第155話 渚さんと急ぎの出向
『おや、早かったですね』
野盗たちによる首都コシガヤシーキャピタルの襲撃の可能性あり。そのことを聞いたライアンから緊急で首都に知らせるよう指示された渚たちは予定よりも早くビークルに戻ってきていた。
なお、ミランダの方はすでに強化装甲機を脱いで運転席に座っており、先ほどの戦闘でたいそう暴れたらしいという形跡も見られない様子であった。
「局長にさ。さっさと首都に行けって言われたんだよ。そういやミランダも今回は大活躍だったって局長から聞いてるぜ。また顔見せろとか言ってたけど、気に入られたみたいだな」
『ライアン局長が……そうですか。クキシティに戻った際には調査局に一度訪ねてみます。まあ、活躍したと言ってもそう大したものではありませんが、私視点での映像データは記録してありますし、現在編集中ですのであとで視聴もできますよ』
「マジかよ」
今回ミランダは強化装甲機とガトリングレーザーを用いて入り口付近の野盗を追い払っていたのだが、どうやらそれを本人がいたく気に入ったようであった。
その様子に渚が思い出したように腰に下げていたものを目にすると、それをとってミランダに手渡した。
「そんじゃあさ。こいつはミランダにやるよ」
『これは?』
ミランダが受け取ったソレをしげしげと眺める。
それはモランとの最初の戦いで渚が鹵獲した小型ガトリングレーザーだ。
「野盗から奪い取ったヤツだけど、遺失技術の小型化されているガトリングレーザーだ。こいつならミランダも携帯にはかさばらないだろうし」
『ほぅ』
『ただしね、ミランダ。それはあくまで護身用だ。たとえ小さくても強力な武器だからアイテールの消費も少なくない。使わないのが一番だということは覚えておいておくれよ』
続けてのミケの言葉に対し、ミランダは肩をすくめる動作をして返した。
『ミケは無粋ですね。けれども承知いたしました。とりあえず腹部スペースに入れておきましょう』
そうミランダが返すと自らの腹部ハッチを開いて、その中から出てきた補助腕が器用に小型ガトリングレーザーを掴んで収納していく。そこは元々医療装置を入れるスペースであったのだが、渚が手に入れる前に取り外されて売られてしまっていたため、何も入っていなかったのである。
『実は首都で君の強化パーツが手に入らないかをウルミに調べてもらってもいるんだ。入手可能なものを確認してそちらも検討しよう』
『それは楽しみですね』
「ああ、ミランダがだんだん物騒になっていくのか」
『ガトリングレーザーを渡した君が言えることかい? とはいえ、本業の能力をオミットするような改造はしないから安心してくれ』
「お三方、いつまでもおしゃべりしてないで早く行きますわよ。局長から緊急って言われてるのでしょう?」
『そうですね。急ぎましょう』
後ろから続いてビークルに入ってきたリンダと外にいるクロの言葉に渚が「ああ、そうだな」と言って頷いた。オオタキ旅団の襲撃がいつ始まるかは分からない以上、コシガヤシーキャピタルに早く辿り着いた方が良いのは確実だ。
なお、クロを含めた五体のブレイドマンティスは外で並走する予定である。
「それで、これをこなせばゴールドランクになれますのよね?」
「ああ、局長にはそう言われたよ。ルークとも正式に組ませるってな。今まで正式じゃなかったんだな」
「ルークは調査局御用達でしたし、何かありましたらそちらを優先する義務がありましたから。それが解かれたということでしょうね」
なるほどと言う顔をした渚を見たリンダが少しだけ考え込んでから、眉をひそめた。
「ところでナギサ。なんだか疲れた顔していますわね」
「まあなぁ」
野盗との戦闘以上にドクやライアンとのやりとりの内容の方が渚には精神的には重いものがあったのだ。その上にそれらはまだ解決のめどが立っていない。
「色々と機密情報を知らされて、黙ってなきゃいけないことが増えてさ。ちょっとストレスが溜まってんだよ」
「ああ、地下に降りたと言っていましたね」
「リンダはあの地下のこと、知ってるのか?」
渚の問いにリンダが首を横に振る。
「いいえ。詳しいことは知らされていませんし、知らないということは知らなくてもいい情報ということでしょう」
「そうかもしれないけどさ。知りたいとは思わないのかよ?」
リンダがその問いにも同じように首を横に振った。
「いいえ。アンダーシティの決定は絶対ですわ。口を挟む必要はありません」
「んー、そっか」
「それにしてもゴールドランクですのね。やりましたわねナギサ。アンダーシティに戻るのにまた一歩近づきましたわ」
「あ、ああ。そうだったな」
リンダの言葉に渚はなんとも言えない気持ちで頷いた。
リンダはアンダーシティを信頼している。であれば、やはり話すことは時期尚早か……と。いや、そもそもが渚の最初の目的もアンダーシティの入居だったはずだが、今の渚は自分がそれを望んでいるかは分からなかった。
『方法はふたつ見当がついている』
実のところ、ライアンとの会話のあとにミケがそう提案している。
その内容はどちらも困難で実行可能かも定かではないが、第三の選択を用意し、その上でアンダーシティともコシガヤシーキャピタルとも共存の道を模索することが地上の人間が生き延びる道なのだとミケは口にしていた。
その理屈は分かる。けれども渚はまだ自分がどうしたいのか……という答えを出せていない。
そして、悩む渚を乗せたビークルはカスカベの町を出て南の首都コシガヤシーキャピタルへと走り始めた。
【解説】
ミランダ:
主人たちがあまり怪我もしないし運転手や家事全般以外にすることがなかったため、本来の仕事が出来ず日に日に彼女のAIにもストレスが溜まりつつあった。そんな折、ミランダはストレスを解消するとある仕事と巡り合った。そう、それがお掃除である。




