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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第4章 地の底より
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第151話 渚さんと虚実の報告

「よくやったなナギサ。活躍は聞いてるぜ」

「よくやれてなんかねえよ。ヒッデエ状況だったんだぜ。本当にな」


 野盗バンディットとの戦闘も終わり、カスカベの町内での後始末もある程度終わった頃合いで渚はひとりライアンに呼ばれていた。

 呼ばれた先はアンダーテンプルの地下入り口。今は捕らえていた野盗バンディットたちも連れていかれて、その場にはライアンとミランしかいない。


「けど、お前は町を守り切った。正直に言えば、ザルゴの名を聞いたときは肝が冷えたぞ。あいつが姿を現した場合、こっちのメンツはだいたい全滅しているってことの方が多いからな」


 その言葉を聞いて、渚はさきほどまで対峙していた化け物のような男のことを思い出して目を細めた。ザルゴはリンダにとっての仇のひとりであり、また渚自身もあの男から狙われてもいる。いずれは対峙せざるを得ないことを渚は予感していた。

 それからライアンが視線を渚からミランへと向ける。


「で、ナギサをお連れしましたがね管理官。こいつを呼んだ理由ってのは何です?」


 その言葉からライアンもミランに言われて渚を呼び寄せたものの、その理由までは聞かされていないようだった。


「彼女はアンダーテンプルの事情を知ってしまったし、実際に地下で何が起きているのかも見ているんですよ局長。現状においては得ている情報の深度はあなたよりも深いかもしれない」


 その言葉にライアンが事態の重要性を理解して目を細めた。


「そりゃあ、つまり結晶侵食体のことですかい?」

「ええ」


 カスカベアンダーテンプルの地下にあるアイテール結晶侵食体。

 アイテールを自己供給可能とするその存在をアンダーシティは隠しており、その事実は狩猟者ハンターの間でもライアンのような局長クラスでなければ知られていないものであった。そして、ミランが渚へと視線を向ける。


「ナギサ、あれから何があったのかを教えてくれないかしら。こちらではまったく把握できていませんから」

「ん、記録は残ってないのかよ?」


 渚が眉をひそめてそう聞き返した。施設内には当然監視カメラなども設置してあったと渚は記憶していたのだが、ミランはその問いに首を横に振った。


「記録端末自体が破壊されているのよ。セントラルルームの惨状は直接見たけど、システム自体が侵食されていて恐らくは直すのも無理でしょう。一度アンダーシティから技術士を呼んで設備自体を取り替えるしかないと思うのよね」


 その言葉に渚が首を傾げた。


(どういうことだ?)

『多分だけど、ドクがやったんじゃないかな。聞かれたらまずい会話も多かったし』

(ああ、そうか)


 ミケの指摘に渚が頷くと、ミケが『それと』と口にした。


『ミランには浄化物質の寿命のことは話さないでおいてくれるかな』

(どういうことだ?)

『彼女がそのことを知っているかは分からないけど、あの事実をアンダーシティが把握していないわけがない。となればだよ。君がそのことを知っていると判明すればアンダーシティに狙われる可能性もある』


 ミケの言葉を聞いた渚が眉間にしわを寄せた。

 それはどういう意味だとミケを訝しげな目で見たが、ミケの方は首を横に振って返してきた。


『今はライアンもミランもいる。これ以上の脳内会話は不審がられるよ』

(しゃーねえな。あとで聞かせろよ)


 渚はミケとの対話をそう打ち切ってから、何かを考え込むような仕草をしながらミランに口を開いた。


「ドクとの会話って言ってもなぁ。多分アウラってヤツの話をしたぐらいだぜ」

「アウラとは確か、コシガヤシーキャピタルの下にいるというアレのことか?」

「局長も知ってるのか?」


 渚の問いにライアンが頷いた。


「ああ、話にはな。アイテールでできた数千年生きている化け物。眉唾ものだとは思っていたが、実際にそんなものがいるのか?」

「確実に実在します。アンダーシティは直接的な干渉はしていませんが、この埼玉圏という不毛な地にアイテールの流れがあるのは、太古から生きているあの生命体がパワースポットとして存在しているからです」


