第108話 渚さんとその後の相談
『ハァ、終わったぁ』
渚が安堵の息を吐きながらその場で座り込んだ。
戦闘も終わり、動く機械獣もいないのを確認できたことでようやく緊張の糸が切れ、身体を休められるようになったのである。渚はブレードマンティスという過度に緊張を強めさせられるような相手と相対したことは初めてであったため、ここまでで精神力をずいぶんと消耗していた。
『ご苦労さま渚。無事にウルミも救出できたし、強敵と戦ったことで君の経験値も上がったようだ。それにスカラベが残したアイテールも相当な量だし、結果的には今回ここに来たことは間違いではなかったようだね』
そんな風に声をかけてきたミケに渚が苦笑する。
ミケの言う通り、その経験によって渚は自身の身体の使い方をまた向上させたのは事実だし、ジャイアントスカラベやキャリアスカラべがここまで溜めていたアイテールの量も相当なものになりそうだった。少なくとも現状の渚たちだけで持ち運ぶのは不可能だろうというほどに。けれども、今後も同じような状況に遭遇したいかといえば否であった。
『まあ、結果よければってヤツだな。アイテールだけでもビークルがないと厳しいし、ルークたちをこっちに呼ぶしかないな。パーツも諦めるか』
『あら、それは勿体無いわ。土に埋めておけば、結構気付かれないものよ』
近くにやってきたウルミが渚の言葉にそう返してきた。
ウルミもすでに強化装甲機から降りてヘルメットと防護服姿となっていて、ヘルメットの透明なバイザーの中にはヤマト族らしきキリっとした女性の顔があった。
『ウルミさんか。土の中に埋めるって……そんなんで誤魔化せるもんなのか?』
『運も絡むけどね。機械獣もアイテールさえ一緒に埋めていなければ、その場に見えぬものには案外気付かないものなのよ。後は強化装甲機みたいにアイテールの波動を遮断するシールドがあればね。稼働停止させてる必要はあるけど』
機械獣がアイテールを嗅ぎ分ける能力があることは狩猟者の間でも当然のように知られていることだ。最初に渚が目覚めた軍事基地にしても教団の人間が基地を稼働したことで、アイテールの反応を嗅ぎつけてグリーンドラゴンや機械獣が襲ってきたのではないかとミケとは予想していた。
『そういうもんか。じゃあひとまずは売れそうなのは埋めておくかな。ああ、それとさっきはサンキューなウルミさん。あたしらだけじゃあ正直ヤバかったし』
『礼を言うのはどう考えてもこちらの方よナギサ。ケイに聞いたわ。あの子らもあなたたちに助けられたみたいね』
『行きがかり上たまたまさ。それに、こんな世界じゃ助け合わないとな』
渚の返しにウルミが肩をすくめる。
『まあ、縁っていうのは大事よね』
『だろ? つってもあんたならあのままなら逃げ切れたんだろうし、余計なお世話だったのかもしれないけどな』
渚たちが戦う前から土の中に隠れていたウルミを機械獣は探知できていなかったのだから、あのまま隠れていればウルミは戦うことなく逃げられた可能性は高かった。だがウルミは首を横に振る。
『場合によってはジャイアントスカラベに押し潰された可能性もあるし、少なくとも全員無事で生還のめどがたった現状が最適解であるのは間違いないわ。それに……』
ウルミが離れた場所で休んでいるケイを見た。
『私がひとりで帰ってきたら、私を置いて逃げ出したという負い目をあの子に背負わせていただろうし……責任感の強い子だからね』
そう言ってから、ウルミが改めて渚へと視線を戻した。
『ところでケイに聞いたんだけど、あなたアイテールソード欲しいんだって?』
『ああ、もらえるんならな。チェーンソーはあるけど、ああしてザクザクとは斬れないし。もっとも、ありゃ剣そのものよりも腕前の問題なんだろうけどさ』
先ほどの戦闘でのウルミの剣筋は恐ろしいぐらいに精密かつ剛胆で、渚も倒せなかったブレードマンティスをも易々と倒していた。それから渚が思い出したように口を開く。
『けど、さっきの戦闘ではあんたブースター使ってなかった……よな?』
渚はアイテールライトの刃とブースターがセットになって斬撃を行うのがアイテールソードというものだと聞いていたのだが、先ほどの戦いではブースターは使用されていなかった。
『私の強化装甲機が装備しているアイテールソードはタイプ・ムラマサと言ってね。燃費の問題もあるのだけれど、ブースターを使うとあの剣の特性を殺してしまうのよ』
『特性っていうと斬ったときに機械獣のアイテールに干渉してたヤツのことか?』
渚の指摘にウルミの表情に若干の驚きが浮かび上がった。戦闘中に渚がそこまで見ていたとはウルミも想定していなかったようである。
『目が良いわね。そう、ムラマサは斬り裂くのと同時にアイテールを絡め取る極小の糸を無数に射出して瞬時に相手のアイテールを奪う機能があるのよ』
『それが継続して戦い続けられた理由か。とはいえ、あんな近接戦のみで延々と戦い続けるような真似はちょっとしたくはないけどね』
(ミケ……まあ、そうだな)
脳内で話しかけるミケに渚が心の中で頷く。
『それでアイテールソードなんだけど、私の相棒はちょっと譲れない。けど騎士団に保管してあるものなら私の権限でどうにかなるし、希望は叶えられると思う。それ以外の報酬の話もしたいから首都まで一緒にきて欲しいところなんだけど……』
その言葉に渚が考え込む。アイテールソードや報酬は欲しいところだが、渚たちには本来の目的がある。むしろ目の前の彼女たちは、同じ目的を持つライバルのようなものだ。
故にどう返事を返すべきかと悩む渚にウルミが『もしかして』と呟いた。
『そちらの狙いも緑竜土?』
『んー、まあな。野菜が育てられるって聞いて欲しくなったんだよ』
渚が少しだけ言い淀んだものの結局は頷き、言葉を返した。
一度当たりを付けられた時点で誤魔化す意味はなかろうかと。それに緑竜土を探してはいけないと定められているわけではないのだ。であれば、堂々としているべきだと渚は判断した。
それからウルミが少し考えてから口を開く。
『なら、ちょっと提案があるんだけど乗ってみないか?』
そしてウルミが口にしたのは、緑竜土の共同探索の申し出であった。
【解説】
保管方法:
埼玉県内は瘴気の霧によって伝達手段が遮断されるため、視覚的に発見され辛い土の中に埋めて隠すという行為はそれなりに有効であると知られている。
なお機械獣はアイテールに対しては瘴気内でもある程度の感知が可能なため、アイテール元もに埋められている場合にはその限りではない。
※所用により、次回は1回お休みしての9/8(金)更新となります。




