第156話 渚さんと首都入場
『スケイルドッグ、本当に多いんだなあ』
『シャッフル後からずいぶんとこの辺りに増えているらしいですわ』
走るビークルの上で渚とリンダは背を向け合いながらそんなことを口にしていた。カスカベの町を出てすぐに渚たちはスケイルドッグの襲撃を受けていた。とはいえ、現在の彼女らにとってそれらを撃退することはそう難しいものではなく、スケイルドッグは全くビークルに近付くこともなく殲滅されていた。
もっとも一度撃退したからと言って警戒を怠ることはできない。むしろ群れがいたということは巣が近くにあるということであり、再び別の群れと遭遇することも少なくはないのだ。その上にカスカベの街からやってくる狩猟者を狙って野盗たちが潜んでいる可能性も十分にあった。
『ふたりとも。おしゃべりもいいけど、すぐに動けるようにはしておいてね。最悪、あのザルゴのファイターバスターモードの一撃が来ないとも限らないし』
『分かってるよ。ま、さすがにそりゃ最悪過ぎるけどな』
ミケの忠告に渚が肩をすくめた。
渚たちはオオタキ旅団の団長であるザルゴに目をつけられている。接触すれば即時戦闘となるのは間違いなく、ふたりは銃を握り締めて緊張しながら移動し続けていたのだが、結局渚たちはその後問題もなく首都コシガヤシーキャピタルの前まで辿り着いていた。
なお、カスカベの町で騒動に巻き込まれはしたものの町へは急ぎで向かっていたことと、終わった後もすぐに解放されたために到着したのは当初の予定通りの同日の夕刻であった。
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『すげえな。でっけえ山……というか、あれクレーターなのかよ?』
ビークルの上に乗り続けている渚が目の前にあるものを見てそう口にする。それは山というには頭頂部が横に広過ぎていた。或いは山を真横に切り裂いて上を取り外したらそうなるような光景がそこにはあった。無論、瘴気に包まれているので見えるのは影だけではあったが。
『ええ、かつて地殻変動を起こした際に大地がせり上がってできた結果とのことですわ』
リンダの言葉に渚が『へぇえ』と声をあげながらも、その光景をしげしげと見続けていた。
『流石に瘴気の霧で山の影しか見えませんけれども、あのクレーターの内側と外側の斜面にはそれぞれ街があるのですわ。外街と内街と呼ばれています』
『ねえリンダ、この場所からでも影が見えるのだから浄化物質の影響が薄いようだけど、あれは内部から漏れたナノミストの影響かな?』
『そうですわねミケ。頂上から中腹にかけてはある程度ナノミストの影響があると聞いていますし』
『じゃあクレーターの内側の空気は安全ってわけか?』
『ええ、コシガヤシーキャピタルのクレーター内はアースシップから出しているナノミストによって守られていますから』
『アースシップ。それが宇宙より落ちて来た宇宙船でしたね』
クロがそう口にする。
アースシップは埼玉圏をこの荒野に変えた地殻変動の原因であるとされている宇宙船だ。なお、現在クロはブレードマンティスを外で走らせつつ、渚とリンダの視界に猫の姿としての自分を映していた。
『宇宙船ねえ。早く見てみたいけど……』
『すぐですわよナギサ。ほら門ですわ。騎士団もおりますわね』
周囲を取り囲む壁を進んだ先にリンダの言う通り、強化装甲機が二機と補助外装を装着している他騎士団らしき者たちが護っている門が見えた。
『お、なんだ?』
そして、渚たちが門のそばまで近付くと凄まじい勢いで彼らは渚たちの元へと向かい、そのまま取り囲んできた。その様子に渚たちが何事かと言う顔をしていると、その場のリーダーらしき男が前に出て口を開いた。
『お前たち、何用だ? ずいぶんと物々しい様子だが』
リーダーらしき男の視線の先にあったのは、武装したビークルとその上に積まれている強化装甲機、さらには並走していた五体のブレードマンティスである。それは誰がどう見ても警戒して然るべき集団であった。
そのことに気付いた渚が少しだけ乾いた笑いを浮かべながら『狩猟者だよ』と返す。
『あたしら、ちょっと荷物を受け取りに来たんだ』
『ほぉ、狩猟者か。随分と若いようだが……しかし受け取りというが、中に入るには推薦状か招待状が必要となるのだが、持っているのか?』
『ああ、ミランダ。出してくれ』
『はい。こちらです』
渚の言葉に反応してビークル内から出てきたミランダがライアンより渡された招待状を男に渡す。それは金属製のカードで、男が受け取って腰に下げた端末を近付けてから頷いた。
『ふむ、優先度大の招待状か。久しぶりに見たな』
『そうなのか?』
首を傾げる渚に男が頷く。
『ああ、お前たちは我々にとって重要な客人というわけだ。であれば問題はない。通れ。ただしおかしな真似をすれば』
『しねえっての』
『招待状をもらったんだ。そういう信頼があるのは理解しているが、けれども武装車両に強化装甲機、ブレードマンティスを五機連れてる武装勢力なんぞ警戒しない方が無理だろう。機獣使い自体珍しいというのにな』
『そりゃあ、まあ確かにな』
恐ろしく説得力のある言葉だ。渚も頷かざるを得ない。
『駐車場はこの門の先の奥だ。係に誘導させるから、そちらに停めておいてくれ。それと中に入れるのは人間だけだ。武装はおいて行ってもらうしブレードマンティスたちも監視させてもらう』
『了解、悪いね。手間かけさせて』
渚の言葉に男が笑う。
『気にするな、仕事だ』
そして男が指示を出して騎士団が門を開けると、ビークルが中へと入っていく。こうして途中の寄り道もあったが渚たちもいよいよコシガヤシーキャピタルへと入ることになったのであった。
【解説】
アースシップ:
アースシップとは船名ではなく船種である。
地球の名を冠する通り、第二の地球としてあるよう内部だけで生物圏を完結させたバイオスフィアの一種でもあり、太陽光をエネルギーとすることで完成している。それは同時に太陽圏外では活動を制限されることを意味しており、結果としてかつて外宇宙生命体の侵攻から逃れるために行われた外宇宙脱出計画には使われず月面基地に数十機放置されていた。
コシガヤシーキャピタルにあるアースシップはそのうちの一機である。