 ミランが確信を持った表情でそう答え、それから渚が話を続けていく。


「あたしには正直言っている意味がさっぱり分からなかったんだけどさ。ドクはそいつとアイテール結晶侵食体を繋げて何かの情報を得ようとしていた……みたいだな」

「何かとは?」

「巨大な演算装置として使えるとかそんなことを言ってたし、何でもできそうな感じだったからなぁ。あのドクってのは頭も良さそうだったし、あたしには分からん難しい計算でもするつもりだったんじゃないか?」

「愚かですね。あれは人間が触れていいものではないのに」


 ミランが戦慄した顔でそう呟く。実際、渚もアウラに関しては同じ気持ちであった。少なくとも個人でどうにかなる規模の相手ではないというのは体感として理解していた。


「で、その後はああなったんだけどさ。結局、そのアウラってのと接触してあんな状態になったってことでいいんだよなミランさん?」

「ええ、おそらくはね。アウラは我々とは別種の進化を遂げた新生命よ。神という概念に近い、人間が御せるものでは有り得ない存在だから。それとドクの亡骸も確認しました。本人らしい形をしたアイテールの塊がありましたから。崩れてバラバラにはなっていましたが」


 その報告に渚が口元を引きつらせて苦笑いをする。

 確かにあれを見れば納得するしかないだろうと。ミランもドクが幽霊になって現在は侵食体に取り憑いているなどとは、さすがに思いつきもしないようだった。


「それにしてもナギサ、あの惨状であなたはよく生きていましたね」

「あたしのところに到達する前に止まったからな。部屋の中でも中心から外側に侵食されてった範囲があったろ。あの外にいたんだよ。まあ、ギリギリだったんだけど」


 その渚の説明にミランが「なるほど」と言って頷いた。


「それともうひとつ、尋ねたいことが」

「そりゃあドクとは仲間であったのか……とかか?」


 その会話にライアンがギョッとした顔をする。


「ええ。再生体とも言っていましたね」

「あたしはアイテールで過去の人間を復元させた再生体ってヤツらしいんだよ」

「おい、俺は聞いてねえぞ」

「再生体って知られたら奴隷扱いされかねないって言われてさ。黙ってたんだよ。まあリンダとルークは知ってるけどな」

「奴隷扱い……確かに、そういう扱いがされることがあるのは否定できませんが」


 ミランは再生体についての事情を知っているらしく、ライアンとは違い納得したという顔をしていた。


「あたしも事情はよく知らねえけど、パトリオット教団ってのがやったらしくてさ。まあ、あたしは逃げ出して……多分、ドクも野盗バンディットにいたってことはそうことだったんじゃねえかな?」


 その言葉をミランは素直に受け取ったようで、またライアンにしても驚きはしたものの渚が裏切り者ではないとミランが理解したことに安堵した顔になっていた。


「自身の事情まで話していただきありがとうございます、ナギサ。後ほどアンダーシティより連絡があるかもしれませんが、その時には再び協力をお願いします」

「管理官。あんま、無茶なことはさせんでくださいよ。こいつは正直今のうちの生命線になりかかってるヤツだ」


 ライアンの言葉にミランも頷いた。


「ええ、シャッフル以降の狩猟者ハンターの状況は承知しています。今回の件の恩もある。彼女の不利益にはならぬよう努めますよ」

「頼んますよ」


 ライアンがそう返してから大きく息を吐くと、それから渚を見た。


「で、話が済んだんなら俺の方もナギサに話がある。この後いいか?」

「話?」


 眉をひそめる渚にライアンが頷いた。


「ああ、ちょっとリンダのことでな」

解説】

再生体:

 渚の再生体に対しての認識についてはミランもそう変わらないものであるようだった。

 もっとも、それはつまりミランがその認識を正常だと認識している下地が存在しているということでもある。

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