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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第4章 地の底より
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第137話 渚さんと教えてドク先生

『仲間?』


 渚が眉をひそめてそう呟いた横で、ミケがミケランジェロへと口を開いた。


『他愛も無いことだけど質問をいいかな、ミケランジェロ』

『なんだいミケ?』


 どちらもすまし顔で言葉を交わす。


『僕の記憶が確かなら、僕が猫の姿をしているのは渚のプロフィールを見てのものだったはずなんだ。ところが、同じ条件ではない状態で起動したはずの君が僕と同じ三毛猫の姿をしている。僕からの情報がフィードバックされたとは思えないのだけれど、これは偶然なのかな?』


 その問いにミケランジェロが目を細めて『なるほどね』と言葉を返した。


『どうやら君は記録の欠損があるようだね。ミケランジェロシリーズが自身で己の姿を選択する場合、97パーセントの確率で猫の姿を取るんだよ』

『つまり、僕は渚のプロフィールから猫を選択したわけではないということかい?』


 ミケのさらなる問いにミケランジェロは『さてね』と口にした。


『確率が100パーセントではない以上、要因のひとつではあると思うよ。ただ僕たちは本能の部分で猫が自分の姿だと認識している。だから君と僕が同じ姿を選択したとしても不自然ではないさ』

『なるほど、納得がいった。どうやらそれは大元である僕たちのオリジナルに起因しているようだね』

『うん、そうだろうね。理解が早くて助かるよミケ』


 その妙にサバサバとしたやり取りに渚は(なんだ、これ)と思いつつ、クロも黒猫だったな……と思い出した。最近ではロボカマキリという印象しかないが。


「それでミケランジェロ、感動の対面は終わったのぉ?」

『うん、まあね。なかなか話が分かる相手ではあるけど、仲良くなれるかは君と彼女次第かな』


 そう言ってミケランジェロが渚を見た。一方でチップ同士の共鳴で互いのナビゲーションAIが見えているふたりとは違い、渚とドクの会話しか聞こえていないミランの方は混乱状態にあった。


「ど、どういうことかしら? ナギサ、仲間というのは? あなたはあの女と仲間だということなの?」

『さあ? あたしもよくは分からないけど、なんか同じ境遇のやつみたいだぜ』

「同じ? ……いえ、まあいいわ」


 ドクの言葉から渚への疑心が生まれたミランだが、渚の自然な返しにその考えを改める。そもそも渚がドクの仲間ならばもうミランは詰んでいる状態だ。であればと、消極的な選択として渚を信用する前提で挑もうと考えてミランはドクを睨みつけた。


「あなた、ドクと言ったわね。あなたがナギサとどういう関係かは分からないけれども、その先に入るのは止めておきなさい」


 その言葉にドクが「へぇ?」と口にして、ミランを見る。


「私を殺したところでアンダーシティは動かないかもしれない。けれど、その先にあるものに手を出せばアンダーシティは必ずあなたたちを追い詰めるわ。間違いなく、確実に」


 ドクはその言葉にニタニタと笑いながら、頷いた。


「そりゃあ、そうでしょう。アイテール結晶侵食体は貴重だものね。そりゃ、取り戻そうとするでしょう」

「……やっぱり、知っているのね?」

「当然よねぇ。でなけりゃどうしてわざわざこんなところを攻めるのよ?」


 ドクのあざ笑うような声にミランの表情が硬くなる。一方で渚は『アイテール結晶侵食体』という聞き覚えがない言葉に眉をひそめた。


(なあミケ、アイテール結晶侵食体って知ってるか?)

『うん、辞書に登録されているからね。肉体がアイテールの結晶に置換された生体を指すらしい。データベース上で正式に存在が記録されたのは今より4894年前の2038年。当時、起きたアイテールの災害の被害者がアイテール結晶侵食体になったとあるね』

(そんなことが……)

『当時の技術レベルは低くはなかったけどオカルトの類と見られていたようで、アイテールの技術が確立したのは今より千年前だよ。発見から随分とかかったんだね』


 その言葉に渚は先ほどのドクの言葉を思い出す。千年前というのはつまり、ドクのオリジナルが生きていた時代のはずだ。そしてドクが楽しそうな顔で渚に視線を向けた。


「ナギサぁ、アイテールというのはね。本来は存在しない、見えないものなの。けど、それはどこにでもある」

『意味分かんねえ』


 渚が率直にそう返す。そもそも渚はアイテールという存在に対してそれほど興味を持ってはいなかった。この時代で使われているエネルギーという程度の認識でしかなく、自分の理解の及ばないものだろうと最初から知ることを諦めていたのだ。もっとも電池や石油が何でできているのかに興味を持てる人間はそう多いわけではない。


