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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第5章 首都攻防
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第169話 リンダさんと斬り裂く刃

『クロ、分かっていますわね』

『はい』


 リンダが駆け出すと同時にクロの操作しているブレードマンティスもリンダを庇うように前へと出て走り始めた。それを見てモランが笑う。


『はっ、なるほどなぁ。使えるブレードマンティスは一体だけか。ナギサが居ねえと他は動けねえってことだな』


 その予測は的確であった。モランは渚が操っているブレードマンティスが元はドクのものだったことを、またドクは自身が制御せねばブレードマンティスを操れなかったことも当然知っていた。

 同時にカスカベの町でリンダと遭遇したとき、ブレードマンティスが共にいたことも当然モランは記憶していた。そのときの機体自体はあの場で破壊したが、再びリンダはブレードマンティスを操っていた。今も一体倒した後に別の個体を従えているが他の個体は動かない。停止しているわけではないようだが戦闘に参加する気配はない。

 であれば答えはひとつであった。リンダは渚とは違ってブレードマンティスを複数体操れない。それならばモランにとって大した脅威にはなり得ない。


『二対一か。まあいい。しかし、ただ突っ込んでくるだけじゃこのシールドハンマーの餌食なんだがなぁ』


 クロのブレードマンティスが両手の刃をモランへと振り下ろす。だがそれはモランまで到達せず、空中にある不可視の壁に止められた。


『ブレードは、やはり届か』


 クロの言葉が終わるよりも早く、モランの一撃がブレードマンティスを破壊した。状況は先ほどと同じ。アイテールブレードは通らず、ブレードマンティスのボディではモランの一撃に耐えられない。けれどもクロの役割はそれで十分だった。


『このチャンスを逃しませんわ』


 破壊されたブレードマンティスの後ろには、すでにリンダの姿はなかった。実のところ、クロが前に出たのはリンダの姿を隠すためだった。そして攻撃される瞬間、クロは自身の身体を使って最大限モランの視界からリンダの姿を隠し、その一瞬でリンダはモランにも捉えられぬほどの超加速で移動していた。であれば、その後にリンダがどこに向かったのか?

 それは言うまでもなくモランの死角である背後だ。

 シールドが切れた今なら攻撃は通る。そしてアイテールが詰まっているバックパックを破壊すればシールドも発生することができなくなる。その先にはリンダの確実な勝利が待っている……はずだった。


『斬られた!?』

『ああ、狙ってくるのは分かってた。で、それがどうした?』


 リンダが驚愕の声をあげ、モランが笑いながら首を傾げる。

 そして雷雨の中、びしょ濡れの地面を右の機械の足だけが転がっていった。

 

『武装がシールドだけだと誰が言ったんだリンダ? もちろんシールドハンマーを出せば無防備になるのなんざ俺が一番知っているはずだろ。となりゃあ、当然対策はしているもんだって分かってたと思うんだがなぁ』

『わたくしのヘルメスを……』


 リンダは驚きの顔でモランと転がっている自身の右のマシンレッグを交互に見た。バックパックを斬ろうと蹴りを放った瞬間にマシンレッグが斬り裂かれたのだ。それはモランの数あるシールド発生用の補助腕サブアームとは別の、アイテールブレードが仕込まれた補助腕サブアームによるものだった。


『そいつはオートディフェンサーでな。一瞬の攻撃にも自動で対応できる反応速度を持っているのさ。どれだけの速度だろうと遅れは取らねえよ。さあ死ねっ』

『させませんわ』


 モランの続けての一撃をリンダは左のマシンレッグのブースターを噴かして回避し距離を取った。一本足でもオートバランサーにより倒れるようなことはなかったが、片足を欠いた今のリンダではモランに対して完全に劣勢である。

 

