第131話 渚さんと追われている女
『クソッ、探せ。施設の外にはまだ出てないはずだ』
『そうは言っても見つかりませんよ。まさか隠し通路なんてないですよね?』
『それもこっちは全部網羅してるはずなんだ。だから乗っ取れたんだしな』
『じゃあ部屋のどこかか。ドクの手を煩わせると後が面倒だ』
『ああ。頭ん中、弄られかねないな。とっとと探して捕まえるぞ』
外から銃声が鳴り響いているカスカベアンダーテンプル内を野盗たちがそんなことを話しながらドタドタと通路を駆けている。そして、その様子を施設内に無事潜入を果たしていた渚が眉をひそめて観察していた。
『なんだかさっきから騒がしいな。あいつら、あたしを探してるのか?』
『いいや、僕らは見つかっていないはずだよ。どうやら別口みたいだね』
渚の疑問にミケがそう答える。
ノックスより管理官保護の依頼を引き継いだ渚は、その身のこなしと光学迷彩マントによって誰にも気付かれることなくアンダーテンプル内を移動していた。
『話の筋からして、どうも逃げ出した人間を捜索しているようだ。それも生け捕りを目的としているということは逃げた相手はおそらく狩猟者ではなく……あ、渚止まって』
ミケの言葉に従って渚がその場で立ち止まり、それから通路の先を横切ったものを見て(なんだ、ありゃあ?)と心の中で呟いた。
それは四足歩行の機械獣を連れた野盗たちであった。そしてミケが目を細めて機械獣へと視線を向ける。
『どうも、爬虫類の形をした機械獣のようだね。頭部がレーダーのような形をしているから探査系かな? あれにはあまり接近しないほうがいいかもしれないね』
ミケの忠告に渚が頷く。
それからミケが『それで何を話しているのかな』と口にしながら野盗たちの声を拾う。
『フリルドは反応なしか?』
『いえ、微弱に感知はしているみたいですが……隊長、まさか屋外にもう逃げてるってオチはありませんかね?』
『それは大丈夫……ということにしておけ。それにドクが扉をハッキングしているから最悪逃げられてもどうにかなるはずだ』
『けど、開いちまう前にあの地下都市のヤツを見つけないと俺ら無能扱いでしょうなぁ』
地下都市のヤツという言葉に渚とミケが目を合わせる。
(どうやら逃げたのはアンダーシティの管理官っぽいな)
『そのようだね。となればツキが回ってきたかもしれない』
ミケの言葉に渚が頷く。そして手に持っている装置を見た。
その装置についている画面には立体視された仮想空間に光点が映し出されていた。渚もここまでなんのあてもなく移動してきたわけではなかったのだ。
(けど、あいつらの向かっている先……どうも信号の方向と一致してるぜ)
それは現場責任者のノックスが要人警護のためにと持たされていた、管理官の位置が表示された探知装置であった。
瘴気のないこの場所でならば管理官の発している信号を感知して居場所も把握できる。またライフパラメータも表示されており、極度の緊張状態にはあるが身体的な損傷はまだ発生してはいないということも確認できていた。
(にしても、逃げ出せたのか。捕まったのは朝なんだよな?)