「あら、そう。なら、知らないのであれば覚えておきなさいなナギサ。アイテールとは位相の違うところにあるエネルギーを物質化させたもの。以前から特殊な条件下でのみ観測こそされてはいたらしいのだけれどねぇ。ただ技術として組み込むための安定化した状態、つまりはアイテールという形で供給できるようになったのは千年前なの」

『で、それがアイテール結晶侵食体とどう繋がるんだよ?』

「経緯から言えば、アイテール結晶侵食体の解析によってアイテールを生み出すことができたのだから侵食体はいわばアイテールの生みの親とも言えるわねぇ。そしてアイテールの元となるエネルギーとは地球の生命エネルギー『マナ』。アイテールとは循環する不可視のマナの川から汲みあげられるものなのよ」

『アイテールが地球の生命エネルギー?』


 唐突にオカルティックな話になったことに渚は首を傾げた。或いは馬鹿にされているのかとも考えたが、ドクの表情に嘲りの色はなく、またミケも否定しない。


「そう、龍脈なんて言葉からナーガライン構想や、昔には地球を生命に見立てたガイア理論なんて考えもあったそうだけど……ソレは時代によって活性化と非活性化を繰り返し、今は非活性化の状態であるために地の底に沈んで流れている。で、アンダーシティのエネルギー源はそれってわけねぇ。地下に都市を設計した理由は安全上の問題もあるけど、地下からアイテールを汲みあげるためでもある」

「あなた、それ以上は!?」


 ミランの表情が険しいものになったが、ドクは気にせず話を続ける。


「そして、アイテールを汲みあげる方法がアイテール結晶侵食体ってわけ。ソレをマナの川に浸すことで結晶化を促して採掘する」

『それがアンダーシティのエネルギー源ってわけか』


 納得いったという顔の渚にドクが頷く。


「そういうこと。各アンダーシティにはそれぞれアイテール結晶侵食体が存在しているわぁ。そしてクキアンダーシティは距離を置いたここでもアイテールを採掘できるようにこの施設を作った。そうよねモグラちゃん?」


 その問いにミランは何も言葉を返さない。しかし、ミランの沈黙こそがドクの言葉を何よりも肯定しているように渚は感じた。それからドクがひとり笑う。


「それにね。ついさっき、この地下にある侵食体の個体名を見て、私ちょっと驚いたのよ」

『驚いた?』

「ええ、マリアよ。ディー・マリア。ねえ、面白くない? 私ね。死んだ後、ずっとマッパで晒し者になっていたみたいなの。絶対エロい目で見られていたわ。オカズに使われてただろうし、こっそりオッパイとか吸われてたかも。あらやだ。私、ちょっと死にたくなってきたわ」

「ちょっと、なんの話をしているの? あなた、一体!?」


 言葉の意味をまったく理解できず取り乱すミランにドクが冷たい眼差しを向ける。


「だからさあ。ねえ、モグラちゃん。この顔、覚えない?」


 そう言ってドクが眼鏡を外すと、ミランの表情が固まった。信じられないものを見たような顔をしてドクをまじまじと観察しながら「まさか……」と口にする。

 そのリアクションにドクは満足そうに頷くと、口元を吊り上げてミランを睨みつけた。


「そ、モグラちゃん。あなたの予想はおそらく正しいわぁ。それでね。私は私を取り返しに来たということなのだけれども、それになんの問題があるというのかしら? 人の身体を勝手に使っているあなたたちが私を責める理由を教えてくれない? ねえ?」

【解説】

アイテール結晶侵食体:

 本来は観測できないエネルギーに干渉し物質化させるための媒介であり、アンダーシティのエネルギー確保の核となっている存在。

 なお、2034年に発生した大規模アイテール災害を生き残った被験体が人類が確認できた最初のアイテール結晶侵食体であると記録されている。当時はその原因解明と被験体の症状回復のために家族の協力なども得て様々なデータが収集されたそようで、それは厳重に保管されていたために現在でもデータが残されている可能性が高い。

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