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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第5章 首都攻防
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第163話 渚さんとスイカの会

「冷えたスイカを用意してありますので、そちらにおかけになってお待ちください。あ、ガヴァナーもですよ。いつもみたいにまたフラフラ出歩かないでください。あんた、すぐどっか行っちゃうんだから」

「はっ、山田くん。この町の最高権力者の威厳を損ねかねないようないわれのない中傷は止めてくれるかな」


 まったく疑いようもないノーミンの注意に抵抗するチンチクリンの姿は滑稽であった。そして渚たちは木のプレハブの前にある椅子に座り、ノーミンの山田はそばを流れる小川へと向かっていく。そして山田は持っていたスイカをその場に置くと、タライと共に固定されて川に浸かっていた別のスイカを手に取って、そばにある調理場に持っていって切り始めたのである。


「ああ。木のプレハブ、雰囲気あるなぁ」

「これが木ですの? 確かVRシアターでも見たことがありますわ」


 渚とリンダの言葉にウィンドがウンウンと頷く。


「やっぱりこういう感じがいいよねえ。それにここの地中には元気な虫もいるんだよ」

「そりゃあ、土が生きてるってことか?」

「そうだね。今の埼玉圏は一度完全に滅却消毒された上で瘴気の壁で覆って黒雨を防いでるから生物の割合は極端に少ないんだよ。それに瘴気は地面の中にまで浸透するし、地下水も抑えてしまうんだよね」

「え、そうなのか?」


 驚く渚に横にいるミケが『そうだよ』と口を開いた。


『まるで血液が開いた傷を覆ってかさぶたにしてしまうように水の流れを止めてしまうんだよ。実際には黒雨を無力化させるところまでで完全に防げているわけではないんだけど』

「ミケくんのいう通りに瘴気が黒雨を浄化した水は飲めるし、アイテールからも作れる。この埼玉海もアイテールから生み出したんだよ」

「は、この湖の水全部がか?」

「あ?」

「あ、海のです」


 睨みつけるウィンドに渚が少しだけ気落ちして訂正の言葉を返した。怖い。


「一旦生み出した水はほとんど浄水しなおして再利用もしてるけど、足さないとやっぱりなくなっちゃうから今も追加はしてるよ。幸いアイテールに関してはそれほど不自由してないからね」

「あー、そりゃあ下のアウラってヤツの?」


 渚の言葉にウィンドが口元に指を当てて、しーっと口にした。


「渚、それはあまり口にはしないほうがいい。余計なトラブルを産むからね」

「あ、ああ。そう……なのか?」

「アウラってなんですの?」


 そのやり取りを横で聞いていたリンダが首を傾げる。リンダはアウラという言葉に聞き覚えがないようだった。


「侵食体と同じだよ。無限の富があるなんて思われると困るから基本は触れ回らない。リンダさん、アウラのことはアンダーシティも機密情報として扱ってる……って言えば分かるよね?」

「は、はいですわ」


 ウィンドの言葉にリンダが恐々と頷いた。知ってはいないが知ってはいけないと理解したのである。その様子に渚が目を細めてウィンドを見る。


「ウィンドさん……てぇか、コシガヤシーキャピタルってアンダーシティとは繋がり薄いと思ってたんだけど結構繋がってるんだな」

「そりゃあね。私たちは各々の領分を侵さないように色々と取り決めをしているからね。外から見ると薄いように見えるのはそのせいじゃないかな」


 接触しないようにあらかじめルールが決まっているのであれば、確かにアンダーシティとコシガヤシーキャピタルの実情と渚の認識に差異があるのも当然ではあった。そのことに渚が「なるほどなぁ」と頷いているとウィンドが「まあ」と口にした。


「少なくともあちらさんは、自分たちに壊滅的な害の及ばぬ限りは私たちみたいな外部との接触は望ましいと考えているようだしね」

「どういうことだよ?」

『問題の発生数が低下することで対処能力が弱体化するのはシステムというものの欠点だよ渚。意図的なエラーを発生させて、防衛機能の保持を続けるというのは昔からある手法さ。君らは彼らにとっては必要な異常というわけだろう』


 その問いにウィンドがにこやかに笑って頷く。


「うーむ、ミケさんは賢いねえ。まあ、そういうことだよ。私たちというレギュラーの対応をすることで彼らのシステムはより堅牢になる。ある程度のイレギュラーとトライアンドエラーを行うことで経験値を得て彼らは成長することを許容しているわけだ。地上都市もコシガヤシーキャピタルもパトリオット教団も彼らにとっては許容できるイレギュラーだ。ただ野盗バンディットは……」

野盗バンディットは?」

「それは……おっと、切れたみたいだね。遅いよ山田くん」


 ウィンドがそう言って会話を打ち切った。どうやら山田がスイカを切り終わったようである。


「すみませんねガヴァナー。ほら、冷え冷えのスイカですから許してください」

「ほっほー、許そう。うん、許そう」


 大事なことなので二回言いました。そして並べられたスイカを見ながら渚が「皮の白い部分が薄いな」と口にした。確かにスイカの断面を見れば大部分が赤い身で占められていて皮も白い部分も本当に薄くある程度だった。


「まあ、色々と品種改良されたものだからね。昔はほとんど白い部分だったらしいけど人間の力ってすごいね。うん、美味しい」


 ウィンドがすでにシャクシャクと食べながらそう答える。


「スイカかぁ。もうどんぐらい食べてないのかも覚えてねえなぁ」


 そもそもが記憶喪失である。

 ともあれ渚はウィンドに勧められるままに切られたスイカをむしゃぶりつくと、それは冷たく、そして甘く、瑞々しかった。


「ああ、美味い」

「本当ですわね。VRシアターとは違う……美味しいですわ」


 渚に続いてリンダがため息をつくようにそう言った。

 現実への喚起を促すためにVRシアターでの食事は本来のものよりも薄い味として設定されている。だからリンダは本物のスイカの味に感嘆せざるを得なかった。


「本当に美味しいですわね」


 染み入るような喜びを見せるリンダの顔を見て、渚は育てるならば、このスイカを……と決断したのである。


【解説】

山田:

 ノーミンを取り仕切っている人。

 ガヴァナーを御することができる数少ない人物のひとり。

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― 新着の感想 ―
海なし県なのをどれだけ拗らせてるんだw
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