第173話 マーカスさんとザルゴの闘争
騎士団が一斉にレーザーガトリングを撃ち放った。
向けられた銃身の先から無数の緑の光線がザルゴたちへと注がれるが、それらは正面に立った一機の機械兵ドグウの前で弾かれた。ドグウの伸ばした両腕から発生された不可視の壁がそれらを防いだのだ。
『それは怪腕のものと同じシールドか!』
かつて何度となく野盗と対峙したマーカスは怪腕モランが所持するシールドも知っていた。あらゆる攻撃を弾く不可視の壁。出力差如何ではその防壁を貫くことも可能ではあるはずだが、レーザーガトリングが通らないのであれば防壁を抜くのは難しいと判断するしかない。それを理解したマーカスに老人の笑い声が響く。
『くくく。余所見をしていていいのかねぇ?』
ロデムの声と共にマーカスの背後で悲鳴が響いた。
いつの間にやらドグウが二機、騎士団を攻撃し始めていたのだ。
『二機がすでに回り込んでいただと? チッ、ザルゴ』
『だから余所見をしている場合かなマーカス!』
正面からザルゴが突撃して拳を振るい、それをマーカスはレーザーガトリングの銃身で受けながら踏み留まる。
『光で見えなかったか? それにしても対処が遅い。やはり貴様以外の上級騎士や魔術師がコエドベースにいるのは事実らしい』
ザルゴがそう言って笑う。実際に上級騎士や魔術師と呼ばれる者は首都内にまだウルミを含めて他にもいるのだが、いずれも機械獣を相手に駆り出されている。
『黙れ。この距離ならばッ』
マーカスがすでに亀裂が入ったレーザーガトリングをザルゴに押し付けて手放し、強化装甲機のブースターを逆噴射させて離れた。
同時にマーカスが自壊モードに入れた銃身が爆発し、さらに一歩引いたマーカスが再びザルゴへと突き進み、バックパックに装着していたアイテールブレード二本を抜いて斬りかかった。
『クソッ、届かないか』
しかし双剣は不可視の壁に止められる。
ザルゴの背後に一機のドグウが立ち、それが形成したシールドによって双剣が弾かれたのだ。
『タツヨシも二機に止められているか。ウォーマシンほどではないにせよなんという性能だ』
『それはそうだろう。アレらは貴様らの信頼するウォーマシンの余りでできている。制御までは同じではないが機体性能は近い。見ろ。貴様の部下たちは次々と倒されているぞ』
ザルゴの言葉通り、強化装甲機で武装した騎士たちが一方的に殴られ、蹴られ、原始的な攻撃で倒されていた。局所的なシールドのピンポイントパンチと超加速された蹴りが繰り出されているが、問題なのは異常なまでの相互連携と先読みであった。たった二機のドグウと八機の強化装甲機。その数の差をドグウは機体性能以上の動きをもって圧倒していた。
『情報連携と空間観測、予測機動もだな。魔術師のいない状況で対処は厳しいか。お前たち、背を預けあって隙を作るな』
『無茶を言う。それに魔術師がいればどうにかなるとでも? 百目の箱庭の世界とドグウのヘルズイヤーはマルチプルをしのぐ。時間稼ぎにしかならんよ。っと、早かったな』
直後に鋼鉄の小太りが突撃し、ザルゴがその場から退いた。その背後に二機のドグウが破壊されている姿も見えたマーカスが笑う。
『さすが母上の愛機か』
『タツヨシと呼ばれている機体だな。あの女の大元の……数千年前、今やVRシアターの中でしか見れない人類の黄金期に生きていたオリジナルの友人の名を付けているという話だったな。実際には会ったこともない友人だろうに。女々しいというべきか、健気というべきか』
『黙れ。ひとり身勝手に生み出された母上の苦悩を貴様は知るまい』
叫ぶマーカスの双剣が振るわれるが、ザルゴから伸びている三本の右マシンアームのアイテールライトの拳で防がれる。
『知るつもりはないが、あの宇宙船を維持するためにはアウラを監視できるあの女が必要だ。安心しろマーカス。コシガヤシーキャピタルの人間は皆殺しだが、お前の母親だけは丁重に扱うさ。素直に従う限りは……だがな』
『ふざけたことを。タツヨシ、そいつを殺せ』
マーカスの指示を受けたタツヨシがザルゴに向かうが、しかし弾かれたのはザルゴではなくタツヨシの方だった。
『なんだと?』
『左のドラグーンは使えないが右のファングは健在だ。ハイアイテールジェムとファングの三重ブースターの出力であれば、ウォーマシン相手でもパワーで負けることはないさ』
『だが、この場にいるのはタツヨシだけではないぞ!』
そう言って飛びかかったマーカスの一撃をもザルゴはかわして、さらにはアイテールライトの拳を強化装甲機に叩き込む。
『チィ!?』
マーカスの機体がえぐられるが、削り取られたのは装甲だけでわずかに避けた強化装甲機の動きは止まらない。そしてマーカスの双剣が煌めき、ザルゴもそれを避けて一歩下がる。
『さすがにやる。しかし、お前の自慢の騎士たちはもうお終いのようだ』
ザルゴの言葉に反応してマーカスが周囲を見回すと、マーカスを除いた最後の騎士が崩れ落ちている姿が見えた。
『そら。マーカス、お前とタツヨシだけだ。どうする? ウィンドを俺に渡すか? お前だけであれば、あの女の護衛として生かしてやってもいいぞ』
『貴様ぁああ!』
激情に駆られたマーカスが一歩を踏み出そうとした次の瞬間だった。
『何!?』
『横槍か』
突如として爆発が起こり、ザルゴはドグウの一体が破壊されたことを把握した。そして、それをなした相手をザルゴは知っていた。
『よぉ一日ぶり。いや、まだ二十四時間経ってなかったっけ?』
『ナギサ、また貴様か。どこまでも邪魔をする子供だ』
苦い顔でザルゴが破壊されたドグウの上にいるドクロメットの少女を睨みつけ、緑光の拳を宿した渚がザルゴを睨み返した。それが渚とザルゴ、ふたりの二度目の対峙であった。
【解説】
ドグウ:
廃棄されたウォーマシンのボディをベースにし、テストケースを繰り返した量産兵器を装備させたオオタキ旅団の機械兵。単機でもそれなりに強力ではあるが、百目ロデムを通じての連携は騎士団をも凌駕する。




