと話していた。そのため、機械人も同じ経由で情報を得て接触して来たのだろうと渚は考えていたのだ。
「ハイアイテールジェムもそうだけどさ。なんで機械種のことまで知っているんだ?」
『はいあいてーるじぇむノ情報がドコカラ漏レタノカハ分僕ニハカラナイ。タダ機械種ニツイテハりんだノへるめすヲ経由シテ情報ヲ入手シタンダヨ』
「へ、わたくしですの?」
デウスの言葉にリンダが目をパチクリとさせる。
『ああ、そういうことか。確かにマシンレッグを使えばそういうことも可能なのか』
失敗したという顔のミケに渚が「どういうことだよ?」と問いかける。
それにミケは少しだけ考えた後、デウスを見た。
『一応ね。サイバネスト同士の不自然なデータの流れを確認してはいたんだよ。とはいえ、すべてのマシンパーツがそうだから、そういうものだと理解していたんだけどね』
その言葉に渚とリンダが眉をひそめると、次に口を挟んだのは黙って聞いていたマーカスだった。
「ナギサ、マシンアームやマシンレッグなどを持つ人間がサイバネストと総称されているのは知っているな」
「ああ、もちろんだけど」
サイバネストはマシンアームなどの機械と接続することを可能とする強化人間であると渚は聞いている。渚自身は違うとミケからは聞いていたがリンダはそれに該当していた。
「サイバネストは機械化している者を一般的に指すが、厳密に言えばマシンアームなどとも接続可能な改造を受けた強化人間だというのが正しい。そして、その施術を行えるのは基本的には機械人だけだ」
「ああ、そうだったな」
「わたくしも機械人……というか、そちらのデウスさんにやってもらいましたわ」
渚とリンダの言葉にマーカスが頷く。
「まあ、コシガヤシーキャピタルのように独自で肉体改造ができるところもあるが、基本的に地上の人間でサイバネストになるには機械人に頼らねばならないのだが……ただ彼らにとってもそれは慈善事業ではない」
「慈善? まあ、アイテールと交換……だからか?」
「それもある。しかし、そもそもサイバネストの名前の意味は機械人の巣だ。名は体を表すという通りでな』
「巣? 巣ってどういう意味ですの?」
『なるほど、言葉通りの意味だったというわけか。サイバネストは彼らの巣だ。マシンアームやマシンレッグにも制御用のAIが積まれている。あれは君らの同胞かいデウス?』
ミケの説明にリンダがギョッとした顔で自分のマシンレッグ『ヘルメス』を見た。
「ええと、つまりどういうことなんだよミケ?」
『先ほどリンダは言ったね。機械人は基本的に複数のボディを持っていて、会うたびに記憶を統合して行動していると』
その言葉に渚が目を細めて考え込み、それから「あっ」と声をあげた。
「それってまさかマシンレッグなんかもそうだってのか?」
『そういうことなんだろうね。おそらく彼らは埼玉圏の人間に自分たちのAI入りのパーツを提供することで情報の収集を行い、同時にパーツ同士で経由させて情報のやり取りをしているんだ』
『マア、ソウイウコトダネ。みけ、君ハ優秀ナAIノヨウダ』
デウスがそう言って頷いた。
「じゃあヘルメスが私たちの情報を彼らに与えてしまったと?」
「恐らくはだが。ナギサや俺は、正しくはサイバネストではないから経由はリンダ、君からだろうと予想がつく」
『マーカス、このことを君は知っていたのかい?』
「ああ、この件はコシガヤシーキャピタルや都市の上層部の人間も知っていることだからな」
『そして、知っていながら隠していた……と』
「それが我々人類が機械人からサイバネストという戦力を得るための条件だったからな」
愕然とするリンダの前で、マーカスが「とはいえだ」と口にする。
「本来彼らはそれを外部に漏らしたり、我々に不利益をもたらすことはないはずだったのだが」
『共生関係というわけか。まあ、確かにサイバネストは強力な戦力だ。デメリットよりもメリットが大きいのであれば、使いもするか』
ミケの言葉にマーカスが頷くとリンダが顔を青くして立ち上がった。
「そんな話、聞いていませんわよ」
「もちろんそうだろう。君のような反応があるからこそ伏せられていた。彼らは自身のネットワークの維持にサイバネストを使い、サイバネストはマシンアームなどの力を得る。昔からずっとそうだったのだよ。それにだリンダ。君はこの事実を知ったからと言ってその機械の足を放棄するかね?」
「それは……」
リンダが言い淀む。マシンレッグなしで地上で生きていけるかと言われればなんとも言えない。生きるだけならばできるかもしれない。実際はそうした人間がほとんどなのだ。だが手に入れた力を手放すのは難しい。ここから先を渚と共に歩むのなら尚更だ。だからリンダの口から拒絶の言葉は出てこなかった。
「互いの利益のために見て見ぬ振りをしていたわけだ。今日までは……」
そう言ってマーカスがデウスを睨みつけた。
『怖イ顔シナイデヨ。マア、コッチモコレマデノ信頼関係ヲ壊シテデモ接触スル必要性ガアルッテ判断シタカラコソコウシテ隠サズ話シテイルノサ』
そう言ってデウスが渚を見た。対して渚が訝しげげな視線をデウスに向けながら口を開く。
「必要性ね。そりゃあ、どういうことだ?」
『簡単ナ話サ。君タチノ計画ニ僕タチ機械人モ噛マセテ欲シイトイウコトナンダヨなぎさ』
【解説】
サイバネスト:
一般的にはマシンパーツを身に付けている人間を指すが、その正体は脳幹を通して脳と外部装置を繋げるモジュールを埋め込み、脳と肉体を調整された強化人間である。
現状では機械人がアイテールと交換で施術を行なっている。本来であればまったく等価になっていない高度技術の改造ではあるのだが、機械人は自らのネットワークの確立のためにあえて行なっていた。
なおサイバーは機械人のAIの呼称であり、それゆえの機械人の巣である。