『ははは、しぶとい。しかしモグラが地上に上がってよくもまあ、ここまで来れたもんだ。地下に引きこもってメソメソ泣いてりゃあ良かったものを』

『泣いていればお父様とお母様が帰ってくるわけではありませんわ』

『ハッ、別に俺を殺しても帰ってきやしねえよ』


 モランの言葉にリンダが暗い光を宿した瞳で視線を返した。


『分かっていますわよ。そんなこと。別に両親のため……なんてことを言うつもりはありませんわ。ふたりであればわたくしの今の状況を許すことはないでしょうから』

『だがテメエはここにいるな。何故だ?』

『決まっています』


 リンダの言葉に迷いはない。


『モラン、わたくしはただあなたが生きていることが我慢ならないだけですわ』

『ハッ、いいね。あのときの嬢ちゃんとは思えねえ。ま、だからこそ油断はしねえ。このまま潰す』

『わたくしに斬られなさいモランッ』


 リンダが一本足で加速して距離を取る。攻撃の間合いに入られれば、今のリンダでは言葉通りに即座に潰される。逃げの一手ですら死と隣り合わせだ。


『その足ではもはや勝ち目はねえ。騎士団も頼りになんねえしな』


 その言葉は事実であった。騎士団は現在劣勢だ。元より彼らは主力ではなかったからこそ首都に残っていたメンバーだ。力不足は止むを得ず、モランの配下にも対抗するだけで精一杯。もっともリンダも彼らに頼るつもりはなかった。落ちているブレードマンティスの腕を拾って杖代わりにし、態勢を整えつつモランの周囲を跳び回っていく。


『くくっ、いいねえ。好きだぜリンダ』

『反吐が出ます』


 リンダがそう返しながらセンスブーストを使用し、回避行動から一転してモランへと突撃した。渚と同じ思考と感覚の加速。渚のチップほどの演算能力はないために効果こそ短いが、それでもそれはリンダにとって強力な能力だ。


(一瞬が勝負の決め手。ここを逃したりはしません)


 対してモランには余裕があった。センスブーストによってリンダの知覚が高速化しようが実戦において持ち得る手段というのは限られている。特にこうした正面からの戦闘で実力者は一瞬で最善手を読むため、センスブーストはそれほどの脅威とはなり得ない。直線から来る素直な攻撃など行動予測を使えるモランにとってはただのテレフォンパンチに過ぎないのだ。


(シールドの動きは見切っていますわ)


 リンダがさらに踏み込む。モランのシールドハンマーの軌道を読んで懐に飛び込もうと右下から抉るように動き、一方でモランはそこまでのリンダの行動を読んで回避行動に合わせて直撃するようにシールドハンマーを放とうとして


『ガッ』


 ザクリと……背後からの一撃がモランのバックパックに刺さり、胸部まで緑光の刃が貫いた。しかし、その事実にモランの思考が追いつかない。補助腕サブアームのオートディフェンサーは発動したはずだ。けれども発動すると分かっている攻撃など『ヘルメスの中に宿っているクロ』にとってはただのテレフォンパンチに過ぎない。速いだけならば避けることは容易。そして力場の発生が乱れ、リンダの放った一撃が構成の崩壊した力場ごとモランの身体を斬り裂いた。


『後ろから? こいつは……足?』


 そう、突き刺さっていたのは先ほどモランのオートディフェンサーが斬り飛ばしたリンダの右のマシンレッグだ。そしてマシンレッグ『ヘルメス』には『クロの本体』が宿っている。リンダと分離して足一本になろうとも跳躍とブースターによって単独で攻撃することも可能であった。


『言ってませんでしたわねモラン。わたくしのコンビはナギサだけではありませんのよ。ねえクロ?』

『ええ、卑怯とは言わないでくださいね。そちらも仲間を多く引き連れてやってきているのですから』

『お、ぉぉおおおおおおお!!??』


 次の瞬間には再度の斬撃が二方向より放たれ、モランの機械の身体が十字に切り裂かれた。

【解説】

シールドハンマー:

 モランの操作するナノマシンによる不可視の壁を一点に集中させることで生み出される強力な力場を対象にぶつける大技。

 大量のアイテールと多数のシールド発生装置を必要とするため、発動条件自体が難しい上にコストパフォーマンスも決して良いとは言えない。

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