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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第6章 地下都市
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第195話 渚さんと退職と起業

「と、出かける前に外で人を待たせてるんだった」

『ああ。センサーにふたり反応がありますね』


 ミランダの言葉に渚が頷きながらケースに再びハイアイテールジェムを仕舞うと武装ビークルのドアを開けた。すると外にウィンドとマーカスが立っているのが見えてリンダが目を丸くする。


「あら、ガヴァナー・ウィンドとマーカス上級騎士団長ではないですか?」

『ナギサはこの二人を待たせてたんですか。それでコシガヤシーキャピタルのトップのお二方が何故ここに?』


 クロの問いに「見送りだよ」とウィンドが言葉を返す。


「君たちはこの街を救ってくれた恩人だからね。ここの責任者として見送りぐらいはするさ。ま、マーカスの方は別の用事だけどね。最悪あとで合流させようかとも思ったんだけど、どうにかさっき騎士団の引き継ぎが終わってね」

『騎士団の引き継ぎ? それはどういうことでしょう』


 首を傾げたミランダにマーカスが一歩前に出て口を開く。


「うむ、そちらがミランダだな。はじめまして。俺はマーカス・コール。騎士団長の任は先ほど解かれた。つまり今の俺は騎士団の所属ではないということだ」


 その言葉にさらに首を傾げるミランダにマーカスが左腕を見せる。その腕は生身ではなく、マシンアームとなっていた。


「ザルゴとの戦いで左腕が潰れた。これ以上は騎士として戦いは続けられぬ故に後任に譲ったというわけだ。ま、次の団長となる予定の者は今コエドベースにいるので臨時でウルミを代理としたがね」

『戦いは続けられぬ?』


 ミランダがしげしげとマーカスの左腕にカメラアイを向ける。潰れたはずの左腕に付いているマシンアームはファングに酷似しており、つまりそれはファングと対になるハンズオブグローリーシリーズ『ドラグーン』であるようだった。であれば、戦闘力はむしろ以前よりも上がっているだろうとミランダは考えたのだが、そんな疑念の気配を無視してマーカスが話を続けていく。


「そんなわけで俺はこのたびアゲオアンダーシティ復興計画委員会に再就職したわけだ。左のマシンアームがまだ完調ではないのでミランダには頼ることも多いだろうがよろしく頼む」

『ハァ、それはいいのですが……アゲオアンダーシティ復興計画委員会とはなんです?』


 マーカスの言葉にメディカロイドらしからぬ困惑した様子のミランダがそう口にすると、眉をひそめた渚がリンダへと視線を向けた。


「なあリンダ。ミランダには話してないのか?」

「ええ。わたくしもすべて理解し切れているわけではありませんし、ナギサが来てから説明を……と思っていたのですわ」

「ああ、なるほど。あのなミランダ」

『はい』

「実はさ。あたしら、狩猟者ハンターを退職して起業することにしたんだよ」

『起業ですか?』


 ミランダが傾げた首の角度をさらに15度傾けた。


「そっ。そっちのウィンドさんたちのコシガヤシーキャピタル出資の下で廃棄されたアゲオアンダーシティを修理して使えるようにするって仕事だな」

『ほぉ。しかし、それは可能なことなのでしょうか?』


 ミランダから出たのはさらなる疑問だった。もともとミランダはアゲオ村に常駐していたメディカロイドだ。今やダンジョンとなったあのアゲオアンダーシティを修理すると言われても、機械種の説明も満足に受けていないミランダが疑問を呈するのも当然のことであった。


「ま、具体的な部分についても詰めていかないといけねえけどな。なあウィンドさん?」

「そうだね。まずは他の地下都市の理解を得てから修理に関しては実物を見積もって対応していくことになるよ。それとそのビークルの改修もこっち持ちで問題ないからね」

『あ、はい。色々としていただいたようでありがとうございます』

「あー、それさあ。つか、アレなんなんだよ?」


 渚が窓の外に映っている、武装ビークルの前面に設置された妙にゴツい三角の突起物を指差した。渚がいない間に武装ビークルが改修されたことは聞いていたのだが、それにしてもソレはいかつ過ぎた。そして、そこに口を挟んだのはクロであった。


