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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第4章 地の底より
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第140話 渚さんと終末の扉

「じゃあ、どうすりゃいいんだよ?」

「それをどこもかしこも模索中なのよぉ」


 ドクの言葉に渚が眼を細める。つまり現時点では誰も彼もが満足する解決策はないということだろう。少なくともドクは知らない。それにアゲオ村やクキシティで出会った人々も、街の外に暮らすアウターたちもみないずれは死ぬのだろうということであった。そして、その事実は渚自身に対しても言えることだ。アンダーシティに移住できなければ、例えアストロクロウズがあったとしても……そう渚が考えている前でドクは話を続いていく。


「だからアンダーシティはアイテールを貯蓄することでその備えを始めている。禁を破って他のアンダーシティの侵食体を奪ってまでねぇ」

「奪う?」


 その話は渚にとっても意外であった。アンダーシティ同士に争いがあるなど、ここまで渚は聞いたことがない。


「ええと、確か野盗バンディットの記録ではアゲオ村にあなたが向かったって報告が残ってたけど、あそこの廃地下都市って少し前まで問題があったでしょ?」

「ああ……そうだな」


 ドクの言葉に渚はアゲオ村の廃都市化していたアンダーシティ、アゲオダンジョンがつい最近まで閉鎖されていたのを思い出した。


『確か、ミリタリガードが暴れて閉鎖してたんだったよね。明確な原因は聞いていなかったけど』

「表向きはアンダーシティから来た上級市民の探索者トレジャーがアゲオダンジョンの深部に侵入してミリタリークラスのガードマシンが起動してしまった……という話だったはずよ。ただ実際はアイテール結晶侵食体を奪われたアゲオアンダーシティの支配者級ドミネイタークラスAIが警戒レベルを最高にあげたのが原因」


 その指摘に渚が目を丸くする。


「けど、あそこにはもう人がいないし」

「人がいないから地下都市が死ぬわけではないわぁ。住人はいなくなってもAIは生きているし、侵食体も残っていたのよねぇ。幸い盗まれたのは一体だけで、それ以上奪われないように警戒し続けていたってわけ。だからいつまで経ってもミリタリガードは残り続けていたのぉ」


 そう言われれば、なるほどと渚も頷かざるを得ない。確かにガードマシンも動いていたし、内部の施設も完全には死んでいたわけではなかったのを渚は思い出した。そもそも都市が死んでいたらナノミストで瘴気から守られているアゲオ村は存続できないのだ。住人がいないだけで、アゲオアンダーシティはまだ活動し続けている。


「どうやらその後にクキアンダーシティ内のAI同士で揉めて、結局ヘラクレスとかいう狩猟者ハンターがアイテール結晶侵食体を返す形で事態を収拾させたらしいわぁ」


 その言葉に渚がなるほどと頷いた。であれば警戒も解かれるだろうと。

 もっともミケの方は納得がいかないという顔だ。


『その説明は確かなのかい? ヘラクレスとは会ったけど彼は狩猟者ハンター、アンダーシティにしてみれば外部の人間だ。よくアンダーシティのAIが自分たちにとって重要なものを託したりしたよね』

「いいえ、ミケ。彼は人間ではなくウォーマシンらしいわぁ」


 その返しには流石のミケも眼を丸くしてにゃーと鳴いた。


『そうなのかい? いや、確かにウォーマシンのようだとは思ったけど。人間だと僕は認識して……いや、けれど』

『ミケ、あのタイプのウォーマシンは身体のサイズを変えて人間に偽装して侵入することが可能だ。君たちも『ファング』を手に入れているのだからそのことは理解しているはずだけど』


 ミケランジェロの指摘にはミケも言葉を返せない。渚の右腕として付いているファングも元は巨大なロボットのものをリサイズしたものだ。


『ああ、そうだった。うっかりしていたよミケランジェロ。もしかすると認識阻害が行われていたのかもしれない』

「かもしれないわねぇ。ただ、うちの団長が狙ってるから間違いないし」


 その言葉に渚が自分の右腕を見る。オオタキ旅団の団長は渚のファングも狙っているのだ。


「なるほどな。じゃあヘラクレスのあの右腕ってファングなのか?」

「多分ねぇ。近距離のファングと遠距離のドラグーン。偽装してるらしいから気付くのは難しいでしょうけど」


 その言葉に渚とミケが顔を見合わす。

 ゴールドのさらに上であるプラチナクラスの狩猟者ハンター、ヘラクレス。ドクとミケランジェロの言葉が正しければ、その正体は渚が戦闘の要としているファングを含む全身が機械の兵器そのものということになる。


