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渚さんはガベージダンプを猫と歩む。  作者: 紫炎
第3章 ドラゴンロード
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第123話 渚さんと退却ルート

 渚の右腕から伸びた巨大緑光手刀スーパーチョップで貫かれたサンドサンフィッシュがその場で緑色の爆発を起こした。


『ナギサ!?』

『あ、大丈夫です。中に避難していますよ』


 リンダがその爆発に渚が巻き込まれたのではないかと考えたのだが、クロは扉の中へと渚がすでに退避しているのを確認していた。それから再び扉を開けて出てきた渚が少しだけ冷や汗をかきながらサンドサンフィッシュの破片が散らばる砂漠を見下ろした。


『ヒュー、あっぶねえ。あ……けど、これってヤバくないかミケ?』

『おそらくアイテールシリンダーを貫いてしまったんだろうね。まあ、今の爆発で散ったアイテールの反応を機械獣が気付かないわけはないと思うよ』


 ミケの言葉に渚が『うわあ』という顔をするが、すでに後の祭りだ。

 一番良いタイミングを狙って破壊できたことには間違いなく、気持ちを切り替えようと頷く渚に後ろからリンダが声をかけてきた。


『ちょっとナギサ。いつの間に戻ってきたんですの? わたくし、全然気付かなかったのですけれども』

『いやさ。外が騒がしかったから、扉の監視カメラで確認をして、こっそりと出て状況を見てたんだよ』


 その言葉がそのまま渚の行動の真実だ。

 ガレージを通ってここまで退却してきた渚は外で行われている戦闘に気付き、光学迷彩マントで隠れたまま扉を出て機械獣の隙をうかがっていたのである。結果として、サンドサンフィッシュを苦もなく渚は倒すことができたのだが、リンダは少し涙目であった。何しろリンダは今より三十秒ほど前にバウンドしたサンドサンフィッシュを見て(あら、これ死にますわね)と諦めに似た境地にも達していたのである。涙が出てしまうのもやむを得ないことであった。


『うう、いるならいると教えて欲しかったですわよ』

『悪いな。近距離での通信でも機械獣にはバレることがあるって聞いてたしさ。ま、結果オーライってことで』


 そう言って笑う渚を見たリンダが力が抜けたように肩を落とした。

 もっとも今はまだ戦闘中だ。


『おい。和やかに話してる場合か。まだスズキが残ってる』


 ルークの声に渚とリンダの顔が引き締まる。


『そ、そうですわね。ナギサ、あの小さい機械獣も倒さないと』

『スズキ? 誰? こっちも急ぎだ。さっさとここを離れないと危険なんだよ』

『ああ、そうかい。じゃあこっちで片付ける』


 その言葉の直後、ルークの放ったレーザー狙撃銃が真横に高出力レーザーを薙いで砂柱が上がった。同時に砂の中で幾つかの爆発が起こるのも見え、スズキたちが破壊されたのが確認できた。


『これで仕留めたか? もう温存する必要もないしな。ナギサ、今すぐ逃げるでいいんだな? 緑竜土の回収はしないのか?』

『ああ、説明は後でする。ともかく早く逃げないと全滅するぞ。急げよ』


 焦りのある渚の言葉にただ事ではないものを感じたルークたちはすぐさま退却を開始した。

 そして、それから五分と経たずにその場が機械獣の群れに囲まれることとなったのだが、渚たちはすでに南へと全力で逃げており、それらと接触することはなかったのである。




  **********




『で、ここまで逃げてくりゃあ問題ないか』

『多分な』


 地下通路への出入り口を去ってから三十分。立ち並ぶ岩場の陰にビークル、それにバイクと強化装甲機アームドワーカーが並んで停止していた。


『ねえナギサ。戻ってきて、機械獣倒して、ここまで逃げて……結局あの中はどうなっていたんですの?』


 落ち着いたところでリンダがそう口にする。ここまでの間、リンダたちは渚からはまだ何も聞かされていない。渚の指示に従って、彼らはとりあえず全力で逃げてきたのである。それから渚が岩場の陰から外を見て、何も追ってきてはいないのを確認しながら『そうだなぁ』と口にした。


『ナギサ、モーターモジュールにそのバッグの中身は緑竜土よね?』

『ああ、やっぱりこれがそうなのか。バッグの下にはアストロクロウズも入れてあるぜウルミさん』


 その渚の言葉にウルミが『何!?』と驚きの声をあげた。アストロクロウズ自体は貴重ではあるものの入手可能なシロモノだが、現物が眠っている施設が発見されたとなれば話は別だ。