『あれはアイテールラムですね。船の先にあるのと同じ衝角です。突撃して突き刺すこともできますし、地面スレスレに面すれば小型の機械獣なら弾き飛ばすこともできるでしょう』

「なんで、そんなものが付いてるんだ?」

『ザルゴとの戦闘でこのビークルがザルゴに突撃をかけたと聞いています。そこのガヴァナー・ウィンドがその光景を見て、このビークルを気に入ってくれたようでして大幅に改修をしてくれたんです』


 クロの言葉にウィンドがピースして「まあねえ」と返した。


「いやあ、いいよね特攻。それに女の子とマーカスをずっと同じ部屋に居させるのもちょっとアレだから、後ろにキャリアも付けてみたんだよ。どうかな?」


 その言葉の通りに武装ビークルにはアイテールラムだけではなく、以前に提案があった拡張スペース用のキャリアも後部に接続されていた。また見た目では分からないが騎士団の整備士によるフルメンテが行われてり、以前よりも全体的な性能も底上げされている。


「後ろにドアがあるのはそのキャリアってのに通じているわけか。至れり尽くせりだな」

「そうでもないよ。こっから先のことを考えればね」


 ウィンドが少しばかり難しい顔をしてそう返す。


「とりあえずマーカスは後ろに詰め込んででいいから、連れていってよ。こう見えて色々と気配りはできるし、アンダーシティにも顔は利くよ」


 その言葉にマーカスが頭を下げ、リンダは少しだけ考えてから渚を見た。


「ここに連れて来たということはナギサは認めているのでしょうからわたくしは問題ありませんわ。ルークと気が合うかが心配ですけど……あら、そもそも計画委員会にルークは参加してくれるのかしら?」

「そこら辺はルークとライアン局長とも話し合う必要があるだろうなぁ」


 渚がそう言って頭をかいた。この件に関して事情を理解している者はほんの一握りだ。狩猟者ハンター管理局がどう動くかはクキシティにいるライアンと決めなければならないし、ルークが一緒にやるかはルーク自身の意思にもよるだろう。


『渚。狩猟者ハンター管理局もそうだけど、今後についてどうするかはちゃんと分かっているね?』

「分かってるってミケ。狩猟者ハンター管理局でライアン局長に相談して、クキアンダーシティにもハイアイテールジェムを返却するついでにアゲオアンダーシティの改修と機械種の増設の説明もするだろ。まあ、やるって決めたんだ。半端はしねえよ」

「おっと、ようやく市長になる気になったようだね」


 ウィンドの言葉に渚が「へっ」と笑う。


「さてね。ひとまずは目指してはみるさ。考えるよりは動けだ。相応しいヤツがいればそいつに任せるかもしれねえが、ミケもあたしが納得するなら考えるって言ってるしな」

「まあ、気を付けて。君が市長になるにせよならないにせよ、どちらにせよ君がいなくなると全部がパーだ。マーカスも渚をよろしくね」

「あいよ。そんじゃあウィンドさんは吉報を待ってな」

「では行ってまいります母上!」


 渚とマーカスの言葉にウィンドが頷き、そしてマーカスも加えた一行はコシガヤシーキャピタルの首都を出て北へと向かい始める。向かう先はクキアンダーシティ。この世界で今なお文明を維持している地下都市へといよいよ渚も足を踏み入れることとなるのであった。

【解説】

アイテールラム:

 武装ビークルの前面に設置された、アイテールライトによって接触した対象を破壊する兵器。電磁流体装甲と同期することで小型の機械獣程度ならば弾くことも可能である。

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