第119話 渚さんとスカベンジャー
(あー、これは途中まですったけど小さくて入れなかったのかな?)
『だねぇ。ここの通路、途中で人用のサイズギリギリまで狭くなってたからね。大型の機械兵器が入ってこれないような構造にあえてしたんだろうね』
渚とミケがそう言いながら入った部屋はどうやら倉庫のようだった。
最初の脇道から続いていたその部屋の中には、いくつものロッカーやコンテナが並んでいた。そしてそれらは今まで手をつけられていなかったようで、特に荒らされた様子もない。
(お、ロッカーは……開いたな)
渚は一番近いロッカーへと手を伸ばして取っ手を手に取ったが呆気なく扉は開いた。その様子にミケが『僕が開けたんだよ』と口にした。
『君が触ったと同時にエネルギーと認証キーを送ったのさ』
ミケの言葉に渚が(へぇ)とよく分かっていない顔で頷きながら、中身を物色していく。
(エーヨーチャージに、こっちはライフル銃。バックパックは非常用の装備一式か。で、ヘルメットと真空パックに包まれた……何かの機械のついた服があるな?)
ロッカーの中身は兵士ひとり分の装備が納められていたようで、渚はその中でも真空パックされた、おそらくは服の一種だろう何かを見て眉をひそめた。
『それはアストロクロウズだよ。渚、つまり宇宙服だね』
(え、となるとここの基地の人間はこれを着て宇宙に行っていたのか? もしかして、ここって宇宙船の発射場だったとか?)
『かもしれないね。確かこれがあれば黒雨の影響下でも活動することが可能だったはずだ。ちょっと開けてみてよ渚』
ミケの言葉に、自分も興味を惹かれた渚が真空パックを開いて取り出すと、それは現在渚が来ている防護服をシンプルにしたような姿へと変わった。そのアストロクロウズに付いている機械にミケがマシンアームから伸ばしたコードを差すと、機械から服へと伸びているラインに緑の光が走る。
(なんか未来的で綺麗だけど……防護服とそんなに変わんないな。で、動くのかミケ?)
『うん。問題はないみたいだ。エアクリーナーも接続可能だし、防護服の上位のものだと思って貰えればいいよ。ただこっちの方が頑丈だし、弾丸の貫通もある程度は防げるようだ。ファングと同じようにナノマシンによる再生処理があるから壊れてもアイテールがあればある程度再生も可能だよ』
(へぇ、そいつは凄いな。それにヘルメットは……)
『そっちはリンダたちが使っているものと、あまり変わらないね』
(て、ことはドクロメットの方がいいってことか?)
自分のヘルメットを触りながらの渚の問いにミケが頷いた。骸骨の姿を模したようなそのヘルメットは、渚自身が気に入っているということもあるが、ミケ曰く性能自体が他のヘルメットよりもかなり高いものだということだった。
『そうなるね。そのドクロメットだけが異常に性能がいいんだよ。遺失技術の一種に分類されるんだろうけど、多分セットとなる専用のスーツがあるんだと思う』
(マジで? まあ格好いいから代える気もないし、このままでいいんだけどさ)
渚がうんうんと頷いている。続けて渚はロッカーの中にある、何かのボックスを取り出した。
(コードを差す穴があるな。なんだ、これ?)
『データストレージだね。ちょっと調べてみよう』
ミケがそう言いながらアストロクロウズからコードを抜いて、ボックスに伸ばして繋げていく。するとボックスからも起動音がして、何かが動作し振動し始めたのが渚にも分かった。
(ミケ、どうだ?)
『ふーむ。あまり大したものはないね。逃げる際のマニュアルとかそんなの。それとレシピのライブラリだね』
(レシピ?)
『アイテール変換のための設計図だ。エーヨーチャージと水は元からあるし、あとはチョコレートとプリンのレシピぐらいかぁ。うーん』
『は? チョコにプリン? 大したことあるだろ、それは!?』
思わず渚が声をあげた。
『渚、声が出てるよ』
『あ!?』
ミケの指摘に渚が慌てて声をひそめる。この部屋の中までは問題ないだろうが、念のために渚は脳内会話でここまでミケと会話をしていたのである。
『それに渚、エーヨーチャージにはチョコレート味があるじゃないか。プリン味は……ないけどさ』
(バッカ。アイテールで作ったものでも一応本物なんだろ? だったら全然別だ!)
エーヨーチャージはあくまで模したものという感じで、本物に比べればボケた味をしていると渚は感じていた。
『そう? まあ、いいけど。置いてある武器はライフル銃だけか。性能は今持っているものと変わらないというか……型落ちだよ』
(そうなのか?)
『うん。違いなんてほとんどないけどね』
(パッとしねえな。なんかこう、すげー強力な武器はこの中にはないのかよ?)
『うーん、どうだろう。強力な兵器って果たしてここにあるのかなぁ。まあ次はコンテナを見てみようか?』
ミケがそう促すと、渚は続けてコンテナを開いていく。
(うーん、ハズレか。こりゃあ)
けれども、その中にあったのはロッカーに入っていたものと同じライフル銃や弾薬箱などだ。また、端っこにロッカーに入っていたものと同じデータストレージが置いてある。
(ミケ、頼む)
『了解。へぇ、こちらは当たりかな』
(マジで? なんだったんだ?)
ミケの言葉に渚が目を輝かせて尋ねる。
『こちらもレシピだけど……こっちはライフル銃と弾丸のレシピだ。アイテールがあれば造れるよ』
(てことは、弾丸作り放題ってことか?)
『いや消費するアイテールの量を考えれば購入した方が安上がりだと思うけど』
(なんだよ、それ)
渚がガッカリした顔をするが、ミケは『仕方ないよ』と返す。
『腕の変換装置だとどうしてもエネルギーロスが大きい。環境が整っている場所で変換するなら買うよりは安くなるさ』
(そういうもんか。まあ、非常用かなぁ)
渚がそう考えるとロッカーを次々と開けてアストロクロウズ四着だけ手に取り、一緒に置いてあったバックパックの中身を取り出してその中に詰め込んでいく。
『四着でいいのかい? まだ数はあると思うけど?』
(この先どうなるか分からないしな。ひとまずは必要分確保だ)
メテオライオスがいた場合には撤退するつもりだし、そうなると再び回収に戻ってこれるかが分からない。
(残りはあとで回収に来れたらこようぜ。じゃあ探索の続きだ)
渚はそう口にすると部屋を出て、次の分かれ道へと向かい始めた。
そして、その先では……
【解説】
アストロクロウズ:
宇宙服ではあるが技術の進歩に伴い、小型化・軽量化されている。
パワーアシスト機能や防弾性能、また自己修復機能などが搭載され、軍用規格としてクリアされた正式装備ではあるのだが、地上で使用するには無用な機能も多く、コストパフォーマンスも高いとはいえない。
本来であればこのような場所にあるはずもないアストロクロウズが基地内に残されていた理由は、この基地が宇宙に由来したものと関係があることを示している。