『ナギサ。つまり、あの中は当たりだったってわけだな?』

『まあな。装甲の厚い強化装甲機アームドワーカーや装甲車もあった。けど……正直あの場所に戻るのは、あたしはちょっと遠慮したいかな』

『どういうことだ?』

『これだよ』


 渚がそう言って自分の端末を取り出して、ルークたちへと画面を見せた。

 そこに映っていたのは、巨大な宇宙船、それに巻きついているグリーンドラゴン、そして周囲に点在している機械獣の群れであった。その異常な光景に、渚を除く見た者全員の表情が硬直した。


『ナギサ……これ、まさかあのそばなのか?』


 唇を震わせながらのルークの問いに渚が頷く。

 メテオライオスどころの話ではない。瘴気の霧によって覆われた先が、想像以上の地獄だと彼らはここでようやく気付かされたのだ。地雷が撒き散らされた危険地帯を知らずに通り抜けていたような感覚に襲われたリンダがブルッと肩を震わせる。


『感じていた圧力はこれか。グリーンドラゴンがまさか留まっているとはな』

『それに周囲にいるのは……機械獣ね。それにやたらと戦闘型が多いわ』


 ウルミも食い入るように画面を見ている。

 メテオライオスやブレードマンティス、それ以外にも少なくない数の機械獣がグリーンドラゴンの周囲に集まっている。


『これは……従えてる? いや、取り囲んでいるんですの?』

『そのようですね。どうであるにせよ、脅威には違いありませんが』


 リンダとクロの言葉にルークが唸る。予想以上の状況に誰もが苦い顔をしていた。


『あのグリーンドラゴンたちの方角の通路の先は砂で埋まっててさ。で、分かれ道を探ってみたら倉庫とガレージがあったんだ。あの通路内に擦り傷をつけた機械獣はガレージから脱出してたっぽかったんだけど』

『外を出たら、これか』


 端末の画面を指差すルークに渚が頷くと、ルークがウルミへと視線を向けた。


『どうする? さすがにこいつは手に余るぞ。騎士団や狩猟者ハンターを集めたところで対処できるものじゃない』


 その言葉にウルミが眉間にシワを寄せながら『そうね』と言葉を返した。機械獣も厄介だが、現状で全長1キロメートルにも及ぶ超巨大生物であるグリーンドラゴンに通用するような兵力を彼らは有していない。


『これはもう緑竜土どころの話ではないわね。ナギサ、一応聞くけど強化装甲機アームドワーカーや装甲車の回収は可能そうだったかしら?』

『バカ言うなよ。ガレージの入り口の先がこれだぜ。どうやって出るんだよ?』


 もっともな渚の返答にウルミが肩をすくめる。万が一の手段があるかの確認をしただけで、元より期待していたわけではないのだ。


『バラして運ぶのも危険よね。あの出入り口も機械獣がウロついてたことを考えると巡回していた可能性は高いだろうし』


 ウルミが悔しそうな顔で自分たちが先ほどまでいた場所へと視線を向ける。


『確かにな。それに俺たちはこの情報を生きて届けないとならない。これは最優先事項だ』

『最優先……そんなに急ぎなのか?』


 首をかしげる渚にルークが『考えてもみろ』と返す。


『シャッフルで機械獣の生息分布が崩れた今、キャラバン用のルートを探すのに狩猟者ハンターたちが動き回っている状況だ』

『その途中でこれと遭遇したら生きて帰れるのは無理でしょうね』


 光学迷彩マントを使っていた渚だからこそ逃れられたようなものだ。気付かれていれば、渚だろうと誰であろうと無事で済んだはずもない。


『ここは以前から何もないとされていた場所だからな。ルート候補としては妥当ではあるし、早く回避するよう連絡しないと犠牲者が次々と出るぞ。いや、もう出てはいるんだろうけどな』


 これまでここの情報が出回っていないという時点で、生きて情報を持ち帰った者がいないのは明白であった。それからルークが頭をかきながら全員を見渡し、次に告げられたのは探索の中断だ。そして、それに反対する者もなく、渚たちはすぐさまその場を後にしたのであった。

 なお、渚たちが持ち帰った情報はその後コシガヤシーキャピタルへと届けられ、埼玉圏内全都市にナメガワエリア一帯の立ち入り禁止が宣告されることとなる。

 もっとも同時に未発掘の軍事基地が存在しているという情報もどこからか流出し、多くの無謀な挑戦者たちが血の海に沈むことにもなるのだが、それはもう少し先の話であった。

【解説】

キャラバン用のルート:

 以前に渚たちも依頼を受けて対応したように現在、埼玉圏内の狩猟者ハンターたちは物資運搬用のルート確保の依頼を受けて動き回っている。当然、安全を確保されていない地域を動き回るのだから犠牲も多いのだが、ルートを確保できなければ食糧難で餓死する町や村も出てくることもあり、ルート確保は狩猟者ハンターたちの急務となっていた。

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