「そりゃあ、強いわけだわな」

『そうだね。それにしても、君たちはよく知ってるね。それらは恐らく隠されている情報のはずだけど』


 ミケの問いにドクが「まあねぇ」と手をヒラヒラとさせる。


狩猟者ハンターに潜り込んでた野盗バンディットがヘラクレスについては報告してくれてぇ、それが私の耳に入ったからぁ、色々と調べてたらぁ芋づる式にここも判明したってわけ。ま、アンダーシティのプロテクトも完璧ではないってことねぇ。数百年侵入がなかったにしても油断がすぎるわ。リソース分配と効率化の弊害かしらねぇ」


 どうやらドクはアンダーシティの情報を盗み見て、それらのことを知ったようである。


「で、話を戻すわねぇ。浄化物質がなくなる件に関しては単純に言って寿命なのよぉ。耐久年数が過ぎて、ナノミストの生産能力が落ちてきている。朝方に瘴気が薄くなってるのは知っているでしょう?」

「ああ」


 だからオービタルリング、天国の円環ヘブンスハイローも朝には見えるのだ。


「あれねぇ。百年前はほとんど青空見えなかったそうなのよぉ」

「見えなかった?」

「だんだん減っていっているのぉ。対して黒雨はおそらく新世代型、機械種の亜種。あっちはコントロールされた癌細胞みたいなもんでぇ、基本耐久年数はなし。少なくともシミュレーションでは万年単位での活動が保証されているらしいわぁ」

「機械種? 機械獣の親戚みたいなもんか?」


 その問いにドクは首を横に振った。


「ブッブー、不正解。機械獣の区分は旧型ぁ。どちらかというと親戚なのはグリーンドラゴンの方かしらねぇ。あれ、機械種だと思うしぃ」


 その言葉に渚が眉をひそめた。それがどう重要かは分からないが、それは非常に意味があるように感じられた。


「黒雨は人間を殺すための手段を模索する自己進化を行うナノマシン。例え、存在しなくともネットワークを介して侵入し、生産環境を整えて、存在しないところからでも出現する。例えばアイテール変換装置にでも繋がったりしたらもう終わり。そこから黒雨は簡単に増殖するわぁ。だから浄化物質はあらゆる通信を遮断する能力を備えているってぇわけね」

『とはいえ、その黒雨相手に人類がこれまで生き残っているのは不自然ではあるから、おそらくは黒雨自身にリミッターがかけられているんだろうね』


 ドクとミケランジェロの言葉には渚だけではなく、ミケも言葉を返せない。


「ま、そういうわけでコシガヤシーキャピタルや野盗バンディットはそれを知って独自に生きる道を模索している。アンダーシティは地上からのアイテール供給が消えることを見越してアイテールを蓄えてる。で、狩猟者ハンターは? 地上の都市の人間は……ということなんだけど?」


 その問いに渚がこれまでのことを考える。けれども地上にいる人たちは、その日を生きることに懸命でそんな未来が来ることを考えて動いているようには見えない。いや、そもそも……


「知ってる人間がいるのか、それ?」

『知らないだろうね。ライアン、リンダ、ウルミ……各コミュニティに属している彼らもそれを知っていたとはちょっと思えない。恐らく各組織の上層部だけが知っていて、事態に備えて動いているんだろう。ところでドク。ひとつ、気になることが』

「何かしら?」

『その『来たるべき日』というのはいつになるんだい?』


 ミケの問いにドクが目を細め、そして立ち止まった。


「そうねぇ。私たちもそれが知りたい。だからここに来た……という意味もあるのよ。ほら、着いたわぁ」


 そうドクが言うと目の前にある扉が開いていく。


「これって!?」


 その扉の先、ドーム型の部屋の中央には円柱のガラス容器があり、中に女性の形をした緑色の水晶像が液体に浮いている状態で飾られていた。その容姿は確かに渚の目の前にいる人物と同じだった。


「そこにいるのってドク、あんたか?」

「ええ、似ているでしょう。いえ、同じはずよぉ。アイテール結晶侵食体。個体名『ディ・マリア』。これが本物の私。前世の私と言った方が正しいのかしらねぇ?」

【解説】

廃地下都市:

 正しく言えばそれは廃棄された都市ではない。人間がいなくなろうとそこにはAIが存在し都市は運営されている。ただ、それは人の目には把握できない。

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