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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第4章 地の底より
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第139話 渚さんと僕らはみんな人でなし

『ここは……なんか綺麗な通路だな? 地下っていうから洞窟の中とか想像してたんだけど』

「どうせ、ビルドマシンにでも造らせたんでしょう。驚くことじゃあないわぁ。ほらこっちよ、ナギサァ」


 その場に倒れているミランをひとまずは安全な場所に置いた渚は、ドクに案内されてカスカベアンダーテンプルの地下へと侵入していた。そこは予想外に整備された場所で、渚は最初に目覚めた軍事基地を思い出しながら歩いていく。それから渚は前を進むドクを見た。


『で、なんだったんだよ。地上にいると死んじまうってのはさ?』


 それは入り口前でもすでに尋ねていた問いだったが、ひとまずは中に入ってからと促されたので渚は肝心の話の中身をまだ聞けていなかった。その問いにドクは「そうねぇ」と言って、口元に手を当てる。


「もうここまで踏み込んだんだからぁいいけど、人と話すときにはヘルメットは脱いだほうがいいんじゃないのぉ。常識的にぃ」

『ん、まあ確かに』


 その指摘に渚が頷く。背後にブレードマンティスがついてきてはいるが、瘴気もなく少なくとも現在敵対していない相手の前ではそうするべきだろうと考えた渚はすぐさまドクロ型のヘルメットを外した。


「そうそう。あら、思った通りの可愛い女の子じゃあ………え?」


 そしてドクが渚の素顔を見て、それから目を丸くした。


「なんだよ? 人の顔をジロジロと」


 渚が訝しげな顔をすると、ドクが少しだけ困った顔をしながら肩をすくめた。


「あ、いや………ごめんなさい。東洋人の顔の違いってぇあんまりないから。多分、他人の空似よぉ。まあ、いいわ。とりあえず話をしてあげる。その前に確認だけど、アンダーシティがアイテールを集めているのは当然あなた知っているわよねぇ?」

「そうだな。ここもそのための施設だって散々話してたよな?」


 渚の言葉にドクが頷く。現在渚たちがいるカスカベアンダーテンプルは、クキアンダーシティがアイテールを採掘するために建造した施設だ。またアンダーシティは狩猟者ハンターたちなどを通じて機械獣からもアイテールを回収している。


「アンダーシティは各都市が自立して運営することが可能なように造られているわぁ。外部からアイテールを補給する必要は本来ないのよねぇ」

「そうなのか?」


 首を傾げる渚に横を歩いているミケが頷いて口を開く。


『まあ、浄化物質は黒雨から身を守るためのシェルターだとしても生身では数時間で死ぬ程度には人体に有害なのも事実だ。当初からそんな場所に人間が住むことを想定していたとは考えにくいし、アイテールを製造して地上のエネルギーの供給源ともなっている機械獣もアンダーシティを製造当初には想定されていたとは思えないよね。少なくとも現在の形でのアイテールの外部供給はイレギュラーな状況なんだろう』


 ミケの言葉にドクが満足そうな顔をして「さすがミケランジェロの兄弟ね」と口にする。


「まったくもってその通り。外からのエネルギー供給を想定していない以上、本来アンダーシティは外からアイテールを供給される必要はない。でも、今はソレを行なっている。その理由は簡単」

「なんだよ?」

「蓄えよ」

「蓄え?」


 首を傾げる渚にドクが頷く。


「そう、必要はないがあるに越したことはない。けれど、来たるべき日がくれば、それが行えなくなる可能性がある。野盗バンディットは一年ほど前に高圧縮のアイテール結晶をクキアンダーシティが別のアンダーシティに運んでいるのも確認している。そうやって分配し、未来に起こるであろう事態に備えてアンダーシティは今動いている」

「一年前? 高圧縮の?」


 その話を聞いて渚は何かしら引っかかるものがあるのを感じた。

 一年前にクキアンダーシティより運ばれた高圧縮のアイテール結晶。それを野盗バンディットが確認した。けれども渚が自分が何に引っかかったのかということに思考が辿り着く前にドクは話を続けていく。


「一方でコシガヤシーキャピタルはアンダーシティの干渉のない独自のコミュニティを作り、備えを進めている。藻粥は実際に埼玉圏をカバーできるほどの生産が可能となっているし、今は緑竜土を用いて食料事情についての問題をクリアしようとしている。とはいえ、来たるべき日がくれば全部を救うことはできない。問題は黒雨の対策だけど、そちらのメドはまだあまり立ってはいないようだから」

「話が見えねえな。結局、その来たるべき日ってのはなんなんだよ?」


 何を話しても問題はそこだった。その日に何が起きるのか………という渚の疑問にドクは答えをあっさりと口にする。


「そうね。それはつまり瘴気、浄化物質が消滅する日が近付いているということなのよぉ」

「瘴気が消える?」


 その言葉に渚が眉をひそめてミケを見た。


「なあミケ。それってマスクなしの生活ができるようになる……ってことにはならねえよな?」

『そうだね。浄化物質は黒雨から人間を守るために設置されたナノミストシェルターの壁そのものだ。瘴気が消えて黒雨がこの埼玉圏に降り注げば、地上の人間は基本的には死に絶えるだろうね』

『現在、地上で主に使用されている防護服では黒雨からは身を守れない。ナギサの着ているアストロクローズクラスのものが必須だ。それ以外にも食料や居住に対しても黒雨対策はどうしても必要になる』


 ミケとミケランジェロの言葉に渚が唸る。であれば、どうするか。そう考えた渚が最初に思いついたのは地下都市だった。


「じゃあさ。瘴気が消えたらみんなをアンダーシティに避難させるってことは………」


 その言葉にミケが首を横に振る。


『アンダーシティがそれを許すことはないよ渚。アンダーシティが成り立つのは人口調整を計画的に行なっているからだ』

『何より市民IDを持たぬ人間をアンダーシティは人間と認識していない。だから地上の人間がどうなろうとそもそもアンダーシティにとってはどうでもいいことなんだよナギサ』


 ミケとミケランジェロの言葉に渚が眉をひそめるも何も言葉を返せない。どうやらそれは単純に解決できるような問題ではなく、或いは埼玉圏の地上は今袋小路に追い込まれている状況だろうなのかもしれなかった。

【解説】

高圧縮アイテール結晶:

 アイテールを高密度に圧縮した結晶体。

 軍用の圧縮装置を必要とするため、通常の手段での製造は困難である。

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