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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第6章 地下都市
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第199話 渚さんと盗賊狩り

『渚、気付いているよね』


 真夜中。カスカベの町内の駐車場に停めてある武装ビークルの中でミケがそう口にした。対して毛布にくるまっていた渚だが、目は開けており「まあな」と言葉を返す。


「センサーヘッドと同期してるし、周囲の状況は把握できてるよ。まったく安心して眠れやしねえ」


 そう言って渚はピクピクと猫耳を動かしている。見た目こそただの猫耳だが、チップと連動して単体でも高精度なセンサーとなっている上に無線で武装ビークルに設置されているセンサーヘッドとも繋がり、現在この場が何者かによって取り囲まれていることを完全に理解していた。


「ナギサ、どうも外が騒がしい」


 そして後部のキャリアに繋がっているドアを開けたマーカスが武装ビークルに顔を出し、


「むにゃ、なんですの?」

『リンダ、起きてください。問題が発生しています。ミランダ、あなたもセンサーヘッドと接続しているのでしょう。状況を確認してください』

『申し訳ありません。警戒、足りませんでした』


 完全に眠っていたリンダがドアの音で目を覚まし、クロに注意されたミランダが謝罪する。もっとも渚とミランダでは同じ情報を得たとしても、チップによる処理能力の差により出せる答えは違う。改造されているとはいえ、メディカロイドであるミランダでは隠密行動をとっている相手を察知するには至らなかったのである。

 ともあれ全員が目を覚まし、それから運転席にいたミランダも渚からのフィードバックを受けて周囲の建造物に隠れている相手を把握していった。


『なるほど。結構な数ですね。気付きませんでした。ナギサ、処します?』

「処すな。町中だぞ」


 ミランダの言葉に渚が頭を抱える。ウチの看護用ロボットが好戦的過ぎる。対してミケは『それも選択肢のひとつだけどね』と冷静に口にした。


『ただ『片方に』攻撃的意思は感じない。恐らくはもう片方の相手を警戒して出てきたというのが正解だろう』

「んー、だろうな」

「それはどういうことですのナギサ?」

「ちょっと待って。あいよ、ヘルメット付けりゃ見えっだろ」


 リンダの問いに対し渚は武装ビークル内壁の横にかけてあるヘルメットをふたつ、リンダとマーカスに投げ渡した。そしてそれを装着したリンダたちはチップが演算している箱庭の世界ミニチュアガーデンの映像をバイザーモニターに映し、現在の武装ビークルと周囲の状況を正確に把握していく。


『ふむ。これは魔術師ウィザードのものよりも強力だな。予測行動の時間範囲が倍以上は違う』

「ああ。騎士団にもこういうのできる人がいるんだったっけか?」


 渚の問いにマーカスが頷く。周辺の空間情報を習得し、未来予測までを可能とする『箱庭の世界ミニチュアガーデン』はかつての時代においては比較的ポピュラーな技術で渚だけが扱えるというものではない。故に騎士団にも少数だが箱庭の世界ミニチュアガーデンを扱える者がいたのである。そして、得られた情報にリンダが眉をひそめた。


『これは機械人と……武装した人間?』

「みたいだな。どういう状況なんだか知らねーけど」


 渚が訝しげな視線を武装ビークルの外へと向ける。渚達を取り囲む者達の正体、それは機械人と野盗バンディットのふたつのグループであった。




  **********




『チッ、機械人だと?』


 駐車場近くの建物の影から舌打ちが聞こえた。

 周囲のメンバーからも苛立ちの気配がしている。

 その場にいるのはザック盗賊団。オオタキ旅団に属さぬ埼玉圏西側で活動している盗賊団のひとつである。彼らの狙いは、武装ビークルの中にあるブツだ。


『どうします頭?』

『どうするも何もあのビークルん中にゃあ、オオタキ旅団の団長秘蔵の遺失技術ロストテックがあるんだろ。見逃す手はねえさ』


 部下の問いにザックがそう返しながら、持っているライフル銃を握る。


『武装ビークルは確保。機械人と中の人間は殺せ。どうせ旅団にやられて町の防衛力は弱ってる。ブツを手に入れたらとっととズラ』

「ズラかんのかよ。まあ、無理だけどな」

『何?』


 その言葉にザックが振り向くと、そこにはいつの間にか緑髪の少女がいた。アンダーシティのないカスカベの町中ではナノミストが発生せぬため瘴気対策は必須のはずだが、その少女はマスクもつけていなかったのである。


『誰だ、あいつ。自殺志願者か?』

『知るか。だが見られた以上は殺せ。そんで一気に突入だ』


 ザックがそう叫んで銃口を少女に向ける。そして野盗バンディットたちが一斉にトリガーを引いた。少女を蜂の巣にし、そのまま一気に武装ビークルへと突撃する。その算段で彼らは動いたのだが……


『な!?』


 初弾が命中した時点で少女の姿が緑の光と共に霧散した。まるで最初からそこにはいなかったかのように消えたのだ。もっともザックはその現象の正体を知っていた。


『消えた?』

『チッ、フィールドホロだ。警戒しろ。あれは囮だ。本体はどこだ?』


 ザック達が互いに背を預けて周囲を見回す。だが声は彼らの背中から突然聞こえてきた。


「ここだよ」

『な!?』


 全員が驚きの声をあげる。気が付けば少女は男たちの中心にいて、さらには少女の右腕のマシンアームから伸びた八本の補助腕サブアームがガシャガシャと動いてそれぞれ構えた拳銃の銃口を男たち全員の頭部に向けていた。


「動くなよ。銃は届かない位置に投げ捨てて、全員手をあげて地面に腹這いになってろ。三秒待つ。できねえヤツのドタマはブチ抜くぞ」

『クソッタレ』


 ザックがそう悪態をつき、そして全員が銃を投げ捨てると手をあげて地面に伏せた。


(これで良しと。思ったよりゃあ大したことなかったな)


 渚はそう思いながらも周囲を見渡しつつ警戒も緩めない。

 自身に光学迷彩をかけながら武装ビークルの底部の隠し口を使って外に出た渚は、フィールドホロで自分の分身を作って敵を誘導しながら密やかに敵の内側にまで入り込んでいたのである。

 相手が光学迷彩を見破る装備を持っていれば多少厄介なことにもなっていただろうが実際にはそんなことはなく、特に問題もなく野盗バンディットたちの制圧に成功したのである。


『ナギサッ』


 そして渚が全員の拘束を終えた頃、マーカスから通信が入った。

 渚が野盗バンディットを縛り上げている間にマーカスの方は武装ビークルを挟んで反対側の通りにいるであろう機械人の元へと向かっていたのである。


『機械人たちの方は戦闘の意志はないそうだ。話したいことがあると言っているが?』

「了解。この野盗バンディットたちを町の警備に引き渡したら話を聞くって伝えてくれ」


 渚はそう言ってその場で待つことにした。すでにリンダにカスカベアンダーテンプルにいるノックスを呼びに行っていたのだ。

 それからしばらくしてノックスたちが来て渚たちはザック盗賊団を引き渡すと、続けて機械人と話をすることになったのである。


【解説】

猫耳:

 渚の猫耳はいわゆる音を聞くための耳として機能しているわけではない。それはチップと連動した各種センサー、および外部との無線接続用のを行うための拡張器官として存在している。

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