『うん。狩猟者の中に紛れていた旅団の一味がここを占拠されたときに捕まったらしいね。地下の入り口も今は閉じられているそうだし、状況は必ずしも悪いばかりではないらしい。僕らも彼らの跡を追おうか渚』
(そうだな)
ミケの言葉に渚は頷いて目の前を通り過ぎた野盗たちの跡を尾けて進んでいく。そして装置と見比べて知る限りはどうやら野盗たちも管理官のいるらしい場所へと進んでいるようであり、そのまま彼らは倉庫の中に入っていった。
「なんで、この場所が!?」
そして中から響いて来た女性の声に渚とミケが頷きあう。
無事に目標は発見。余計なものも一緒にいるが、それは誤差の範囲内だ。
『わめくんじゃねえよモグラ女。静かにしてねえと犯っちまうぞ』
「なッ」
『隊長。そいつはマズいでしょ。すくなくともドクの元にはそのまま持って行きませんと』
『分かってる。お楽しみは終わってからだ。アンダーシティの女ってのはどいつもこいつも小綺麗だからな。地獄村への土産にはちょうどいい』
そのやり取りの間にも渚はスルリと倉庫の中へと入っていく。
一瞬トカゲタイプの機械獣が振り向いたが気付くには至らなかったようで、渚はその反応にヒヤリとしながらも野盗に囲まれている女性の姿を発見する。
「待ってください。身代金なら払います。けれど私に危害を加えようとすればアンダーシティは容赦をしませんよ。地上の人間がアンダーシティに逆らっては」
『うるせえ。アンダーシティの庇護下でもない地上でそんな理屈が通用すると思ってんのかお嬢ちゃん。それに狩猟者連中はお前がいなくなりゃあ市民IDの空きができるわけだろ。どっちかっていうと喜ばれるんじゃねえの?』
『そいつはどうかなぁ』
『あ?』
突如として倉庫内に響いた少女の声に野盗たちが振り向いた直後だ。緑色の光が一筋室内を横切り『GYUPI!?』という機械獣の声が部屋の中に響いたのである。
『おい、フリルドが攻撃されたぞ』
トカゲ型の機械獣に刺さった緑光の刃を見ながら野盗のひとりが声をあげた。だが彼らは未だ状況を把握できていない。
また続けて倉庫の棚がガラガラと将棋倒しになり、それに野盗の視線が釘付けとなったのと同時に囲まれていた女性の前でフワリと弱い風が吹いた。それは光学迷彩マントに包まれている渚が管理官の前に接近したために起きたものだが、この場にいる誰もが気付いてはいなかった。
『ファングはまだ機能が回復してないよ渚』
(ん、問題なし)
『おぶっ!?』
次の瞬間、野盗のひとりが足をよろけさせ、頭部を勢い良く壁に激突させて床に転がった。それは不可視状態の渚が接近し、足払いをしてよろけさせてから強引に頭部を掴んで壁に叩きつけて起きた現象だ。
『隊長!? あ、誰だテメエ ッっとぉ』
戦闘の衝撃で光学迷彩マントの効果が薄れて渚の姿が露出し、それは野盗たちの目にも映った。
だが、それも問題ではない。相手が気付いた時点で渚は先んじてライフル銃のグリップを野盗のみぞおちへと突いていた。さらにはグリップを勢いよく振り上げて顎を砕くほどに叩きつけることで野盗の意識を断った。
(ああ、やっぱりアストロクロウズは使えるなあ)
渚が己の成した動きに、自分のきているスーツの優秀性を実感する。
渚の今の動きはインストールした戦闘技術だけではなく、アストロクロウズによるところも大きかった。現在渚が着ているアストロクロウズと呼ばれるスーツは以前の防護服とは違ってパワーアシスト機能が付いており、体格において劣る身でも十分なパワーを発揮できるのである。
『アストロクロウズの出力はそこまで高いわけではないけどね。それでも身体が羽根になったように感じるんじゃないのかな? それで後ひとりだけど』
倉庫内にいた野盗は三人。その最後のひとりが渚に向かって銃を構えようとしていたのだが、引き金が弾かれることはなかった。
『いや、もう終わってたね』
ミケの言う通り、すでに勝負はついていた。
渚は銃を撃たれる前に鋼鉄の拳を投げつけて野盗の頭部に命中させていたのだ。現在のファングはタンクバスターモード後の影響でまだ機能が回復してはいないが、それでも手動で手首を外すことぐらいはできる。渚はその外した拳を投擲して三人目の野盗を倒したのであった。
【解説】
フリルドリザードリィ:
頭部の周囲に丸いアンテナを持つ探査型機械獣。顎と前足の爪で戦うが戦闘能力は低い。緊急時には立ち上がって二足で高速歩行を行う。
つまりはエリマキトカゲの機械獣なのだが、狭い部屋の中ではその真価を発揮することはなかった。




